小説タイトル
『恋のイルミネーション物語・第2部 ―外伝『ストロベリームーン☆いちごナイト!』―

ジャンル
青春恋愛小説/アイドル的ラブストーリー/季節物
(全年齢・やさしい恋)
主要登場人物(6名)
1. 星野 るな(ほしの るな)
-
年齢:18歳
-
性別:女性
-
立場:高校2年生、ひかりの親友(ひかりとは永久親友)
-
性格:性恋バナ担当で親友の背中を押す役。いちごとチョコがあれば幸せ。ズレた発言で周囲を和ませる。恋に対してはマイペースで、「急がない恋派」
- 役割:今回の主人公。一応気になる人はいるが、親友と甘いものがあれば満足。誰からも愛されるキャラだが、決してお節介ではなく、ほんの少し背中を押すタイプ
2.桐生 蒼(きりゅう あおい)
-
年齢:19歳
-
性別:男性
-
立場:美術大学1年生
-
性格:穏やかで観察眼が鋭い。感性が豊かで、言葉選びが独特
-
役割:るなの「一応気になる人」。るなの"ズレた発言"を面白がり、自然体で接してくれる。るなが唯一「ちょっとドキドキする」相手
3. 白雪 ひかり(しらゆき ひかり)
-
年齢:18歳
-
性別:女性
-
立場:高校3年生、るなの親友(るなの"永久親友枠")
-
性格:明るい・ちょっと照れ屋・感情表現が素直
-
役割:恋愛の経験者・るなの支え
4. 小日向 まな(こひなた まな)
-
年齢:17歳
-
性別:女性
-
立場:高校2年生で後輩
-
性格:元気で憧れ体質。るなを「るな先輩」と慕っている
- 役割:るなの恋心に最初に気づき、さりげなくサポートする役割。純粋な応援者
5.橘 ゆずは(たちばな ゆずは)
-
年齢:18歳
-
性別:女性
-
立場:高校3年生、るなのクラスメイトでひかりとるなとは友人
-
性格:しっかり者でちょっと毒舌。でも根は優しい
-
役割:るなの恋を外側から冷静にツッコミつつ、実は誰よりも応援している
6. 朝比奈 透(あさひな とおる)
-
年齢:19歳
-
性別:男性
-
立場:大学1年生
-
性格:優しい・落ち着いている・少し不器用
-
役割:白雪ひかりの恋人
舞台・設定
街(イルミネーションのある商店街)
-
場所:
地方都市の高校とその周辺。商店街、カフェ、コンビニ、公園、そして冬から春にかけてのイルミネーションスポット
-
地方都市
-
毎年11月から3月まで
「ウィンターイルミネーション+月1回の冬花火」が行われる街 -
高校・駅前・商店街・川沿いの花火スポット
物語の世界観を特徴づける重要な設定:
-
「るな基準の記念日」という概念。るなは日常の小さな幸せを勝手に記念日化する
-
いちごとチョコという二つの「甘さ」が、恋心のメタファーとして機能
-
「恋は急がなくていい」という、るな独自の恋愛哲学
-
ひかりと透の関係が「ゆっくり育てた恋の成功例」として物語の背景に存在
恋のイルミネーション物語・第2部 ―外伝『ストロベリームーン☆いちごナイト!』―曲
曲紹介『恋のイルミネーションシリーズ』
冬の余韻を抱いたまま、静かに春へ足を踏み出す――
やわらかく、あたたかい春の物語です。
この初夏の物語、第2部 ―外伝『ストロベリームーン☆いちごナイト!』―からオリジナル曲が出来ました。
オリジナル曲「ストロベリームーン☆いちごナイト!」
タイトル:『ストロベリームーン☆いちごナイト!』歌詞紹介
【歌詞】
[Intro]
こんばんは♪
今日は一年に一度の
ストロベリームーン♪
いちご気分で
さあ食べよう♡
[Verse 1]
夕焼け空が
ピンクに染まる
待ち合わせまで
あと少しだけ
お気に入りの
ワンピース着て
笑顔もちゃんと
連れてゆこう
[Pre-Chorus 1]
ほらほら月が
顔を出したよ
胸までふわり
甘くなる
今日は特別な
夜だから♪
[Chorus 1]
ストロベリームーン
きらきらり
空いっぱいに
恋してる
いちごパスタ
くるくるり
甘い魔法で
さあ食べよう♡
いちごミルク
ごくごくり
ほっぺまで
ほんのりピンク
最後はパフェで
ハッピーエンド!
今夜は
いちごナイト!
[Verse 2]
フォークをくるり
笑顔もくるり
思わず月へ
手を振った
クリームふわふわ
いちごがころん
幸せって
こんな味かな
[Pre-Chorus 2]
月の光が
キラリこぼれて
心もふわり
とろけちゃう
願いごとも
浮かべながら♪
[Chorus 2]
ストロベリームーン
ふわふわり
夜空いっぱい
夢になる
いちごパン
るんるるん
今日は全部が
いちごタイム!
いちごソーダ
しゅわしゅわり
笑顔がもっと
あふれてく
いちごモンブラン食べて
大満足!
今夜は
いちごナイト!
[Bridge]
丸いお月さま
見上げながら
今日の幸せ
ありがとう
来年だって
また一緒に
甘い夜を
過ごせますように
[Final Chorus]
ストロベリームーン
きらきらり
空いっぱいの
ごほうびタイム!
いちごケーキ
るんるるん
笑顔あふれる
いちごタイム!
いちごシェイク
るんるるり
幸せずっと
あふれてる
いちごジェラート食べて
ばんざーい!
ストロベリームーン
ありがとう!
また来年も
いちごナイト!
[Outro]
おやすみ
ストロベリームーン♪
また来年も
会おうね♡
るるる〜♪
恋のイルミネーション物語・第2部 ―外伝『ストロベリームーン☆いちごナイト!』―
第1節「一年に一度の甘い満月」
六月の終わり。
昼間の暑さが少しだけやわらぎ、夕暮れの風が街を優しく包み始めていた。
駅前の広場には、小さな赤い旗が並んでいる。
『ストロベリームーンフェア開催!』
その文字を見つけた私は、思わず立ち止まった。
「……ストロベリー!」
目がきらりと輝く。
「るな先輩!」
後ろから元気な声が飛んできた。
振り向くと、小日向まなが大きく手を振っている。
「こんにちは!」
「こんにちは、まなちゃん。」
「もう見ました?」
「もちろん!」
私はフェアのポスターを指差した。
「いちごフェア!」
「そこじゃありません!」
「え?」
「ストロベリームーンです!」
「……あ。」
そうだった。
今日の主役は満月だった。
「るな先輩、絶対いちごしか見てませんでしたよね?」
「えへへ。」
笑ってごまかす。
「否定しないんですね。」
「だって、いちごだから。」
「もう!」
二人で笑っていると、聞き慣れた声が近づいてきた。
「やっぱりここにいた。」
白雪ひかりだった。
「ひかり!」
「こんにちは。」
「こんにちは!」
まなが元気よく頭を下げる。
ひかりはフェアの案内板を見ながら微笑んだ。
「今年はすごいね。」
「ね!」
私は思わず身を乗り出す。
「いちごパスタ!」
「そこなの?」
「いちごパフェ!」
「うん。」
「いちごシェイク!」
「うんうん。」
「いちごジェラート!」
「まだあるの?」
「全部食べたい!」
胸を張って宣言すると、
ひかりは吹き出した。
「全部は無理だよ。」
「えー。」
「るなのお腹、ブラックホールじゃないんだから。」
「ちょっとだけブラックホールかも。」
「認めるんだ。」
また三人で笑う。
その時だった。
商店街のスピーカーから優しいアナウンスが流れる。
『本日はストロベリームーン観賞イベントを開催いたします。夜八時頃、川沿い広場が最も美しくご覧いただけます。』
私は空を見上げた。
まだ月は姿を見せていない。
だけど。
もうすぐ。
一年に一度だけの特別な夜が始まる。
胸の奥が少しだけ、わくわくしていた。
※
商店街を歩き始めると、あちこちのお店から甘い香りが漂ってきた。
焼き菓子。
いちごジャム。
クレープ。
そして、生クリーム。
「……幸せ。」
私は思わずつぶやく。
「るな先輩、顔がとろけてます。」
まなが笑う。
「だって、いい匂いなんだもん。」
「食べる前から幸せそう。」
ひかりまで笑い出した。
「今日は危険な日だね。」
「危険?」
「るなが財布のひもを緩める日。」
「うっ……。」
図星だった。
三人で笑いながら歩いていると、広場の中央に大きな案内板が立っていた。
『ストロベリームーン観賞会 午後八時より』
その横には、小さな説明も添えられている。
ストロベリームーンは、六月頃に見られる満月の愛称です。
甘いいちご色という意味ではありませんが、夏の訪れを感じさせる特別な満月として親しまれています。
私は説明を読み終えると、少し首をかしげた。
「本当にいちご色じゃないんだ。」
「そうみたいだね。」
ひかりがうなずく。
「でも名前がかわいいから好き。」
「るならしい理由。」
「えへへ。」
「私は名前だけでお腹すいてきました!」
まなが元気よく言う。
「まなちゃんも同じじゃん!」
「先輩ほどじゃありません!」
また笑い声が広がる。
そのとき、商店街の照明がゆっくりと灯り始めた。
シャンパンゴールドの優しい光。
派手すぎず、どこか温かい。
夕暮れから夜へ。
街が少しずつ表情を変えていく。
「きれい……。」
私は思わず立ち止まる。
「冬のイルミネーションとは、また違うね。」
ひかりが静かに言った。
「うん。」
「今日は月が主役だから。」
その言葉に、私は空を見上げる。
藍色へと変わり始めた空。
まだ月は姿を見せていない。
でも、もうすぐそこまで来ている気がした。
「川沿いの広場も、この色で飾ってあるらしいですよ。」
まながパンフレットを見せてくれる。
「ライトアップは控えめにして、月や夜景を楽しめるようにしてあるんですって。」
「いいなぁ。」
「自然が主役なんだね。」
ひかりが微笑む。
「恋のイルミネーションの街らしいな。」
その一言に、私は小さくうなずいた。
冬はイルミネーション。
春は桜。
初夏は満月。
季節ごとに違う光が、この街にはある。
だから私は、この街が好きなんだ。
「さあ、そろそろ行こっか。」
ひかりが歩き出す。
「うん!」
「早く行きましょう!」
三人は川沿いの広場へ向かって歩き始めた。
その先では、楽しそうな話し声と音楽が夜風に乗って聞こえてくる。
そして、その人混みの向こうに――
どこか見覚えのある、背の高い人影が一瞬だけ見えた。
「あれ……?」
思わず足を止める。
でも、その姿は人の流れに紛れて、すぐに見えなくなってしまった。
「るな?」
「どうしたの?」
ひかりの声に、私は小さく首を振る。
「ううん……気のせいかな。」
そう言って歩き出した胸の奥は、ほんの少しだけ、いつもより早く鼓動を刻んでいた――。
第2節「みんなで分ければ、もっとおいしい」
午後七時。
商店街は、いつもの夕暮れとは少し違っていた。
赤やピンクを基調にした飾り付け。
いちごのイラストが描かれた旗。
スイーツのお店から漂う甘い香り。
そして、まだ空は青みを残しているのに、人々の笑顔は満月を待ちきれないように輝いていた。
「わぁ……。」
私は思わず立ち止まる。
「かわいい……。」
「るな先輩、もう三回目ですよ。」
まなが笑う。
「でも本当にかわいいんだもん!」
「あっ。」
私の視線がある看板で止まった。
『ストロベリームーン限定スペシャルパフェ』
「……。」
「るな?」
ひかりが横を見る。
「食べたい。」
「知ってた。」
「でも、あっちもある!」
今度は、
『いちごジェラート』
「さらに!」
『いちごシェイク』
「それから!」
『いちごモンブラン』
「るな。」
ひかりが優しく肩に手を置く。
「うん?」
「全部は無理。」
「……ですよね。」
肩を落とした私を見て、まながくすっと笑った。
「だったら。」
「?」
「みんなで分けません?」
「え?」
「そうしたら全部食べられます!」
「……!」
私は勢いよくまなの両肩をつかんだ。
「まなちゃん!」
「はいっ!」
「天才!!」
「えへへ。」
「よーし!」
私は拳を握る。
「今日はシェア作戦だ!」
「そんな作戦名あるんだ。」
ひかりが笑う。
「あります!」
「今決めました!」
三人は顔を見合わせ、大笑いした。
その時だった。
「その作戦、参加してもいい?」
落ち着いた優しい声。
振り返ると、
そこには見慣れた笑顔があった。
「桐生先輩!」
思わず声が弾む。
白いシャツに薄いブルーのカーディガン。
高校生の頃より少し大人っぽくなった雰囲気。
それでも、柔らかな笑顔は変わっていなかった。
「こんばんは。」
「こんばんは!」
私たちは自然と笑顔になる。
「美大、どうですか?」
まなが興味津々で聞く。
「毎日絵ばかり描いてるよ。」
「すごーい!」
「課題も多いけどね。」
桐生先輩は少し照れくさそうに笑った。
その笑顔を見ていると、
なんだか胸の奥がほんのり温かくなる。
「そうだ。」
桐生先輩が屋台を見回す。
「さっき『シェア作戦』って聞こえたけど?」
「あっ!」
私は少し照れながら笑う。
「全部食べたいけど、一人じゃ無理だから……。」
「なるほど。」
「だからみんなで少しずつ食べようかなって。」
桐生先輩は優しくうなずいた。
「それ、いい考えだね。」
「本当ですか?」
「一人で全部食べるより、みんなで笑いながら食べる方がおいしい。」
その言葉に、
私は思わず笑顔になった。
「……はい!」
するとひかりが小さく微笑む。
「るな、今日は食べる担当ね。」
「もちろん!」
「写真は私。」
「じゃあ私は動画撮ります!」
まながスマートフォンを掲げる。
桐生先輩は笑いながら言った。
「じゃあ僕は運ぶ係かな。」
「助かります!」
「ありがとうございます!」
四人は顔を見合わせて笑った。
その笑い声の向こうで、
ゆっくりと夜空に丸い月が昇り始める。
ほんのり赤みを帯びたその満月は、
まるで今日という一日を優しく見守っているようだった――。
※
「それじゃあ――」
私は両手を胸の前で合わせる。
「シェア作戦、開始です!」
「おー!」
まなが元気よく手を挙げる。
ひかりは笑いながらスマートフォンを構えた。
「じゃあ今日は記録係ね。」
「お願いしまーす!」
桐生先輩も優しく笑う。
「僕は買ってくる係かな。」
「助かります!」
四人は屋台が並ぶ通りへ歩き出した。
最初に目へ飛び込んできたのは、大きな写真が飾られた屋台。
『ストロベリームーン限定 スペシャルいちごパフェ』
「これ!」
私は思わず指をさす。
「第一候補です!」
「まだ候補なんだ。」
ひかりが笑う。
「全部第一候補です!」
「順位の意味がないね。」
四人で笑い合う。
続いて見つけたのは、
『いちごシェイク』
『いちごジェラート』
『いちごパン』
「全部かわいい……。」
まなが目を輝かせる。
「写真撮りたいです!」
「食べる前にね。」
ひかりが優しく声をかける。
「はい!」
すると少し離れた場所から、香ばしい匂いが漂ってきた。
「……あ。」
私の足が止まる。
「どうした?」
桐生先輩が振り返る。
「あれ……。」
そこには、
『いちごクリームパスタ』
の文字。
「本当にある……。」
思わず見つめてしまう。
「るな先輩?」
「気になります。」
「挑戦します?」
まながニヤリ。
私は少し考えてから、小さくうなずいた。
「……食べてみたい。」
「決まり!」
「でも、一皿でいいよ。」
桐生先輩が微笑む。
「みんなで分ければ、ちゃんと味も楽しめる。」
「そうですね!」
四人で一皿を注文する。
店員さんが出来たてを運んでくれた。
ほんのり甘い香り。
クリームソースの中に、小さないちごが彩りを添えている。
「いただきます!」
フォークをくるり。
一口食べる。
「……!」
思わず目を丸くした。
「どう?」
ひかりが聞く。
「お、おいしい!」
「本当?」
「最初はびっくりしたけど……。」
私はもう一口。
「クリームと合う!」
「へぇ。」
桐生先輩も少し食べてみる。
「これは面白いね。」
「ですよね!」
まなも笑顔になる。
「甘すぎなくて食べやすい!」
「なんだかクセになります。」
四人で一皿を囲みながら、自然と笑顔がこぼれる。
食べ物を分け合う。
ただそれだけなのに、
心まで少し近づいた気がした。
食後には、大きないちごシェイクを二つ注文して、
ストローを二本ずつ差して飲んでみる。
「冷たーい!」
「おいしい!」
「るな、口の横。」
「え?」
ひかりがティッシュを差し出す。
「クリームついてる。」
「えぇっ!」
慌てて拭く私を見て、
まなが吹き出した。
「るな先輩らしい!」
「もう!」
私まで笑ってしまう。
その様子を見ていた桐生先輩が、小さくつぶやいた。
「こういう時間って、いいね。」
その言葉に三人とも静かにうなずく。
特別なことをしなくても。
高価なものがなくても。
好きな人たちと笑いながら食べる時間は、
それだけで十分幸せなんだ。
ふと夜空を見上げると、
丸い月がゆっくりと高く昇り始めていた。
「そろそろ……。」
ひかりが小さくつぶやく。
「ストロベリームーンの時間だね。」
四人は自然と川沿いの広場へ向かって歩き出した。
一年に一度だけの満月が、
もうすぐ夜空をやさしく照らそうとしていた――。
第3節「願いごとは、いちごの香りと一緒に」
夜もすっかり深まり、公園にいた人たちも少しずつ帰り始めていた。
それでも芝生の上には、ストロベリームーンを見上げる人影がぽつぽつ残っている。
風が吹くたび、木々の葉がさらさらと揺れた。
私はベンチに座りながら、大きく息を吸う。
「……気持ちいい。」
「今日は暑くも寒くもないね。」
ひかりが空を見上げながら微笑む。
「こんな夜、ずっと続けばいいのに。」
「ほんと。」
まなが頷いた。
「時間って、なんで楽しい時だけ早いんだろ。」
「それ思う。」
私は笑った。
「学校もこのくらい早く終わればいいのに。」
「それは先生が泣くよ。」
「たしかに。」
三人で笑う。
少し笑ったあと、また自然と静かになる。
月は少し高くなっていた。
赤みは少し薄れたけれど、それでもどこか優しい色をしている。
私はそっと呟いた。
「ストロベリームーンって、不思議。」
「何が?」
ひかりが聞く。
「赤いだけじゃなくて……
見てると優しい気持ちになる。」
「うん。」
「なんかね……
急がなくてもいいよって言われてる気がする。」
まなが静かに微笑んだ。
「るならしい。」
「え?」
「るなってさ。」
少し照れながら続ける。
「いつも全力だから。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
ひかりも笑う。
「楽しいこと見つけると一直線。」
「甘いもの見つけても一直線。」
「それは否定できない……。」
また三人で笑った。
少し離れた場所では、小さな女の子がお父さんと月を見上げていた。
「おつきさま、いちご!」
そんな声が夜風に乗って届く。
私は思わず笑顔になる。
「かわいい。」
「小さい子って、素直だよね。」
「うん。」
ひかりが頷く。
「大人になると意味ばっかり考えちゃう。」
「でも今日は。」
まなが空を見る。
「『きれい』だけで十分な気がする。」
「そうだね。」
私はゆっくり頷いた。
バッグからスマホを取り出す。
今日撮った写真がたくさん並んでいた。
いちごパスタ。
いちごパフェ。
三人の笑顔。
夕焼け。
そして——
大きなストロベリームーン。
「いい写真。」
ひかりが覗き込む。
「思い出いっぱい。」
「全部保存しよう。」
「もちろん。」
私は画面を見ながら微笑んだ。
「来年見返したら、
きっと今日のこと思い出す。」
「絶対思い出す。」
「その時も一緒に見よう。」
「約束。」
「約束。」
三人の小さな約束が夜空へ溶けていく。
その時だった。
ふわっ……
少し強い風が吹いた。
木の葉がさらさらと舞う。
私は空を見上げる。
月の周りには、柔らかな雲。
その景色が、まるで絵本の一ページみたいだった。
「きれい……。」
思わず声が漏れる。
「ねぇ。」
ひかりが小さく言う。
「願いごと、してみる?」
「願いごと?」
「うん。」
「ストロベリームーンだから。」
「叶うかもしれないよ。」
私は少し考えた。
(願いごとかぁ……。)
いろんなことが頭に浮かぶ。
学校。
友達。
未来。
夢。
恋。
でも——
今、一番願いたいことは。
私は目を閉じた。
(来年も……
また今日みたいに笑えますように。)
それだけで十分だった。
ゆっくり目を開くと、
ひかりも、
まなも、
同じように月を見上げて微笑んでいた。
誰も願いごとは言わない。
言わなくても、
きっと今は同じ夜を大切に思っている。
そんな気がした。✨
第4節「今日という一日を、歌にして」
夜も十時を過ぎる頃。
「そろそろ帰ろっか。」
ひかりのひと言で、三人はゆっくりと立ち上がった。
「もうそんな時間?」
私はスマートフォンを見る。
「えっ、ほんとだ。」
「楽しい日は早いね。」
まなが笑う。
「まだ夕方くらいの気分なのに。」
「わかる。」
私は肩をすくめた。
「あと三時間くらい遊べそう。」
「るな、それ明日学校だったら大変だから。」
「……あ。」
「今気づいた?」
「うん。」
三人は声をそろえて笑った。
公園を出ると、夜風が少しだけ冷たく感じた。
街灯がぽつぽつと道を照らしている。
昼間は賑やかだった商店街も、今は静かな表情になっていた。
「お店、閉まり始めてる。」
「クレープ屋さんも終わりだね。」
「また来よう。」
「もちろん。」
そんな何気ない約束が嬉しかった。
歩きながら、私は今日撮った写真をもう一度見返した。
「見て見て。」
「このパフェ。」
「すごい顔してる。」
「えっ?」
ひかりが画面を覗く。
「るな、完全に幸せそう。」
「そんな顔してた?」
「してた。」
「してたね。」
まなまで頷く。
私は思わず吹き出した。
「だって、美味しかったんだもん。」
「知ってる。」
「写真が証拠。」
「うぅ……。」
照れ隠しに笑うしかなかった。
駅へ続く橋まで来ると、川の水面が月明かりを映していた。
風が吹くたび、小さな光がゆらゆら揺れる。
私は足を止める。
「……きれい。」
「ほんと。」
ひかりも立ち止まる。
「今日はいろんな光を見たね。」
「夕焼け。」
「月。」
「街の灯り。」
「いちごのお店。」
「そして。」
私は空を見上げる。
「ストロベリームーン。」
誰も言葉を続けなかった。
静かな時間。
それだけで十分だった。
「ねぇ、るな。」
ひかりが優しく声をかける。
「ん?」
「今日のこと、忘れないでね。」
「忘れないよ。」
「約束。」
「うん。」
私は大きく頷いた。
「写真もあるし。」
「それだけじゃなくて。」
ひかりは少し照れながら笑う。
「ちゃんと心にも残して。」
その言葉が胸にふわりと降りてきた。
「……うん。」
私はゆっくり答えた。
「ちゃんと残す。」
帰りの電車。
窓の外を流れていく街の明かりを見つめながら、私は今日一日を思い返していた。
いちごパスタ。
いちごミルク。
いちごパフェ。
笑い合った時間。
ストロベリームーン。
そして──
「来年も、また。」
その願い。
私は小さく微笑む。
(この気持ち……。)
(言葉だけじゃ足りないな。)
バッグからイヤホンを取り出し、スマートフォンのメモアプリを開く。
ふと思いついた言葉を、一つ書き留める。
「ストロベリームーン
きらきらり
空いっぱいに
恋してる──」
「……あ。」
思わず笑ってしまう。
「続き、思いついちゃった。」
指が自然と動く。
メロディーまで浮かんでくる。
今日見た景色。
今日聞いた笑い声。
今日感じた幸せ。
全部を閉じ込めるように、一行ずつ言葉を書き足していく。
(この夜は、一日だけじゃもったいない。)
(歌になったら。)
(きっと、来年もまた笑える。)
電車の窓には、穏やかに微笑む自分の姿が映っていた。
遠くの夜空では、ストロベリームーンがまだ静かに輝いている。
まるで「また来年ね」と優しく微笑んでいるように。
その光を胸に抱きながら、私は新しい一曲を書き始めた。
その曲のタイトルは――
『ストロベリームーン☆いちごナイト!』
そんな名前が、今夜はいちばん似合う気がした。🌕🍓
第2部 第3章『夏色のイルミネーション』

テーマ:にぎやかな夏祭りの光の中で、るなが「この時間を終わらせたくない」と初めて強く願う夏。
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」
るな、ひかり、まなが浴衣姿で駅前に集合。いちごヘアピンをつけたるなは少しそわそわ。そこへ桐生先輩が現れ、「似合ってるね」と言われて胸が高鳴る。
第2節「夜店の灯りと、甘い寄り道」
四人で夜店を巡り、りんご飴やかき氷を楽しむ。るなの食いしん坊ぶりが炸裂しつつ、桐生先輩と同じものを分け合う瞬間に、少しだけ特別な気持ちを感じる。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」
打ち上げ花火のクライマックス。るなは桐生先輩と少しだけ二人きりになり、「楽しかったね」と言うだけで胸が苦しくなる。まだ「好き」とは言えないけれど、この時間が終わってほしくないと強く思う。
第4節「夏色のイルミネーション」
祭りの帰り道、夏限定のイルミネーションが商店街を照らす。花火の光は一瞬で消えるけれど、心に残る光は消えない。るなはこの夜の気持ちを、いつか歌にしたいと思う。
恋のイルミネーション物語・第2部 第3章『夏色のイルミネーション』曲紹介
この物語から新たに曲が出来上がりました。『夏色のイルミネーション』
タイトル:『夏色のイルミネーション』歌詞紹介
【歌詞】
[Intro]
こんばんは♪
今日は一年に一度の
ストロベリームーン♪
いちご気分で
さあ食べよう♡
[Verse 1]
夕焼け空が
ピンクに染まる
待ち合わせまで
あと少しだけ
お気に入りの
ワンピース着て
笑顔もちゃんと
連れてゆこう
[Pre-Chorus 1]
ほらほら月が
顔を出したよ
胸までふわり
甘くなる
今日は特別な
夜だから♪
[Chorus 1]
ストロベリームーン
きらきらり
空いっぱいに
恋してる
いちごパスタ
くるくるり
甘い魔法で
さあ食べよう♡
いちごミルク
ごくごくり
ほっぺまで
ほんのりピンク
最後はパフェで
ハッピーエンド!
今夜は
いちごナイト!
[Verse 2]
フォークをくるり
笑顔もくるり
思わず月へ
手を振った
クリームふわふわ
いちごがころん
幸せって
こんな味かな
[Pre-Chorus 2]
月の光が
キラリこぼれて
心もふわり
とろけちゃう
願いごとも
浮かべながら♪
[Chorus 2]
ストロベリームーン
ふわふわり
夜空いっぱい
夢になる
いちごパン
るんるるん
今日は全部が
いちごタイム!
いちごソーダ
しゅわしゅわり
笑顔がもっと
あふれてく
いちごモンブラン食べて
大満足!
今夜は
いちごナイト!
[Bridge]
丸いお月さま
見上げながら
今日の幸せ
ありがとう
来年だって
また一緒に
甘い夜を
過ごせますように
[Final Chorus]
ストロベリームーン
きらきらり
空いっぱいの
ごほうびタイム!
いちごケーキ
るんるるん
笑顔あふれる
いちごタイム!
いちごシェイク
るんるるり
幸せずっと
あふれてる
いちごジェラート食べて
ばんざーい!
ストロベリームーン
ありがとう!
また来年も
いちごナイト!
[Outro]
おやすみ
ストロベリームーン♪
また来年も
会おうね♡
るるる〜♪
恋のイルミネーション物語シリーズ 第2部 第3章『夏色のイルミネーション』
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」
窓の外から、遠くで鳴る祭り囃子が聞こえてきた。
太鼓の音。
笛の音。
人々の笑い声。
夏の夕暮れは、まるで街全体がそわそわしているみたいだった。
「るなー、まだー?」
一階からお母さんの声が聞こえる。
「もう少しー!」
私は鏡の前で、何度目か分からない確認をしていた。
水色の浴衣。
白い帯。
そして、髪につけたいちごのヘアピン。
「……うん。」
小さく頷く。
でも、もう一度鏡を見る。
「変じゃないかな……。」
髪を少し整えて、また見る。
「るな、十分かわいいって。」
自分で自分に言い聞かせる。
「たぶん。」
「きっと。」
「……うん。」
でも、胸のドキドキはなかなかおさまらない。
今日は夏祭り。
ひかりとまなと、そして——桐生先輩も来る。
そのことを思うだけで、頬が少し熱くなった。
「るなー!」
「はーい!」
私は慌てて部屋を出る。
階段を降りると、お母さんが玄関で待っていた。
「わぁ、るな。」
「似合ってるじゃない。」
「ほんと?」
「ほんとほんと。」
お母さんは嬉しそうに笑う。
「水色、るなにぴったりね。」
「えへへ。」
少し照れくさくて、私は帯をぎゅっと握った。
「でも、一番かわいいのはそのヘアピンかも。」
「いちごの?」
「うん。るなって感じ。」
私は思わず笑ってしまう。
「お母さんまでそんなこと言うー。」
「だって本当だもの。」
お母さんは私の髪をそっと整えてくれた。
「楽しんでおいで。」
「うん!」
「食べすぎないようにね。」
「……。」
「るな?」
「……がんばる。」
お母さんが吹き出した。
「その間が怪しい。」
「だって夏祭りだよ?」
「りんご飴も、かき氷も、焼きそばもあるんだよ?」
「うんうん。」
「食べないなんて無理だよ。」
「やっぱりね。」
二人で笑い合う。
その笑い声が、少しだけ緊張をほぐしてくれた。
駅前に着くと、空はまだ夕焼けの色を残していた。
オレンジと紫が混ざり合った空。
街灯が一つ、また一つと灯り始める。
「るな先輩ー!」
元気な声が聞こえた。
「まな!」
振り向くと、まなが手を振って走ってくる。
ピンク色の浴衣に、白い帯。
いつも元気なまなにぴったりだった。
「わぁ、るな先輩!」
「めちゃくちゃ似合ってます!」
「ほんと?」
「ほんとです!」
まなは目を輝かせる。
「その水色、すごくきれい!」
「ありがとう。」
「それに、いちごヘアピンも!」
「やっぱりつけてきて正解ですね!」
私は少し照れながら笑った。
「まなもかわいいよ。」
「えへへ、ありがとうございます!」
まながくるりと回る。
浴衣の裾がふわりと揺れた。
「ひかり先輩はまだですか?」
「まだみたい。」
「珍しいですね。」
「うん。」
その時だった。
「ごめーん!」
少し離れたところから、ひかりの声が聞こえた。
「ひかり!」
「待った?」
ひかりは息を切らしながら駆け寄ってくる。
淡い黄色の浴衣に、金魚の柄。
夕焼けの光に照らされて、ひかりがいつもより大人っぽく見えた。
「うわぁ……。」
私は思わず声を漏らす。
「ひかり、すごく似合ってる。」
「ほんと?」
「うん、かわいい!」
まなも大きく頷く。
「ひかり先輩、金魚柄めっちゃ似合います!」
「ありがとう。」
ひかりは少し照れたように笑った。
「でも、るなの方がかわいいよ。」
「えっ。」
「その浴衣、すごく似合ってる。」
「いちごヘアピンも完璧。」
「ひかりまでー。」
私は頬を押さえる。
「もう、二人とも褒めすぎ。」
「だって本当だもん。」
「ねー。」
二人が顔を見合わせて笑う。
「……なんか、今日の二人怖い。」
「えー、なんで?」
「るながかわいすぎるから。」
「そうそう。」
「もう!」
私は思わず笑ってしまった。
三人で駅前の時計を見る。
待ち合わせの時間まで、あと少し。
「先輩、来るかな。」
まなが小さく言った。
その言葉に、私の心臓がまたドキンと鳴る。
「来るよ。」
ひかりが優しく言う。
「桐生先輩、約束守る人だもん。」
「うん。」
私は小さく頷いた。
でも、なぜかそわそわしてしまう。
浴衣、変じゃないかな。
ヘアピン、つけすぎじゃないかな。
笑顔、ちゃんとできてるかな。
そんなことばかり考えてしまう。
「るな。」
「ん?」
「緊張してる?」
ひかりがにやりと笑った。
「してない!」
「してる顔だよ。」
「してないもん!」
「耳まで赤い。」
「えっ!?」
私は慌てて耳を隠す。
まながくすくす笑う。
「るな先輩、わかりやすすぎます。」
「まなまでー!」
その時。
「こんばんは。」
優しい声が、三人の後ろから聞こえた。
私はゆっくり振り向く。
そこには、紺色の浴衣を着た桐生先輩が立っていた。
夕焼けの光の中で、先輩が少しだけ眩しく見えた。
「……こんばんは。」
私の声は、自分でも驚くほど小さかった。
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」②
「こんばんは。」
優しい声が、夕暮れの駅前にふわりと響いた。
私はゆっくり振り向く。
そこには、紺色の浴衣を着た桐生先輩が立っていた。
白い帯がすっきりと映えて、いつもの制服姿とはまるで違う。
夕焼けの光を背にした先輩は、少しだけ大人っぽく見えた。
「……こんばんは。」
自分でも驚くほど小さな声が出る。
「こんばんは、先輩!」
まなが元気よく頭を下げた。
「こんばんは。」
ひかりも笑顔で挨拶する。
桐生先輩は三人を見渡して、ふっと微笑んだ。
「みんな、浴衣すごく似合ってるね。」
「ほんとですか!?」
まながぱっと顔を輝かせる。
「うん。まなは元気な雰囲気にぴったりだし、ひかりは金魚柄がすごく上品。」
「ありがとうございます。」
ひかりが少し照れたように笑う。
そして先輩の視線が、ゆっくりと私に向いた。
「るなも。」
「えっ。」
「その水色の浴衣、すごく似合ってる。」
一瞬、時間が止まった気がした。
「……。」
言葉が出ない。
胸の奥で、何かがふわっと弾ける。
「るな先輩、固まってます。」
まなが小声で言う。
「ほんとだ。」
ひかりもくすっと笑う。
「るな?」
桐生先輩が首をかしげる。
「あ、あの!」
私は慌てて口を開いた。
「ありがとうございます!」
声が少し裏返る。
みんなが一瞬きょとんとして、次の瞬間、笑い声が広がった。
「そんなに緊張しなくても。」
桐生先輩が優しく笑う。
「だって……。」
私は頬を押さえる。
「急に褒められると思わなくて。」
「本当のことを言っただけだよ。」
その言葉に、また胸がどきんと鳴った。
ひかりが横でにやにやしている。
「るな、顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「夕焼けのせいだもん!」
「へぇ〜。」
まなが意味ありげに笑う。
「夕焼けって、そんなに顔赤くなるんですね。」
「まなまでー!」
私は思わず両手で顔を隠した。
桐生先輩は困ったように笑いながら、そっと話題を変える。
「そろそろ行こうか。お祭り、始まってるみたいだし。」
遠くから、太鼓の音が聞こえてくる。
どん、どん、どん。
笛の音も重なって、夏祭りの空気が一気に近づいてきた。
「行きましょう!」
まなが元気よく言う。
「うん!」
私も大きく頷いた。
四人で商店街の方へ歩き始める。
空はだんだんと藍色に染まり、街灯が一つ、また一つと灯っていく。
「わぁ、見てください!」
まなが前を指さした。
商店街の入口には、夏限定のイルミネーションが飾られていた。
シャンパンゴールドの小さな灯りが、木々の間でやさしく揺れている。
「きれい……。」
私は思わず立ち止まる。
「冬のイルミネーションとは違うね。」
ひかりが空を見上げる。
「うん。」
桐生先輩も頷いた。
「夏の光って、なんだかあったかい。」
「冬はキラキラしてるけど、夏はふわっとしてる感じ。」
私が言うと、先輩が微笑んだ。
「るならしい表現だね。」
「えっ。」
「光を見て、ちゃんと温度まで感じてる。」
私は少し照れながら笑った。
「そんな大げさな。」
「大げさじゃないよ。」
先輩の声は、夜風みたいにやさしかった。
商店街を進むにつれて、屋台の明かりが増えていく。
赤い提灯。
黄色い電球。
色とりどりの看板。
まるで街全体が、夏色のイルミネーションに包まれているみたいだった。
「わぁ〜!」
私は思わず声を上げる。
「りんご飴!」
「かき氷!」
「チョコバナナ!」
「焼きそば!」
次々と目に入る屋台に、胸が高鳴る。
「るな、落ち着いて。」
ひかりが笑う。
「まだ何も食べてないよ。」
「でも全部おいしそうなんだもん!」
「るな先輩、目がキラキラしてます。」
まなが楽しそうに言う。
「うぅ……。」
私は少し恥ずかしくなって、桐生先輩の方をちらりと見る。
先輩は優しく笑っていた。
「今日はいっぱい楽しもう。」
その一言が、胸の奥であたたかく響く。
「うん。」
私は小さく頷いた。
夏祭りの夜。
浴衣。
友達。
そして、桐生先輩。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを思いながら、私は夏色の灯りの中へ一歩踏み出した。
第2節「夜店の灯りと、甘い寄り道」
商店街に入った瞬間、私は思わず立ち止まった。
「わぁぁ……!」
目の前には、ずらりと並ぶ屋台。
赤い提灯が揺れ、甘い匂いや香ばしい匂いが夜風に乗って流れてくる。
「すごい……。」
「るな、もう目が輝いてる。」
ひかりが笑う。
「だって見て!」
私は指をさした。
「りんご飴! かき氷! チョコバナナ! 焼きそば! たこ焼き!」
「全部言うんだ。」
まながくすくす笑う。
「全部大事だもん!」
「るな先輩、まだ入口ですよ?」
「でも入口からこんなに誘惑があるなんて……。」
私は胸の前で手を組んだ。
「夏祭り、恐ろしい子。」
「恐ろしいのは、るなの食欲だと思う。」
ひかりがさらっと言う。
「ひかり〜!」
私は頬を膨らませた。
「そんなことないもん。」
「ほんとかなぁ。」
まながにやりと笑う。
「去年、最初の30分で何食べましたっけ?」
「えっと……。」
私は指を折って数え始める。
「りんご飴、かき氷、焼きそば、チョコバナナ……。」
「もう十分多い。」
ひかりが即答した。
「でも全部少しずつだよ!」
「少しずつの概念が違う。」
「そうそう。」
二人がうなずき合う。
「うぅ……。」
私は助けを求めるように桐生先輩を見た。
「先輩、私そんなに食べてないですよね?」
桐生先輩は少し考えるふりをした。
「うーん。」
「うーんじゃなくて!」
「でも、るなが美味しそうに食べるのを見るのは好きだよ。」
「えっ。」
私は一瞬固まった。
「るな先輩、また固まりました。」
「顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「夕焼けのせいだもん!」
「もう夕焼け終わってるけど。」
ひかりの冷静なツッコミに、みんなが笑った。
「さて、最初は何にする?」
桐生先輩が屋台を見渡す。
「もちろん……。」
私は真剣な顔で考える。
「りんご飴。」
「即答。」
「だって夏祭りの王様だよ?」
「王様なんだ。」
まなが笑う。
「りんご飴って、見た目もかわいいし、食べるとシャリッてして、りんごが甘くて……。」
私はうっとりと語り始める。
「るな、もう食レポ始まってる。」
ひかりが肩をすくめた。
「これは止まらないやつ。」
桐生先輩が優しく笑う。
「じゃあ、りんご飴にしようか。」
「やったー!」
私はぴょんと跳ねた。
りんご飴の屋台の前には、真っ赤な飴が並んでいた。
提灯の光を受けて、まるで宝石みたいに輝いている。
「きれい……。」
私は思わず見とれる。
「るな先輩、食べる前から幸せそう。」
「だって、こんなにかわいいんだよ?」
「食べ物に“かわいい”って言うの、るなだけかも。」
ひかりが笑う。
「言うよ! ねぇ、先輩?」
私は桐生先輩に同意を求めた。
「うん、言う人もいると思う。」
「ほら!」
「でも、るなほど本気で言う人は少ないかも。」
「先輩までー!」
またみんなが笑う。
屋台のおじさんが、りんご飴を差し出してくれた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
私は両手で受け取る。
「わぁ……。」
近くで見ると、飴がつやつやしていて本当にきれいだった。
「写真撮る!」
まながスマホを構える。
「るな先輩、笑ってください!」
「えへへ〜。」
私はりんご飴を持って笑顔を作る。
カシャ。
「撮れた!」
「見せて見せて!」
写真には、りんご飴を宝物みたいに抱える私が映っていた。
「……なんか、私すごく幸せそう。」
「うん、めちゃくちゃ幸せそう。」
ひかりがうなずく。
「りんご飴だけでこんな顔できるんだね。」
「りんご飴を侮ってはいけません。」
私は真面目な顔で言った。
「これは夏祭りの芸術品です。」
「芸術品。」
桐生先輩が小さく笑う。
「じゃあ、芸術品を味わってみて。」
「はい!」
私はそっとりんご飴をかじった。
シャリッ。
甘い飴の音が、夜の空気に小さく響く。
「……おいしい!」
思わず目を輝かせる。
「やっぱり夏祭りのりんご飴は最高!」
「よかったね。」
桐生先輩が優しく笑う。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がふわっと温かくなった。
りんご飴の甘さだけじゃない。
この夜の楽しさが、少しずつ心に溶けていく。
夏色の灯りの中で、私たちの夜はまだ始まったばかりだった。
※
「りんご飴、最高……。」
私はまだうっとりしながら、最後の一口を味わっていた。
「るな先輩、食べ終わるまでずっと幸せそうでしたね。」
まなが笑う。
「だっておいしかったんだもん。」
「知ってる。」
ひかりが即答する。
「顔に“幸せです”って書いてあった。」
「そんなに?」
「うん。」
桐生先輩もくすっと笑った。
「でも、るなが美味しそうに食べてると、こっちまで嬉しくなるよ。」
「えっ。」
私は思わず先輩を見上げる。
「ほら、また。」
ひかりがにやにやする。
「るな、顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「りんご飴のせいだもん!」
「りんご飴って、顔まで赤くするんだね。」
まなが楽しそうに言う。
「もう〜!」
私は両手で頬を押さえた。
その時、ふわっと冷たい風が吹いてきた。
「暑いね。」
ひかりがうちわであおぐ。
「うん、ちょっと暑いかも。」
まなも額をぬぐう。
私はぱっと目を輝かせた。
「じゃあ、次はかき氷!」
「やっぱり来た。」
ひかりが笑う。
「だって暑い時はかき氷でしょ?」
「るな先輩、食べる理由を見つけるのが上手です。」
「これは正当な理由です!」
私は胸を張った。
桐生先輩が屋台の方を指さす。
「ちょうどあそこにあるよ。」
「ほんとだ!」
私は嬉しくなって、少し早足になる。
「るな、転ばないでね。」
「今日は転ばないもん!」
「それ、蛍の時も言ってた。」
ひかりの言葉に、私はぴたりと止まった。
「……。」
「……。」
「……思い出させないで。」
みんなが笑い声を上げる。
かき氷の屋台には、色とりどりのシロップが並んでいた。
いちご、メロン、ブルーハワイ、レモン。
「うわぁ、迷う……。」
私は真剣な顔で悩む。
「るな先輩、絶対いちごですよね?」
まなが言う。
「もちろん!」
私は即答した。
「やっぱり。」
ひかりが笑う。
「でも、メロンもおいしそう。」
「ブルーハワイも捨てがたい。」
「レモンもさっぱりしてそう。」
私は腕を組んで考え込む。
「るな、かき氷でそこまで悩めるのすごい。」
「だって大事な選択だよ?」
「人生の分岐点みたいに言うね。」
桐生先輩が優しく笑った。
「じゃあ、みんなで違う味にして、少しずつ食べる?」
「それだ!」
私はぱっと顔を上げる。
「先輩、天才!」
「大げさだなぁ。」
「大げさじゃないです!」
まなも乗っかる。
「シェア作戦ですね!」
「決まり!」
ひかりがうなずく。
結局、私はいちご、ひかりはレモン、まなはメロン、桐生先輩はブルーハワイを選んだ。
四つのかき氷が並ぶと、まるで小さな虹みたいだった。
「いただきます!」
私はいちごのかき氷を一口食べる。
「つめた〜い!」
「でもおいしい!」
「るな先輩、目がまたキラキラしてます。」
まなが笑う。
「だって、いちごだよ?」
「うん、知ってる。」
ひかりがレモンを差し出した。
「はい、るな。レモンも食べてみる?」
「いいの?」
「もちろん。」
私はそっと一口もらう。
「わっ、さっぱり!」
「でしょ?」
「おいしい!」
今度はまながメロンを差し出す。
「メロンもどうぞ!」
「ありがとう!」
「甘い〜!」
私は感動したように言う。
「かき氷って、こんなに幸せなんだ……。」
「るな先輩、毎回感動してますね。」
「だって本当においしいんだもん。」
すると、桐生先輩がブルーハワイをこちらに向けた。
「るなも食べる?」
「えっ、いいんですか?」
「うん。」
私は少しだけ緊張しながら、スプーンを受け取った。
先輩のかき氷を一口。
冷たくて、甘くて、少しだけラムネみたいな味がした。
「おいしい……。」
私は思わず微笑む。
「ブルーハワイ、初めて食べたかも。」
「ほんと?」
「うん。いつもいちごを選んじゃうから。」
「じゃあ、今日は新しい発見だね。」
桐生先輩が優しく笑う。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がまたふわっと温かくなった。
同じかき氷を分け合う。
たったそれだけのことなのに、なぜか少し特別に感じる。
「るな。」
ひかりがにやりと笑う。
「な、なに?」
「かき氷、溶けてるよ。」
「えっ!?」
私は慌てて自分のかき氷を見る。
「ほんとだー!」
「先輩の笑顔に見とれてたからじゃない?」
まなが小声で言う。
「ち、違うもん!」
私は急いでかき氷を食べ始めた。
でも、頬の熱さはなかなか冷めなかった。
夏色の灯りの中で、甘い寄り道はまだまだ続いていく。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」
かき氷を食べ終えた頃、夜空はすっかり深い藍色に染まっていた。
屋台の灯りがきらきらと揺れ、人々の笑い声が夏の空気に溶けていく。
「そろそろ花火の時間だね。」
ひかりが空を見上げながら言った。
「ほんとだ!」
まなが腕時計を確認する。
「あと十分くらいです!」
「わぁ、もうそんな時間?」
私は少し名残惜しく屋台を振り返った。
「まだチョコバナナ食べてないのに……。」
「るな、そこ?」
ひかりが笑う。
「花火よりチョコバナナ?」
「ち、違うよ!」
私は慌てて首を振った。
「花火ももちろん楽しみだけど、チョコバナナも大事なの!」
「やっぱり大事なんだ。」
桐生先輩がくすっと笑う。
「るなは最後までるなだね。」
「うぅ……。」
私は少し照れながらも、なぜか嬉しくなってしまう。
四人は花火がよく見える川沿いの広場へ向かった。
すでにたくさんの人が集まっていて、レジャーシートを広げたり、家族で肩を寄せ合ったりしている。
「すごい人だね。」
まながきょろきょろと辺りを見回す。
「でも、ここなら見えそう。」
ひかりが少し高くなっている場所を指さした。
「行ってみよう!」
私たちは人混みを抜け、少し開けた場所へ移動する。
そこからは、夜空が大きく広がって見えた。
「わぁ……。」
私は思わず息をのむ。
「ここ、すごくいい場所。」
「ほんとだ。」
桐生先輩も空を見上げる。
「花火、きれいに見えそうだね。」
「先輩、場所取りの天才です!」
まなが笑う。
「たまたまだよ。」
「でもすごいです!」
四人で並んで座る。
私の右隣にはひかり、左隣には桐生先輩。
その距離が少し近くて、胸がどきどきした。
「ねぇ、るな。」
ひかりが小声で話しかける。
「ん?」
「緊張してる?」
「してない!」
「してる顔だよ。」
「してないもん!」
「耳、赤い。」
「また!?」
私は慌てて耳を隠した。
まながくすくす笑う。
「るな先輩、今日ずっと赤いですね。」
「夏だから!」
「便利な言い訳だね。」
桐生先輩まで笑う。
「でも、暑いのは本当だよ。」
「ほら!」
私は先輩に助けを求めるように言った。
「先輩はわかってくれますよね!」
「うーん。」
先輩は少し考えるふりをする。
「半分は暑さで、半分は別の理由かな。」
「えっ。」
私は固まった。
「別の理由って何ですか?」
まなが興味津々で聞く。
「さあ。」
先輩はいたずらっぽく笑う。
「秘密。」
「先輩ずるい!」
私は思わず声を上げた。
でも、その笑顔を見ていると、怒るどころか胸が温かくなってしまう。
その時、会場の照明が少し暗くなった。
ざわざわしていた人々の声が、自然と静かになる。
「始まる……!」
まなが目を輝かせる。
私も空を見上げた。
夜空は深く、広く、どこまでも続いている。
ドン――。
遠くで大きな音が響いた。
「わっ!」
私は思わず肩をすくめる。
「大丈夫?」
桐生先輩が優しく声をかける。
「う、うん。」
私は小さく頷いた。
でも、心臓は花火の音よりも大きく鳴っている気がした。
ドン――。
二発目の音。
次の瞬間、夜空に大きな花が咲いた。
ぱあああっ――。
赤。
青。
金。
色とりどりの光が、夜空いっぱいに広がる。
「きれい……。」
ひかりが小さく呟く。
「すごい……!」
まなも目を輝かせる。
私は言葉を失った。
花火の光が、みんなの顔を照らす。
ひかりの横顔。
まなの笑顔。
そして、桐生先輩の横顔。
その横顔が、花火の光を受けてとても綺麗に見えた。
私は思わず見とれてしまう。
「るな。」
先輩がこちらを向いた。
「えっ。」
「花火、見ないの?」
「み、見てるよ!」
慌てて空を見上げる。
また大きな花火が咲く。
でも、さっき見た先輩の横顔が、なかなか頭から離れない。
ドン――。
ぱあああっ――。
花火の光が消えても、胸の中には別の光が残っていた。
それはまだ、言葉にできない小さな光。
でも確かに、私の心の中で少しずつ大きくなっていた。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」②
ドン――。
大きな花火が夜空に咲くたび、広場から歓声が上がる。
「わぁ、すごい!」
まなが身を乗り出す。
「今年の花火、去年より大きい気がする!」
「ほんとだね。」
ひかりも空を見上げながら笑う。
赤、青、金。
色とりどりの光が夜空を染めて、川面にもきらきらと映っていた。
私はその光景を見つめながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
「るな。」
桐生先輩が小さく声をかける。
「ん?」
「寒くない?」
「ううん、大丈夫。」
私は首を振る。
「花火見てたら、寒さなんて忘れちゃう。」
「そっか。」
先輩は優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間、また胸がどきんと鳴る。
(もう、今日何回どきどきしてるんだろう。)
私はこっそり自分に問いかけた。
すると、まなが急に立ち上がった。
「ひかり先輩!」
「ん?」
「あっち、もっと近くで見える場所あるみたいです!」
「ほんと?」
ひかりが立ち上がる。
「ちょっと行ってみようか。」
「るな、先輩、行きます?」
まなが振り返る。
私は桐生先輩の方をちらりと見る。
先輩は少し空を見上げてから言った。
「僕はここで見ようかな。」
「え?」
「ここ、すごく見やすいし。」
「そっか。」
ひかりがにこっと笑う。
「じゃあ、私たちだけちょっと行ってくるね。」
「すぐ戻ってきます!」
まなが手を振る。
「う、うん。」
私は小さく頷いた。
そして、ひかりとまなが人混みの中へ消えていく。
残されたのは、私と桐生先輩だけ。
ドン――。
花火の音が、いつもより大きく聞こえる。
私は急に緊張して、膝の上で指をぎゅっと握った。
「るな。」
「は、はい!」
声が少し裏返る。
先輩がくすっと笑った。
「そんなに緊張しなくても。」
「してないです!」
「ほんと?」
「……ちょっとだけ。」
正直に言うと、先輩は優しく笑った。
「素直だね。」
「だって、嘘つけないもん。」
「るならしい。」
その言葉が、なんだか嬉しかった。
しばらく二人で花火を見上げる。
夜空には、次々と大きな花が咲いては消えていく。
ぱあああっ――。
金色の花火が、空いっぱいに広がった。
「きれい……。」
私は思わず呟く。
「うん。」
先輩も空を見上げたまま頷く。
「花火って、一瞬で消えちゃうのに、ずっと心に残るよね。」
「そうですね。」
私は先輩の横顔をそっと見る。
花火の光に照らされた横顔は、やっぱりとてもきれいだった。
「今日、楽しかった?」
先輩が突然聞いた。
「えっ。」
私は慌てて先輩を見る。
「もちろん、楽しかったです!」
「よかった。」
「先輩は?」
「僕も。」
先輩は少し照れたように笑った。
「みんなと一緒に来られて、よかった。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
(みんなと一緒に。)
わかっている。
先輩は、ひかりもまなも含めて言っている。
でも、私は少しだけ欲張りになってしまう。
(私と一緒に、って言ってほしかった。)
そんなことを思ってしまった自分に、私はびっくりした。
ドン――。
大きな花火が上がる。
その光の中で、先輩が私の方を向いた。
「るな?」
「な、なに?」
「どうしたの?」
「え?」
「急に静かになったから。」
私は慌てて笑顔を作る。
「なんでもないです!」
「ほんと?」
「ほんとです!」
でも、声が少し震えてしまった。
先輩は少し心配そうに私を見る。
「無理してない?」
「してないです。」
私は首を振る。
「ただ……。」
「ただ?」
言葉が喉まで出かかった。
「今日、本当に楽しかったなって。」
「うん。」
先輩が優しく頷く。
「僕も、すごく楽しかった。」
その瞬間、夜空に一番大きな花火が咲いた。
ぱああああっ――。
金色の光が、私たちを包み込む。
私はその光の中で、先輩の横顔を見つめた。
(言いたい。)
(本当は、もっと。)
(“楽しかった”だけじゃなくて。)
(“この時間が終わってほしくない”って。)
(“先輩と一緒にいたい”って。)
でも、言葉は最後まで口から出なかった。
花火の音にかき消されたのかもしれない。
それとも、私の勇気が足りなかったのかもしれない。
ただ、胸の奥には確かに残っていた。
言えなかった言葉。
花火のように一瞬で消えてしまわない、消えない想いとして。
第4節「夏色のイルミネーション」
最後の花火が夜空に大きく咲き、ゆっくりと消えていった。
ぱらぱらと拍手が広がり、広場には「きれいだったね」「すごかったね」という声があふれる。
「終わっちゃった……。」
私は空を見上げたまま、小さくつぶやいた。
「うん。」
桐生先輩も同じように空を見上げる。
「でも、すごくきれいだったね。」
「はい。」
私は頷く。
「今年見た花火の中で、一番きれいでした。」
「まだ今年始まったばかりだけどね。」
先輩が笑う。
「あ、そっか。」
私もつられて笑った。
その時、少し離れたところから元気な声が聞こえてきた。
「るな先輩ー! 先輩ー!」
まなだ。
「ここです!」
ひかりも手を振っている。
「二人とも、どこ行ってたの?」
私が聞くと、まなが胸を張った。
「花火のベストポジションを探してました!」
「でも結局、人が多すぎて戻ってきたの。」
ひかりが苦笑する。
「ここが一番よく見えたね。」
「うん。」
私は小さく頷いた。
本当は、花火だけじゃなかった。
先輩と二人で見た時間が、特別だった。
でも、そのことはまだ誰にも言えない。
四人はゆっくりと広場を後にした。
人混みの中を歩きながら、まなが大きく伸びをする。
「はぁ〜、楽しかった!」
「うん、すごく楽しかったね。」
ひかりも笑顔で答える。
「るな先輩、満足しました?」
まながにやりと笑う。
「もちろん!」
私は元気よく答えた。
「りんご飴も、かき氷も、花火も最高だった!」
「やっぱり食べ物入ってる。」
ひかりが笑う。
「だって大事だもん!」
「るな先輩らしいです。」
まながくすくす笑う。
桐生先輩も優しく笑っていた。
「でも、るなが楽しそうでよかった。」
「えっ。」
私は思わず先輩を見る。
「本当に?」
「うん。」
先輩は頷く。
「今日、ずっと笑ってたから。」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……先輩も、楽しそうでした。」
私が小さく言うと、先輩は少し驚いたように目を瞬かせた。
「そう見えた?」
「はい。」
「そっか。」
先輩は照れたように笑う。
「それならよかった。」
商店街へ戻ると、夏限定のイルミネーションがまだやさしく輝いていた。
シャンパンゴールドの灯りが、木々の間でふわりと揺れている。
「わぁ……。」
まなが足を止める。
「帰りもきれいですね。」
「ほんとだ。」
ひかりも見上げる。
「花火のあとに見ると、また違って見える。」
私はイルミネーションを見つめた。
冬のイルミネーションは、きらきらしていて胸が高鳴る。
桜色のイルミネーションは、やさしくて未来を照らしてくれる。
蛍色のイルミネーションは、静かに心に灯る光だった。
そして今、目の前にあるのは——夏色のイルミネーション。
にぎやかな夏祭りのあとに、そっと残るやさしい光。
まるで、今日の思い出を包み込んでくれているみたいだった。
「るな。」
ひかりが私の顔をのぞき込む。
「どうしたの? ぼーっとして。」
「あ、ううん。」
私は慌てて笑う。
「ただ、きれいだなって思って。」
「うん、きれいだよね。」
ひかりが頷く。
「写真撮ろうか。」
「撮る!」
まながすぐにスマホを取り出した。
「先輩も一緒に!」
「僕も?」
桐生先輩が少し驚く。
「もちろんです!」
まなが元気よく言う。
「今日の思い出ですから!」
「じゃあ、お願いします。」
先輩が笑う。
四人でイルミネーションの下に並ぶ。
「はい、みんな笑ってー!」
まながスマホを構える。
私は先輩の隣に立ちながら、少しだけ緊張した。
でも、先輩がそっと微笑んでくれたので、自然に笑顔になれた。
カシャ。
シャッター音が夜の商店街に響く。
「撮れました!」
まなが嬉しそうにスマホを見せる。
そこには、夏色の灯りの下で笑う四人の姿が映っていた。
「わぁ、いい写真。」
ひかりが微笑む。
「ほんとだ。」
私は写真を見つめながら、小さくつぶやいた。
この夜のこと、きっと忘れない。
花火の光も、屋台の匂いも、みんなの笑顔も。
そして、先輩の隣で笑えたこの瞬間も。
夏色のイルミネーションは、私の胸の中にそっと灯り続けていた。
※
イルミネーションの下で写真を撮り終えたあと、四人はゆっくりと駅へ向かって歩き始めた。
夏祭りの賑わいは少しずつ遠ざかり、商店街には穏やかな夜風が吹いている。
「今日は本当に楽しかったね。」
ひかりが笑顔で言った。
「うん!」
まなが大きく頷く。
「りんご飴も、かき氷も、花火も最高でした!」
「やっぱり食べ物が先なんだね。」
桐生先輩がくすっと笑う。
「だって全部おいしかったんですもん!」
私は胸を張った。
「特にりんご飴は芸術品でした。」
「まだ言ってる。」
ひかりが肩を震わせる。
「でも、るながあんなに幸せそうに食べてると、こっちまで嬉しくなるよ。」
先輩が優しく言った。
「えっ。」
私は思わず足を止める。
「ほんとですか?」
「うん。」
先輩は頷いた。
「今日のるな、ずっと笑ってたから。」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……先輩も、ずっと優しかったです。」
私が小さく言うと、先輩は少し照れたように笑った。
「そんなことないよ。」
「あります。」
「ありますよねー。」
まながすぐに乗っかる。
「先輩、今日ずっとるな先輩のこと見てましたもん。」
「まな!」
私は慌ててまなの口を塞ごうとした。
「むぐっ。」
「もう、変なこと言わないで!」
「でも本当のこと……。」
「まな〜!」
ひかりが笑いながらまなを引き寄せる。
「るなが真っ赤になっちゃうから、その辺にしてあげて。」
「はーい。」
まなはいたずらっぽく笑った。
駅前が近づくにつれて、人の数も少なくなっていく。
夏祭りの灯りは遠くで小さく揺れ、まるで今日の思い出を見送ってくれているみたいだった。
「もう帰る時間かぁ。」
まなが少し寂しそうに言う。
「早いね。」
ひかりも空を見上げた。
「さっきまで花火見てたのに。」
私は黙って夜空を見つめる。
花火はもう消えている。
でも、胸の中にはまだ光が残っていた。
りんご飴の甘さ。
かき氷の冷たさ。
花火の音。
イルミネーションの輝き。
そして、桐生先輩の笑顔。
どれも消えてほしくなかった。
「るな。」
先輩が私の名前を呼ぶ。
「はい。」
「今日、ありがとう。」
「え?」
私は目を瞬かせた。
「ありがとうって、私の方こそです。」
「ううん。」
先輩は首を振る。
「るなが楽しそうにしてくれて、僕もすごく楽しかった。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
嬉しいのに、少し苦しい。
この時間が終わってしまうことが、急に寂しくなった。
「……私も、すごく楽しかったです。」
私は小さく答える。
「今日のこと、きっと忘れません。」
「僕も忘れないよ。」
先輩の声は、夜風みたいにやさしかった。
その時、駅前の時計が静かに時を告げた。
カチ、カチ、カチ。
「そろそろ電車だね。」
ひかりが言う。
「うん。」
まなが頷く。
四人で改札の前に立つ。
「またみんなで来ようね。」
まなが笑顔で言った。
「うん、また来よう。」
ひかりも頷く。
私は先輩の方をちらりと見る。
先輩も私を見て、やさしく微笑んだ。
「来年も、一緒に来られたらいいね。」
その言葉に、私は大きく目を見開いた。
「……はい!」
思わず声が弾む。
先輩が少し驚いたように笑う。
「そんなに嬉しい?」
「う、うれしいです!」
私は頬を押さえた。
「だって、来年も一緒に来られるなんて……。」
言葉の続きを飲み込む。
でも、先輩は何も言わず、ただ優しく笑ってくれた。
電車に乗る前、私はもう一度振り返った。
遠くの商店街で、夏色のイルミネーションがまだ小さく輝いている。
その光を見つめながら、私はそっと胸に手を当てた。
(この気持ちを、いつか歌にしたい。)
今日見た光。
今日聞いた笑い声。
今日感じた胸の高鳴り。
全部、忘れたくなかった。
花火のように一瞬で消えてしまうのではなく、ずっと心に残る光として。
「るな、行くよ。」
ひかりの声が聞こえる。
「うん!」
私は笑顔で振り返った。
そして、夏色のイルミネーションに小さく手を振る。
その光は、まるで「またね」と答えてくれているみたいだった。
夏の夜に灯ったこの光は、きっと秋へ、そしてその先の未来へと続いていく。
私の胸の中で、消えることのない“夏色のイルミネーション”として。