オリジナル小説

恋する夜、指先が紡ぐ物語【短編恋愛小説:「彼女ではない女」編(奥さん側の不倫物語)】

『:「彼女ではない女」編(奥さん側の不倫物語)』

第一章:静かな裏切り

玲子は、リビングの時計の針の音だけが響く部屋に、ひとり佇んでいた。

十七年一緒に暮らしている夫は、今日もまた「会食で遅くなる」とだけ言って出て行った。

もう、それに対する怒りも、失望も、感じなくなっていた。

「……この家、静かすぎるのよ」

玲子はつぶやくように言った。聞いてくれる相手など、どこにもいない。

彼女の仕事は週に三日。都内のギャラリーで受付と管理をしている。

結婚してからも少しは働いていたいと思って始めた仕事だったが、いまやそのギャラリーですら、誰も彼女の名前を呼ばない。すべては“役割”に変わってしまっていた。

そんな日常のなかで――彼は現れた。

「……新田さん?」

「こんばんは。突然すみません」

その夜、玲子がごみ捨てに出たときだった。

アパートの角、薄暗い街灯の下に、新田が立っていた。彼は玲子の学生時代の友人・志保の夫の、昔の同期らしい。

「志保さんから、玲子さん最近あまり笑わなくなったって聞いて……ちょっと気になって」

「……それだけのために?」

「うん」

玲子は眉を寄せた。

「妙ね、そんなのあなたに関係ないじゃない」

「そうかもしれない。でも、俺ね……こういうの、放っておけない性分なんです」

彼の笑い方はどこか懐かしいものだった。

玲子は少しの間、黙っていたが、ため息を吐いて言った。

「あなた、既婚者よね」

「ええ、そうです。玲子さんも」

「じゃあ、わかってるでしょ。こういうの……誤解される」

「誤解されることと、救われることは別でしょう?」

「……」

「俺もね、最近妻との関係が冷えてるんです。理由はいろいろあるけど……正直、帰るのが嫌になる夜がある」

玲子は目を伏せた。

「あなたの話を聞く義理はないわ」

「そうですね。じゃあ代わりに……玲子さんが誰かに聞いてほしいって思ったとき、俺がその“誰か”であってもいいですか?」

玲子の指先が小さく揺れる。

その夜、彼女はいつもより長く窓を見つめていた。

三度目に会ったのは、たまたま銀座のギャラリーでだった。

新田は、客として訪れていた。

「ここで働いてたんですね」

「ええ。……あなた、何しに?」

「絵を見るのが好きなんです。特に静物画。動かないのに、感情だけが流れていくようなところが」

玲子は少しだけ笑った。

「変わった趣味ね」

「そうですか?」

「静物に自分を重ねるなんて、どれだけ感情を抑え込んでるのよ」

「……それ、玲子さん自身のことじゃないですか?」

彼の言葉に、玲子は何も言い返せなかった。

その後、彼女は彼に連絡を入れるようになった。

それは、ほんの少しの言葉だけで満たされる、メールのやりとり。

『今日も仕事、疲れた』
『明日は雨みたいですね。あたたかくしてくださいね』

そんな他愛もないメッセージが、なぜか玲子の心を満たしていた。

ある晩。

ふたりは夜の喫茶店で待ち合わせた。

新田はコートを脱いで、隣に座った。

「今日は、玲子さんが話したいって言ったから」

「……うん。あのね、私……」

玲子は、言葉に詰まった。

「夫のこと、もう何年も愛してない。声も触れ方も、全部冷たい。……なのに、私だけがずっと“妻”を演じてる」

「演じるのって、苦しいよね」

「……あなた、そういうの、慣れてるの?」

「どうかな。でも、玲子さんが演じなくていい場所があるなら、そこにいてもいいと思う」

「それは……あなたの隣ってこと?」

新田はカップを置いて、ゆっくりと玲子を見つめた。

「そう思ってる。玲子さんといると、自分が誰かを大事にできる人間なんだって感じられる」

「私でいいの?」

「君じゃなきゃ、だめなんだ」

その言葉に、玲子の頬を涙がつたった。

「……だめね、こんなふうに泣くなんて。女としての矜持も、忘れそう」

「泣いていいよ。ここでは、演じなくていい」

新田はそっと、玲子の手を取った。

彼女はもう、拒まなかった。

それが“静かな裏切り”の、始まりだった。

第二章:ふたりの仮面

「玲子さん、今日も綺麗ですね」

その言葉に、玲子はつい小さく笑ってしまった。

「そんなこと言って……口がうまいのね、あなた」

「本心ですよ」

窓際のレストラン席。ディナータイムには少し早い時間、店内はまだ空いていて、彼らの会話だけが静かに漂っていた。

新田は、玲子の向かいではなく、隣に座っていた。

以前なら絶対に避けたその距離も、今では自然になりつつあった。

ワインを一口含んだ玲子は、ため息をついた。

「こんな時間、いつぶりかしら。ちゃんと大人として会話してるって感覚、もう忘れてたわ」

「俺もです。職場でも家でも、“役”を演じてるようで」

「演じる、ね……私たち、似た者同士なのかもね」

「だったら、“素”のままでいられる場所があってもいいと思う」

玲子は静かに頷いた。

けれど――

帰宅してドアを開けると、その温度は一変する。

夫の靴が玄関にあった。久しぶりに、彼が早く帰ってきていたのだ。

リビングには、彼の背中。

「……おかえり」

玲子はぎこちなく言った。

夫は一瞬こちらを見て、小さく頷くだけだった。

「ご飯、いらないの?」

「食べた。コンビニで」

「そう……」

冷蔵庫の中の、作り置きの煮物に目を落としながら、玲子は心の中で笑った。

(この人も、もう“家庭”に期待していないのね)

「……最近、帰り遅いよね」

「お前こそ」

「私? 仕事だけよ」

「ふーん」

その“ふーん”には、明確な疑念が含まれていた。

玲子は何も言わなかった。

数日後。

ギャラリーの休憩室。

玲子はスマートフォンに届いたメッセージをじっと見つめていた。

『今日は会える?』

新田からだった。

小さく微笑んで、玲子は『19時、新宿の駅前』とだけ返信した。

その夜。

ふたりは小さなバーにいた。間接照明が灯る静かな空間。

「この店、雰囲気いいですね」

「静かで、他人の目がないところ。好きなの」

「わかります。僕も、こういう場所じゃないと息ができない」

グラスの音がカチリと重なる。

「玲子さん……俺たち、どうなると思います?」

「そんなの、誰にもわからないわ」

「でも、想像はしますよね。もし、全部投げ出して、ふたりでどこかに行けたら――」

「それはただの夢よ」

「じゃあ、夢を見てはいけないんですか?」

玲子はしばらく黙っていた。

「ねえ、新田さん。あなた、奥さんに……気づかれてるんじゃない?」

新田は少し肩を落とした。

「……たぶん。いや、もう気づいてると思う」

「あなたの奥さん、きれいな人よね。前に写真で見たわ」

「外見なんて関係ない。家庭って、形だけで保てるもんじゃない」

「それでも……“壊す”のって、想像以上に怖いのよ」

新田は玲子の手をそっと握った。

「壊してしまった方が、救われる場合もある」

「その先に“地獄”があることもあるのよ」

玲子の手は震えていた。けれど、離さなかった。

帰宅後、玲子は洗面所の鏡を見つめた。

「……誰、これ」

鏡に映る女は、頬を少し紅潮させていた。瞳はどこか潤みを帯びて、女の顔をしていた。

「私は、私を演じてる。新田さんの前でも、夫の前でも」

それでも、心だけは演技を拒んでいた。

ふたりの仮面の奥には、どうしようもない“愛に似た執着”が、静かに燃えていた。

 

第三章:その夜、夫はどこにいた

夜十時をまわった頃だった。玲子は、いつもならとっくに帰っているはずの夫がまだ戻らないことに、ふと違和感を覚えた。

「……珍しいわね。今日は会食って言ってなかったのに」

リビングの灯りだけが部屋を照らしている。

カーテンの隙間から覗く夜の街は、どこかよそよそしい。

玲子はスマートフォンを手に取ると、LINEを開いた。

“帰り遅いの?”

……既読はつかない。

しばらくして、やっと返ってきたメッセージはたった一言だった。

“もう少しかかる”

「何それ……」

玲子は吐息を吐いて、スマホを伏せた。冷めた紅茶のカップを手に取って、そのまま流しに運ぶ。

“どこにいるの? 誰と?”

問いかけたい衝動を飲み込み、代わりにテレビの電源をつけた。

けれど画面の中の賑やかな世界は、彼女の孤独を少しも紛らわせてはくれない。

翌朝。

夫は帰っていた。いつも通りの顔で、スーツを着て、淡々と朝食の席に着いていた。

「……おはよう」

玲子が声をかけると、夫は「おう」と短く返した。

「昨日、遅かったのね」

「ああ。ちょっと同僚と飲んでて」

「連絡……遅かったわね」

「そうか? ちゃんと返しただろ」

玲子はその“ちゃんと”の曖昧さに、胸がざわついた。

「誰と飲んでたの?」

「え? 同じ部署の連中。名前、言っても知らないと思うけど」

そう言って夫は新聞を広げた。

「女の人、いた?」

新聞の紙音が一瞬止まる。

「いたよ。そりゃ、職場の飲み会だからな」

玲子は微笑んだ。笑みは、目元には届かない。

「そう。ならいいの」

夫はその返答に、何も言わなかった。

その週末、玲子は友人・志保とランチをとっていた。

「ねえ玲子、元気ないじゃない。顔色、よくないわよ」

「そうかしら」

「……旦那さん、最近どう?」

「まあ、相変わらず。会話もないし、関心もないし」

志保はコーヒーを口にしながら、ふっと視線を落とした。

「この前さ、偶然見ちゃったのよ。銀座であなたの旦那さん。若い子と歩いてた」

「え……」

「後ろ姿だったけど、間違いない。すごく楽しそうに話してた。手、繋いでたわ」

玲子は言葉を失った。

志保は慌てて言葉を続けた。

「ごめんね、告げ口みたいで……でも、玲子にだけは黙っていられなかった」

「……ありがとう、志保」

店を出てからの玲子の足取りは、少しずつ重くなっていった。

――まさか、夫も……?

部屋に戻ると、玲子はすぐに夫のスーツのポケットを探った。財布、スマホ、そして――レシート。

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日付は、あの“遅くなる”とだけ言われた日だった。

玲子はその紙片を握りしめ、目を閉じた。

夫のスマートフォンを見る勇気はなかった。

ただ、その夜から玲子の中で、何かが静かに決壊していた。

「……私だけじゃなかったのね」

それは、怒りではなかった。

嫉妬でもない。

ただ、“選ばれていない”という事実が、彼女の心を凍らせていったのだった。

 

第四章:愛という罰

「玲子さん……大丈夫ですか?」

新田の声が、薄明かりのカフェの奥で玲子の心を撫でるように届いた。

玲子は手の中のコーヒーカップをじっと見つめたまま、小さく頷いた。

「うん……大丈夫。ただ……ちょっと、自分の感情に戸惑ってるだけ」

「何かあったんですね」

「……夫に、他の女がいるみたい」

その言葉に、新田の表情が一瞬だけ曇った。

「それは……確かなの?」

「友達が見たの。銀座で、若い女と手をつないでたって。証拠も見つけた。レシート……“2名様”ってね」

「……そっか」

玲子は目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。

「なのに、どうしてなのかしら。泣けないの。怒れないの。ただ、心が真っ白になってるだけ」

「それは……玲子さんがずっと、感情を殺してきたからだと思う。怒る力も、もうすり減ってるんだよ」

「新田さん……私ね、自分が不倫してること、どこかで“罰”だと思ってた。夫に愛されないことの、償いみたいな」

「そんな……玲子さんが自分を責める必要なんて」

「でも、違ったのよ。私がしていた“裏切り”は、彼からの裏切りの、ただの鏡だった」

新田は玲子の手をそっと取った。

「じゃあ、これからは……自分のために生きようよ。誰かの罰を受け続けるんじゃなくて、自分の幸せを探すんだ」

玲子は微かに笑った。

「あなたは、優しいのね。優しすぎて、ずるいくらい」

「ずるいのは……本当の気持ちを隠してる方だと思う」

「……隠してた?」

「俺は玲子さんを好きになってしまった。最初はただ、あなたの寂しさに気づいただけだった。でも今は、あなたの笑顔が見たくて、呼吸してる」

玲子は手をぎゅっと握った。

「……そんなふうに言わないでよ。嬉しいけど、怖くなる。だって……この気持ちに応えたら、私、本当に戻れなくなる」

「戻らなくていいじゃない。戻る場所がないって、もうわかってるでしょう?」

玲子の目元に涙が浮かんだ。

「……ねえ、新田さん。私たち、これって愛なのかな。傷を舐め合ってるだけなんじゃないかって、思うの」

「そう思いたいなら、そう思えばいい。でも……たとえ傷がきっかけでも、こうして惹かれていく気持ちに嘘はないと思う」

玲子はうつむいて言った。

「私、夫に問いただすことすらできない。もう彼に、怒る理由すら残ってない」

「玲子さん……それは、あなたが壊れてしまわないように、自分を守ってるんだ」

「守ってるのかな。……それとも、壊れきってるのかも」

ふたりの間に沈黙が流れた。

その夜、玲子は新田のアパートを初めて訪れた。

新田は何も言わず、彼女のコートを受け取り、そっとソファに導いた。

「眠れそう?」

「……わからない。でも、ここにいると少しだけ落ち着く」

「ここは君の逃げ場所じゃない。……居場所だよ」

玲子の目から、涙が一粒だけ零れた。

「……ねえ、新田さん。これが“愛”なら、私はきっと、もう何度も罰を受けたのよ。あなたと出会う前から、ずっと」

「だったら、これからの人生は、少しぐらい赦されてもいいじゃないか」

玲子はそっと彼に身を預けた。

その夜、ふたりは言葉よりも深い沈黙で、互いの体温を確かめ合った。

それは、罰ではなく、たしかな“赦し”の始まりだった。

 

第五章:溶けてしまいたい夜

玲子が新田の部屋を訪れるのは、あれから三度目だった。

「ただいま、って言ってもいいかしら」

「もちろん。君の居場所なんだから」

新田の手が、玲子の腰に自然に添えられた。その温もりが、冷えきった玲子の身体に沁み込むように広がっていく。

部屋には、ふたりの分のワイングラスがすでに並べられていた。テーブルの上には、手作りのグラタンとサラダ。キャンドルが静かに揺れている。

「……まるで映画みたいね」

「君に、そう思ってもらえたら本望」

玲子は微笑んで椅子に腰を下ろす。ワインの赤がグラスの中で揺れる。

「ねえ、新田さん。もしも……私がすべてを捨てて、あなたのもとに来たら……どうする?」

「……正直、戸惑うと思う。でも、俺は受け止めたい。玲子さんが俺を選んでくれるなら、迷わない」

「……無責任なこと、言ってるのはわかってる。でも……最近、自分の中の境界が曖昧になってるの。ここに来ると、妻であることも、過去の痛みも全部、霞んでいくのよ」

「それでいいじゃない。ここでは、君はただ“玲子”でいればいい」

グラタンを口に運びながら、ふたりはゆっくりと会話を続けた。

「昔はね、夫と食卓を囲む時間が一番好きだったの」

「……今は?」

「ただの儀式。誰かと向き合うことが、こんなに心地よく感じたの、何年ぶりかしら」

新田は玲子の手を取り、その手の甲にそっと唇を落とした。

「君がそう言ってくれるなら、何度でもこの夕食を準備する」

玲子は目を伏せた。

「怖いの。自分の気持ちが深くなるのが。だって、これ以上あなたを好きになったら……引き返せなくなる」

「もう、引き返す必要なんてないよ」

「でも、罪悪感が消えないの」

「玲子さん。それは愛の証じゃない。君が本当に大切なものを持ってる証拠だよ」

沈黙が流れた。

ふたりはグラスを重ね、そのままソファに腰を落とした。

新田がそっと腕を伸ばし、玲子の肩を抱く。

「ねえ……抱いてくれる?」

玲子の声は、細く、震えていた。

「……いいの?」

「いいの。今日は、あなたの中で……溶けてしまいたい」

その言葉は、新田の胸に深く刺さった。

彼は玲子を抱きしめ、ゆっくりとベッドルームへ導いた。

灯りを落とし、ふたりは重なった。

その夜の肌は、温かく、深く、やわらかだった。

玲子の吐息、指先、瞳の揺らぎ、すべてが新田の中に溶けていった。

「……新田さん」

「玲子……」

ふたりは名前を呼び合いながら、愛ではなく、祈りに似た時間を重ねた。

やがて静寂が訪れた。

玲子はシーツに包まれながら、窓の外を見つめていた。

「ねえ……朝が来なければいいのにね」

「……本当に。時間が止まってほしいと思ったのは、初めてかもしれない」

玲子はゆっくりと新田の胸に顔を埋めた。

「私ね、本当は、もっと早くあなたに出会いたかった。過去が絡み合っていない、何のしがらみもない時に……」

「……でも、過去があったからこそ、俺たちは出会えた」

玲子はふっと笑った。

「そうね。……なら、今夜だけは、“全部忘れる夜”にして」

「玲子……君が望むなら、俺はどこまでも一緒に堕ちる」

シーツの中で、ふたりは何度もキスを重ねた。

痛みも、罪も、名前すらも忘れたふたりは、ただひとつの熱に身を委ねていた。

朝が来ることを、ふたりは心の底から拒んでいた。

それでも、朝は静かに、確実に近づいていた。

 

第六章:嘘のない朝

朝。カーテンの隙間から差し込むやわらかな光が、玲子のまぶたをそっと照らしていた。

隣には、新田の寝息。

しばらくの間、彼の呼吸のリズムを確かめながら、玲子は静かに天井を見つめていた。

(朝が来てしまった)

昨夜の余韻はまだ身体の奥に微かに残っている。けれど、心の奥底ではすでに“現実”という名の冷たい水がじわじわと押し寄せていた。

新田がゆっくりと目を開ける。

「……おはよう、玲子さん」

玲子は微笑んだ。

「おはよう、新田さん。……よく眠れた?」

「うん。夢も見なかった。目が覚めたら、君が横にいて……それだけで、幸せだって思った」

玲子は少しだけ笑みを深めたが、その目は曇っていた。

「私……帰らなきゃ」

「……まだ、時間あるよ」

「でも……あの家にも、まだ“私の居場所”はあるから」

「……そっか」

新田は黙って玲子の髪を撫でた。

玲子はふと窓の外に目を向けた。

「ねえ、新田さん……あなたは、嘘ついたことある?」

「……あるよ。仕事でも、家庭でも。誰かを守るため、もしくは、自分が傷つきたくないから」

「私も。……でもね、今思うの。嘘って、自分を守る鎧じゃなくて、じわじわ自分を締め付けていく縄なのかもしれないって」

「玲子さん……」

「私はこれまで、嘘を塗り重ねてきたの。夫に、友達に、自分にさえ。でも、あなたといると、なぜか何も隠したくなくなるのよ」

「俺もだ。玲子さんといると、素直になれる。……だから、俺も一つ、嘘を捨てたい」

「……なに?」

新田は少しだけ目を伏せてから、真っ直ぐに玲子の目を見た。

「俺、離婚を決意した。……昨日、弁護士に相談した。妻にはもう……気持ちが残ってないんだ」

玲子は息を呑んだ。

「そんな……それ、本気なの?」

「ああ。本気だ。俺はもう、自分の人生を“誰かのための仮面”でごまかしたくない。玲子さんと、向き合って生きたい」

玲子の胸がぎゅっと締めつけられる。

「……私も、本当はそうしたい。でも……怖いの。怖いのよ、新田さん。全部を壊して、あなたの手を取る勇気が……」

「壊すことが怖いんじゃない。信じたいものを手放すことが怖いんだ。……でも、俺は玲子さんのそばにいたい」

玲子は、枕元に置かれた携帯電話に視線を落とした。

未読のメッセージが1件。夫からだった。

『今日、話がしたい』

玲子は一瞬だけ目を閉じた。

「……夫も、何かを感じ取ってるみたい」

「……話すの?」

「ええ。私も……もう嘘を続けたくないの」

新田は静かに頷いた。

「会って、話して。それでも俺の手を取ってくれるなら……その時は、もう離さない」

玲子はシーツを肩に引き寄せながら、彼の胸に身を預けた。

「ありがとう……新田さん。あなたがいてくれて、よかった」

カーテンの隙間から、午前の光が一筋差し込んだ。

ふたりは、その光のなかで、初めて嘘のない“朝”を迎えていた。

 

第七章:選ばれなかった日

玲子は、帰宅するなり真っ直ぐに寝室のクローゼットへ向かった。中から、結婚当初に夫と買い揃えた食器や、旅行先で撮ったアルバム、古びたペアマグが詰め込まれた箱を取り出す。

「……私たち、いつから終わってたのかしら」

誰に問うわけでもなく呟く。

リビングの時計が18時を指した頃、玄関の扉が開いた。

「玲子」

夫の声は、以前と変わらぬ無機質な響きだった。彼はジャケットを脱ぎながら、そっとソファに腰を下ろした。

玲子も正面の椅子に静かに座る。

「今日、話があるって言ってたわよね」

「……ああ。ありがとう、時間とってくれて」

しばし沈黙が落ちる。夫は目を逸らしたまま言葉を探しているようだった。

「……玲子、俺たち、最近どうにもギクシャクしてたよな」

「最近だけ、じゃないと思うけど」

夫の表情がわずかに揺れる。

「正直に話す。俺……好きな人がいる。ずっと前から……職場の子だ」

玲子は驚きの表情を見せず、むしろその告白にわずかな安堵すら浮かべた。

「……そう。やっぱり、そうなのね」

「怒らないのか?」

「怒る気力も、もう残ってないわ」

「……離婚、考えてる」

「私も」

夫は驚いたように顔を上げた。

「え?」

「あなたが私を裏切ったと気づいた日、私も……別の誰かに心を預けてた」

「……まさか」

「ええ。あなたと同じ。名前は言わないけど、その人は……私を見てくれるの。ちゃんと、私を人間として扱ってくれる」

夫はソファの肘掛けを強く握った。

「……ふたりして、何やってんだろうな」

「壊れてたのよ。ずっと前から」

「そうだな」

しばしの沈黙。時計の針だけが、冷たく時を刻んでいた。

「じゃあ、手続き進めよう。揉めたくないし、お互い傷つけ合う意味もない」

「……ありがとう」

「一つだけ聞いていいか?」

「なに?」

「そいつのこと……本気なのか」

玲子は一度だけ深く息を吸い、頷いた。

「ええ。本気。あなたとはもう戻れない。でも彼とは……これから先を生きていきたいって思えるの」

「……そうか」

夫はうつむいた。

「俺は……選ばれなかったわけだな」

「私も。あなたにも、選ばれなかった」

ふたりはそれ以上、何も言わなかった。

テーブルの上には、冷めた紅茶のカップが二つ。まるで、過ぎ去った愛の象徴のように、そこに並んでいた。

夜、玲子はベッドに横になりながら天井を見つめていた。

(選ばれなかった日。けれど、選び直せる未来がある)

その確信だけが、玲子の胸を温かく灯していた。

 

 

第八章:さよならが遅すぎて

引っ越しの日。玲子は小さな段ボール箱を最後に車の後部座席に載せ、深く息を吐いた。

駅前の古いマンションを離れ、新田の勧めで借りた小さなアパートで新生活を始める準備が整った。

「さよならって……案外、あっけないのね」

車のドアを閉めた瞬間、ふと込み上げてくるものがあったが、それでも涙は流れなかった。

それよりもむしろ、心のどこかにまだ取り残された“遅すぎた言葉”の数々が疼いていた。

玲子は携帯を取り出し、最後の一通のメッセージを確認した。

《離婚届、届いたよ。元気で》

元夫からの短い文。名前も、敬語も、気遣いもなかった。ただ、それだけ。

「ねえ……新田さん。私たち、やっと自由になったはずなのに、なんだか少し寂しいの」

アパートに戻ると、新田はキッチンに立っていた。エプロン姿が、妙に似合っていた。

「寂しさってね、心に空白がある証拠なんだよ。そこに俺が、少しずつ何かを入れていけたらいいな」

「……優しいのね」

「優しいだけじゃ、君は満たされない?」

「そんなことない。でも……怖いの。ほんとに、また誰かと向き合えるのかどうか……」

「玲子。君はもう、ちゃんと前を向いてるよ」

彼はそう言って、彼女の手を包み込んだ。

「君の過去も、痛みも、全部抱きしめるつもりでいる」

玲子はうっすら笑って首を振る。

「あなたって……ずるいわ」

「どうして?」

「そんなふうに言われたら、逃げられなくなるじゃない」

新田は玲子を抱き寄せた。

「逃げなくていい。ここが、君の帰る場所になるように、俺がする」

夕暮れ、ふたりはベランダから外を眺めていた。春の風がカーテンを揺らし、木々が小さくざわめく。

「玲子」

「なに?」

「今夜、聞いてほしいことがある。俺の過去のこと」

「……うん、聞かせて」

ふたりはテーブルにつき、ワインを一口含んでから、新田は静かに話し始めた。

「昔、婚約していた人がいた。彼女とは5年付き合って、結婚寸前までいった。でも……俺が仕事に追われてるうちに、彼女は他の男と家庭を築いた」

「……そんなことがあったの」

「うん。俺、自分が壊れたって思ったよ。でも、君と出会って……もう一度信じられる気がした」

玲子はそっと手を重ねた。

「わたしも……あなたに出会って、ようやく自分を取り戻せた気がするの」

「じゃあ……これからは一緒に、未来を作っていこう」

玲子は頷いたが、瞳は揺れていた。

「でも、もう一度恋をするって、思ってなかったから……怖くて。でもね、後悔はしてない」

「俺もだよ。もっと早く出会えてたらなんて、思わない。今、君といるこの時間こそが、俺たちにとって一番大事なんだ」

玲子の目に、ついに涙が溢れた。

「ありがとう、新田さん……さよならを、ずっと言えなかった。でも、もう言える。あの人に、あの過去に、そして……昔の自分に」

新田は静かに微笑んで、玲子を抱きしめた。

「さよならって、終わりの言葉じゃないよ。新しい始まりの合図だ」

夜。ふたりは手を繋いで眠りについた。

もう、嘘も仮面もいらない。

ようやく訪れた静かな夜に、ふたりの心は重なっていた。

そして明日へ。

 

 

 

 

 

 

 

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