目次
『ほどかれた夜、ほどけぬ想い』

第一章:再会の予兆
駅の構内、夕方の雑踏。
彼は仕事帰りのスーツ姿で、ふと立ち止まった。向こう側のホームに見覚えのあるシルエット。
——まさか、彼女?
それはほんの一瞬の出来事だった。
改札へと向かうその姿は、髪型も、佇まいも、声すらもなかったが、確かに記憶がざわついた。
「……待って」
彼は自然と身体を動かし、人波をかき分けてホームを抜けた。
だが彼女の姿は、もうなかった。
幻か、あるいは記憶が見せたまぼろしか。
彼はため息をつき、改札の外でスマホを取り出す。ふと、未送信フォルダに残されたメッセージを見つける。
『今でも、君を思い出す夜がある』
その文面は、何度も書いては消してきた未練の証だった。
その夜、部屋でひとりワインを開けながら、彼は過去のメッセージを遡っていた。
——指先が触れたあの夜。
——名前を忘れ、ただ感情に溺れたあの瞬間。
時間だけが、彼女の記憶を静かに染めていった。
その翌週。
昼休みのカフェで、彼は再び彼女の姿を見た。
今度は幻ではなかった。
白いシャツ、細身のデニム、テラス席で一人本を読んでいた。
そして、彼の視線に気づいたのか、彼女も顔を上げる。
目が合った。
一瞬、時が止まったようだった。
「……君?」
「……あなたなの?」
ふたりは、微笑むこともできずにただ見つめ合った。
「こんな偶然、あるんだね」
「偶然っていうか……運命って、言ったら……重い?」
彼女はふっと笑った。
「ちょっと重い。でも……嫌じゃない」
席に招かれるまま、彼は向かいに座る。
カフェラテの湯気が、微妙な距離をつなぐ。
「元気だった?」
「うん。あなたは?」
「……ずっと、君のこと、考えてた」
彼女は一瞬だけ瞳を揺らした。
「私も……忘れた日は、なかった」
それ以上、どちらからも踏み込む言葉はなかった。
それでも、目の奥で交わされる沈黙の会話が、全てを物語っていた。
再び、ふたりの物語がほどけ始めていた。
第二章:心音が告げるもの
「久しぶりだね、こんなふうにちゃんと話すの」
「うん……あの夜以来」
ふたりは並んで歩いていた。カフェを出たあと、駅前の大通りを外れ、静かな並木道を選んだ。
彼女のヒールの音と、彼の革靴の音が、不思議なリズムで重なる。
「覚えてる? 最初にふたりで会ったの、ここだったよね」
「……覚えてるよ。あのときは、もう少し寒かったけど」
「そうだね、確かマフラーを忘れて、あなたに貸してもらった」
「返してくれなかった」
「うん。返せなかったの」
彼女は歩を止めて、街路樹に指を伸ばした。
「私ね、あの夜のこと、ずっと夢に見てた。……夢じゃなければいいのにって、何度も思った」
「俺も同じだったよ」
「でも、夢じゃなかったからこそ……怖くて、後ろめたくて」
彼女の声はかすかに震えていた。
「後悔してる?」
「……してない。でも、罪悪感は消えなかった」
「俺もだよ。あの夜から、時間が止まったままだった。君に触れた感覚だけが、いつまでも体に残ってた」
彼女はふっと笑った。
「指先の記憶って、どうしてこんなに強いんだろうね」
「それはきっと、心で触れ合ったからだと思う」
「そんな綺麗な言い方、ずるい」
「じゃあ、君は?」
「私は……ね、あの夜のあと、誰にも触れられなかった。触れられるたびに、あなたの手が重なって、心が逃げ出しそうになった」
「それは……」
「だから、もう会わないって決めたのに。……どうして今日、会っちゃったんだろう」
彼は、ゆっくりと彼女の手を取った。
驚いたように彼女が目を見開く。
「まだ、触れていい?」
彼女は黙って頷いた。
その手は冷たくて、でも微かに震えていた。
「心が騒いでる。君の手を握っただけで、鼓動が速くなる」
「私も……壊れそうなくらい、胸が苦しい」
「きっと、俺たちは忘れるために生きてないんだ。思い出すために、また巡り合ったんだよ」
「でも……あなたは家庭がある」
「それでも、俺は今、君とここにいる」
「あなたの奥さんに、私みたいな人間がいることを知られたら……」
「知ったとしても、君に出会えたことを後悔はしない」
彼女はぽつりと言った。
「じゃあ……ねえ、あなたはこれから、どうしたいの?」
「君と……もう一度、ちゃんと向き合いたい」
「“ちゃんと”って、なに?」
「一時の熱じゃなくて、心ごと、全部で君を愛したい。失いたくないって、本気で思ってる」
彼女は小さく唇を噛んだ。
「……あなた、ずるい人だね」
「うん。自分でもわかってる。でも、もう二度と後悔したくない」
「それを聞いたら、私、きっとまたあなたに溺れちゃうよ」
「いい。溺れて、俺の中にいてほしい」
ふたりは足を止め、並木道の端、ひとけのない場所で向かい合った。
「私……あなたに出会ってから、人生の色が変わったの。白黒だった世界に、色がついた。けど、それは光じゃなくて、夜の色だった」
「夜の色?」
「うん。暗くて、静かで、でも誰よりも優しくて……逃げ場がないほど深い色」
「俺も、ずっと夜の中で君を探してた。やっと見つけたんだ。今度こそ、離したくない」
彼は彼女を抱き寄せた。
彼女も抗わず、彼の胸に顔を埋めた。
「心の音が、聞こえる?」
「うん……あなたの鼓動と、私の鼓動、混ざってる」
「これが……本当の“今”なんだ」
「……お願い、まだ終わらせないで」
「終わらせない。終わらせるつもりなんか、最初からなかった」
ふたりの呼吸が重なり、静かな夜が訪れる前の空が、金色に染まっていた。
——それは、ふたりの“心音”が告げた、再始動の合図だった。
第三章:嘘をつく唇
週末の午後。人通りの少ない裏通りにある小さな喫茶店。窓際の席でふたりは向かい合っていた。
彼は何度目かのコーヒーを口にし、視線を落としたまま呟いた。
「こうして、君とまた時間を過ごせるなんて……夢みたいだ」
彼女は、そっと微笑んだ。
「私も、そう思ってる。でもね……怖くもあるの」
「怖い?」
「あなたの優しさが、私を弱くさせるから」
「優しさなんかじゃないよ。……欲なんだ」
彼女は一瞬だけ目を見開き、そして微笑んだ。
「正直でいい。でも、嘘も必要だよ」
「嘘?」
「人は時々、真実じゃなくて、嘘に救われるもの」
「君は……嘘をついてるの?」
彼女はカップを置き、視線を外した。
「……ついてる。自分にも、あなたにも」
「何のために?」
「これ以上、傷つかないために」
「俺は……君の何を知らないんだろう」
「たくさんある。でもそれでいいの。全部さらけ出したら、私、あなたの前で壊れちゃう」
「壊れてもいい。……壊れるくらい、愛してる」
「そう言うあなたが……一番、嘘をついてる」
彼は黙り込んだ。
「家では、どうしてるの?」
「……何もない顔をして、何もないふりをしてる」
「奥さんとは?」
「会話も、感情も、ほとんど交わさない。夫婦だけど……ただの同居人みたいなものだ」
「そういうの……苦しいね」
「でも、そんな暮らしでも“安定”って呼ばれる。誰にも責められない暮らし。でも、本当の自分は、もうずっと君の中にいた」
彼女はテーブルに指を這わせた。
「だったら、私と逃げる?」
「……逃げたいって、何度も思った」
「でも、逃げないの?」
「逃げても……君がそれで幸せになれるなら、すぐにでも」
「……あなたが一緒にいてくれるなら、私は幸せだよ。でも、それを“幸せ”って呼んでいいのか、わからない」
「俺たちは、不確かなまま、きっと走ってる。正しさなんて捨てて、それでも“本物”が欲しくて」
「本物って、何?」
「君と過ごす一秒一秒。それが俺にとっての“真実”だよ」
彼女は視線を戻した。
「なら……ひとつ、試してみていい?」
「なに?」
「“私のこと、もう好きじゃない”って、言ってみて」
「……そんなの」
「言ってよ。今、私の心を試してるの。嘘でいいから」
彼はしばらく黙り、深く息を吸った。
「……もう、君のことなんて、好きじゃない」
彼女の目が、揺れた。
「ありがとう。その言葉、今だけ信じる。じゃないと、私……あなたをまた抱きしめたくなるから」
「じゃあ、君も。俺のことなんか忘れて、他の人と幸せになれるって、言って」
「……あなたのことなんか、もう何とも思ってない。……好きじゃない」
ふたりは嘘を吐いた。
だけど、その声の震えが、心の奥の真実を暴いていた。
「じゃあ……次、いつ会う?」
「……来週、同じ時間、同じ場所で」
「嘘、つき続けようね」
「うん。……でも、ほんとの気持ちは、ずっとここにある」
彼女は胸に手を置いた。
「ここにある」
それは、唇では語られない真実。
ふたりの心が嘘に覆われても、体温はすべてを語っていた。
第四章:溺れる記憶
その夜、彼は夢を見た。
湿ったシーツ、開いた窓から差し込む月明かり、そして彼女の肩越しに感じた体温。
夢の中で彼女は何も言わず、ただ彼の名前を呼ばずに、唇を重ねた。
目が覚めた時、枕元にはスマホの通知が一つ。
『今日は、逢える?』
文末に絵文字も名前もない。
でも、それだけで彼の鼓動は高鳴った。
──逃げられない。
あの夜から、彼の時間は再び彼女に支配され始めていた。
――――
ホテルの一室。
白を基調にしたインテリアに、薄く香る柔軟剤の匂い。
彼女は窓際でグラスを片手に持っていた。
「来てくれて、ありがとう」
「来るなって言われても、来てたと思う」
「そんなこと言うと、私、また嘘を重ねちゃう」
「今日は、嘘じゃなくていい。……本当の気持ちでいて」
彼はそう言いながら、そっと彼女の背中に手を添えた。
その温度に、彼女の身体が震えた。
「怖い。……今、あなたの胸に溺れたら、もう戻れない気がする」
「戻らなくていい。溺れて、沈んで、そこに俺がいるなら」
彼女はゆっくりと振り向き、目を閉じた。
「……じゃあ、溺れさせて」
唇が重なった瞬間、時間が静止した。
指先が頬をなぞり、首筋に触れる。
彼女の吐息が、熱を帯びて漏れた。
「ねえ……覚えてる? あの夜も、こんなふうだった」
「覚えてる。君の肌の匂い、髪の感触、声の震え……全部」
「私も。あなたに触れられるたびに、思い出すの。あの夜の、私のすべてが許された瞬間を」
「許したんじゃない。俺が欲しかったんだ、全部」
シャツのボタンがはずされ、肌と肌が触れる。
「愛してる」
「……それ、また嘘かもしれないよ?」
「嘘でもいい。君の耳元で、それを囁けるなら」
「そんなこと言うと、私、今夜眠れない」
「眠らなくていい。朝が来なくてもいい」
ふたりは抱き合い、記憶の奥にあった熱を辿るように体を重ねた。
時折交わす言葉は、どれも真実よりも深く、胸を貫いた。
「あなたといると、時間の感覚がなくなる」
「俺もだよ。君の中にいるときだけ、現実が消える」
「じゃあ、ずっとこのままでいたい」
「できるよ。俺が世界を止めてみせる」
「それ、絶対嘘」
「でも、君が笑った。だから正解」
彼女の笑みが夜を照らした。
そして静寂の中で、再びふたりの影は一つになった。
──それは罪か、救いか。
ふたりは何も言わずに、朝を拒むように、記憶の海へと深く潜っていった。
第五章:名前のない関係
翌朝、まだ夜の名残がベッドの隅に沈んでいる頃。
彼女は静かに起き上がり、バスローブを羽織った。
「起こしちゃった?」
「いや……君の気配で目が覚めた」
カーテンの隙間から漏れる光が、彼の寝ぼけた顔に落ちる。
「ねえ、私たち、これから何になるんだろうね」
「何って……恋人、じゃないのか?」
「でも、恋人って言うには、あまりにも遅すぎて。かといって、不倫とか愛人とか……そんな名前で呼びたくない」
「名前なんか、なくてもいい。俺たちだけが知ってる関係で」
彼女は静かに笑った。
「それって、すごく都合いい言い方じゃない?」
「そうかもしれない。でも、今さら“君は俺の彼女”って言ったところで、何が変わる?」
「変わらない。だけど……たまに不安になるの。私って、あなたの中でどういう存在なのかって」
彼は枕元に身体を起こし、ため息交じりに言った。
「君は、俺にとって“必要”なんだ。それだけじゃ、足りない?」
「足りない。……だって、“必要”って、コーヒーとか携帯みたいじゃない」
「じゃあ……“かけがえのない存在”」
「言葉を飾っても、空しさは消えないよ」
沈黙が落ちる。
彼女はテーブルに置かれたスマホを見つめながら呟いた。
「今この瞬間、あなたの奥さんが電話してきたら……どうする?」
「出ないよ」
「でも、それが“私といるときのあなた”であって、“現実のあなた”は違う。……そのこと、私はちゃんと分かってる」
彼は言葉を失った。
「……だったら、どうすればいい?」
「何もいらない。名前も立場も。……ただ、嘘をやめてほしい」
「嘘?」
「“ずっと一緒にいたい”とか、“守りたい”とか……そういうの、言わないで」
「それも嘘なのか」
「嘘じゃないかもしれない。でも、叶わないことを言葉にするのは、私にとっては優しさじゃなくて……刃物」
彼はベッドから立ち上がり、彼女の背中にそっと手を伸ばした。
「……わかった。じゃあ、何も言わない」
「ううん……言ってほしい。でも、言葉じゃなくて行動で」
「行動?」
「週に一度、ちゃんと会いに来てくれること。連絡をくれること。嘘をつかず、逃げないこと」
「それだけでいいのか?」
「それだけがいいの。あなたが今“与えられるもの”の中で、私が一番欲しいものだから」
彼は彼女の手をとり、唇を寄せた。
「名前がなくても、君との時間に意味があるなら、それでいい」
「じゃあ……この関係は、名前のないまま、続けるってこと?」
「うん。誰にも説明できなくていい。ただ……君と俺が“今ここにいる”ってこと、それだけが真実」
彼女は目を伏せて、そっと微笑んだ。
「ねえ……次に会えるの、楽しみにしていい?」
「もちろん」
「嘘でも?」
「本当だよ」
「……なら、また来週、同じ部屋で、同じようにキスして」
「君が望むなら、何度でも」
ふたりは名前のない関係を選んだ。
それは不確かで、世間には説明できない形。
けれど、心と心が重なった瞬間だけは、誰よりも確かな愛がそこにあった。
第六章:罪の温度
秋の気配が忍び寄る午後。乾いた風がビルの隙間を吹き抜けていく。彼女は駅前の本屋で待ち合わせ時間よりも早く来ていた。
彼女の手には一冊の文庫本。
ページをめくる指先は、表情に似合わず微かに震えていた。
その震えの理由は、心の中に巣食う「罪」の温度。
そして、その罪を分け合う相手が、今、彼女の視界に入ってきた。
「……待たせた?」
「ううん、私が早く来ただけ。……でも、会えてよかった」
「なんだか、今日の君……声が硬い」
「そうかな。自分では、あまりわからないけど」
ふたりは駅から離れたカフェへ足を運ぶ。
窓際の席、注文されたホットティーとブラックコーヒー。
その香りが、いつかの夜を思い出させた。
「ねえ、私たち……間違ってると思う?」
「間違いって何?」
「倫理とか、常識とか、誠実さとか。そういう“正しさ”に照らしたとき、私たちは……」
「間違ってるかもしれない。でも、心は正しいと思ってる」
「私も、そう思いたい。……でもね、昨日、夢を見たの」
「どんな夢?」
「あなたの奥さんが出てくる夢。……私のこと、笑いながら責めるの。『それがあなたの愛なの?』って」
「それは夢だよ」
「でも……夢の中の言葉って、時々、現実よりも重たく感じるの」
彼は黙り込んだ。
「私ね、別にあなたの奥さんに勝ちたいわけじゃない。ただ、たまに自分が……奪う側になってる気がして、冷たくなるの」
「君は何も奪ってない。……俺は、自分でここに来てる」
「それが優しさだとしたら、余計につらい」
「じゃあ、どうしたい?」
彼女はしばらく黙ったあと、静かに言った。
「このままだと、私はきっと、自分を嫌いになる」
「俺がいるから?」
「違う。……“あなたといるのに、幸せを感じてる自分”が嫌になるの」
彼は彼女の手を取り、指を絡めた。
「だったら、俺も罪を抱える。君の分も、全部」
「そんなの、できないよ」
「できる。そうでもしなきゃ、君を支えられない」
彼女の目に、涙が滲んだ。
「ほんと、ズルい人だね……あなたって」
「ズルくてもいい。君を笑わせたい」
「それって、愛なの? それとも逃避なの?」
「たぶん、両方。でも、どちらも嘘じゃない」
彼女は深く息を吸った。
「ねえ……一つ、お願いがあるの」
「なんでも言って」
「次、会うとき……“選んだあと”にして」
「選ぶって……何を?」
「私か、現実か。ちゃんと、覚悟を持って選んで。それがたとえ私じゃなかったとしても、私は受け止める」
彼は目を閉じた。
「わかった。……約束する」
「ありがとう。……それだけで、少し心が温かくなった」
「それは、罪の温度かもしれないな」
「そうかもね。でも、罪でも……あなたのぬくもりが、私を生かしてるの」
ふたりは言葉少なにカップを持ち上げた。
そこにあるのは、許されぬ関係。
だけど、確かに灯る愛の温度。
罪の重さに震えながらも、それでも心が望むぬくもりから逃げられないふたりの姿が、午後の光に滲んでいた。
第七章:選ばれなかった日
日曜の午後。いつもの喫茶店の窓際席。彼女はひとりきりだった。
テーブルの上に置かれたスマートフォン。その画面には何度も開いたままのメッセージアプリ。
『今日は話せる?』
既読になったまま、返信は来ない。
彼女はコーヒーに口をつけ、冷めきった苦味に眉をしかめた。
「……薄情者」
誰にでもなく呟いたその言葉に、涙は滲まなかった。代わりに胸の奥が、じりじりと焼かれていくような痛みだけが残っていた。
──そして、夜が来た。
部屋に戻っても、連絡は来なかった。
彼女はソファに身を沈め、膝を抱えた。
テレビの音が虚しく空間を埋めている。
不意に、スマートフォンが振動した。
手に取ると、ようやく彼からのメッセージ。
『今日は行けない。ごめん』
短いその一文に、彼女の指先が凍りついた。
しばらくして、返信を打つ。
『わかった』
たった四文字。気持ちはそれ以上、綴れなかった。
すると、数秒後。
『話したいことがあったら、いつでも聞くよ』
彼女はスマホをテーブルに叩きつけた。
「……いつでも、って何? “今日”じゃなきゃ意味ないんだよ……っ」
声が震える。
あれだけ言ったのに。あれだけ、選んでと伝えたのに。
「あなたは、やっぱり何も選ばなかった……!」
翌日。雨の朝。
職場に向かう道すがら、彼女は傘も差さずに歩いていた。
携帯が鳴る。彼からだった。
着信は切れた。
すぐに、メッセージが届く。
『昨日は、本当にごめん。君に会いたかった。だけど……家で色々あって』
彼女はその文を何度も読み返した。
そして、深呼吸して指を動かす。
『私、もう待たないよ。選ばれることも、望まない』
送信してから、また深く息を吸い込む。
数分後、彼から返信。
『そんなこと言わないで』
『……言うよ。だって、私、選ばれなかったんだもの』
電車の窓に映った自分の顔が、やけに大人びて見えた。
涙を流さない代わりに、心はどこか静かになっていた。
喫茶店で交わした言葉。 ベッドの中で囁かれた愛。 手をつなぎながら未来を夢見た時間。
どれも嘘じゃない。 でも、現実に背を向けたままでは、愛だけでは足りなかった。
“選ばれなかった日”。 それは彼女がひとりで生きる決意をした日だった。
第八章:さよならが遅すぎて
三日後、再び彼から連絡が来た。
『会って話したい。どうしても、君に伝えたいことがある』
彼女は既読をつけず、ベッドの上でスマートフォンを伏せた。
──遅い。
あの時、たった一言でよかった。
“今すぐ会いたい” “君を選ぶ”
それが言えなかった人の言葉に、何を期待すればいいのだろう。
けれど──
彼女はなぜか、支度をしていた。
グレーのワンピースに、白いストール。 目元にはうっすらアイライン。
最後くらい、ちゃんと終わらせよう。
彼女は自分に言い聞かせるように、約束のカフェへ向かった。
午後六時。
彼はすでに席に座っていた。
目が合うと、彼の顔が緩んだ。
「来てくれて、ありがとう」
「時間、約束したでしょ」
「……うん。守ってくれて嬉しい」
「それで? 伝えたいことって」
彼は深く息を吸い、彼女を真っすぐ見た。
「妻と話した。……正直に全部。君とのことも」
彼女は目を細めた。
「そう。……それで?」
「離婚する。もう決めた」
その言葉に、心臓が一瞬だけ跳ねた。
だが次の瞬間、彼女はゆっくりと首を振った。
「遅いよ」
「……遅くても、本気なんだ」
「だったら、あの夜。あの日曜の午後。なぜ来なかったの?」
「……怖かった。君を失うのが怖くて、逆に何もできなかった」
「違う。あなたは、現実を壊すのが怖かっただけ。私じゃない」
沈黙。
彼は手を握りしめ、苦しそうに言った。
「確かに、弱かった。だけど、今は違う。君とちゃんと向き合いたい」
「私は……あの日、選ばれなかった。それがすべて」
「選べなかった俺を、許してくれないか」
「許すとか、許さないとかじゃない。ただ……私、もう、待つことに疲れたの」
彼女の目に、ようやく涙が浮かぶ。
「私が欲しかったのは、あなたの覚悟じゃない。あのとき“選ばれた”という証だったの」
「それでも……今からでも遅くないって思ってる。君と一緒に……」
「もう無理」
彼の言葉を遮って、彼女は笑った。
「あなたを責めたいわけじゃない。ただ、私がずっと夢見てた未来は、もうここにはないってこと」
彼は口を開きかけて、結局なにも言えなかった。
「さよなら」
彼女が席を立つ。
「……もう一度だけ、キスしてもいい?」
彼の声が震えていた。
彼女は立ち止まった。
そして、そっと顔を彼に向ける。
「それも、遅すぎたよ」
振り向くことなく、彼女は店を出ていった。
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