オリジナル小説 恋愛

恋のイルミネーション物語/第4部・❄️『恋のイルミネーション☆冬色メモリーズ』5章❄️

小説タイトル『恋のイルミネーション物語/第4部・『恋のイルミネーション☆冬色メモリーズ』

 


🌿 全体テーマ

「あの日、誰かの恋を応援していた少女は、知らないうちに自分自身の恋の物語を始めていた。」

秋編では、るなと先輩の恋が、花火のようなドキドキから、隣にいるだけで安心できる温かな想いへと深まりました。

冬編では、その恋の始まりを振り返りながら、二人がこれから迎える未来へと進んでいきます。
夏の恋は、花火のように弾けた。秋の恋は、イルミネーションのように静かに灯った。その光は、冬へ続いていく。

第4部・『恋のイルミネーション☆冬色メモリーズ』章構成

第1章「あの日から続く冬の光」❄️

時期:11月末〜12月初旬

第1節「秋の終わり、冬の予感」

秋の紅葉が終わり、街に冬のイルミネーションが灯り始める。
るなは、秋に先輩と交わした「冬に会おう」という約束を思い出す。

第2節「冬のイルミネーション、再び」

先輩と待ち合わせ。久しぶりに見る冬の光に、るなは夏の花火や秋の紅葉、二人で過ごした時間を思い返す。

第3節「ひかりが覚えていたこと」

ひかり、ゆずは、まなとの会話から、第1部のひかりと朝比奈透先輩の恋が話題になる。
るなが二人の恋を応援していた頃の思い出がよみがえる。

第4節「誰かの恋を応援していた日」

ひかりが「あの頃、るなにもいっぱい助けてもらったよね」と語る。
るなは、自分が誰かの恋を応援する側だったことを懐かしく思い出す。

第5節「あの日のいちご飴」

帰宅後、るなは昔の出来事を思い出す。
ひかりのためにその場を離れ、いちご飴を買いに行った夜。
そこから、物語は過去へと移る。

第2章「いちご飴と、最初の出会い」🍓

回想:第1部の頃

第1節「ひかり、作戦です!」

イルミネーションと花火が輝く夜。るなは、ひかりと透先輩の様子を見て、二人きりになる時間を作ろうとする。

「あっ! あっちにいちご飴売ってます!」

自分も食べたい気持ちは隠せない、るならしい作戦🤣

第2節「いちご飴に夢中♡」

無事にいちご飴を手に入れたるな。花火よりもイルミネーションよりも、目の前のいちご飴に夢中になってしまう。

第3節「ドンッ! すみません!」

よそ見をしながら歩いていたるなは、スケッチブックを持った少年――桐生蒼先輩にぶつかってしまう。

「あっ、すみません!」

散らばった紙を拾うるな。その中の一枚に、目が留まる。

第4節「光を描く人」

蒼先輩が描いていたのは、イルミネーションと花火の風景。単に光を描くのではなく、光に照らされた街や人々の表情まで描かれていた。

「……きれい」

るなは、その絵に心を惹かれる。

第5節「もう一度、見たい絵」

少し言葉を交わした二人。るなはお詫びにいちご飴を勧めるなど、ちょっとした笑いも生まれる。

別れたあと、るなはもう一度あの絵を見たいと思う。しかし、この時点ではまだ、それが恋の始まりだとは気づいていない。

第3章「絵の中に見つけた光」🎨

時期:12月

第1節「また会えたらいいな」

現在に戻る。るなは、あの日の出会いを思い出しながら、先輩との思い出をたどる。
最初は少し他人行儀だった二人が、いつの間にか自然に一緒にいられる関係になっていた。

第2節「先輩のスケッチブック」

先輩と冬の街を歩く中で、昔のスケッチブックの話になる。
先輩も、いちご飴を食べながら絵にぶつかってきたるなのことを覚えていた。

「……そこ、覚えてたんですか!?」

「忘れるわけないだろ」

るな、真っ赤になる🤣🍓

第3節「同じ景色、違う気持ち」

二人でイルミネーションを眺める。
昔は絵に惹かれたるなも、今は先輩と一緒にこの景色を見られることに幸せを感じる。

第4節「先輩が見ている世界」

先輩がスケッチブックを開く。
るなは、先輩が光だけでなく、その場にいる人の気持ちまで大切に描いていることに改めて気づく。

第5節「私も、この景色の一部」

先輩が、イルミネーションを眺めるるなの姿を描く。
るなは、自分もまた先輩の見ている世界の一部になっているのだと感じる。

第4章「冬色に深まる恋」💕❄️

第1節「寒いね、先輩」

冷たい風が吹く夜。二人は温かい飲み物を買い、ゆっくり街を歩く。
何気ない会話にも、以前とは違う安心感がある。

第2節「思い出の写真」

るなはスマートフォンの写真を見返す。
夏の花火、秋いちご、お月見、焼きいも、ハロウィン、モンブラン、紅葉。
季節の一つひとつに先輩や友達との思い出が詰まっている。

第3節「変わったこと、変わらないこと」

先輩と出会った頃の自分を思い出す。
緊張していたこと、絵に心を動かされたこと、そして今、隣で自然に笑えること。
恋の形は変わっても、好きな気持ちは変わらない。

第4節「これからも、一緒に」

るなは、先輩とこれからも季節を重ねていきたいと伝える。
先輩もまた、これからの景色を一緒に見ていこうと答える。

第5節「冬色のイルミネーション」

二人の前に広がる冬の光。
るなは、夏の花火から始まった恋が、秋を越えて今も続いていることを感じる。

第5章「次の季節へ、恋の光」✨

第1節「クリスマスの約束」

クリスマスが近づく。るなと先輩は、冬の街で過ごす時間を楽しみにする。
大きなイベントだけでなく、何気ない時間も大切にしたいと思うようになる。

第2節「友達と見る冬の光」

ひかり、ゆずは、まなとも冬のイルミネーションを楽しむ。
恋人との時間だけでなく、友達と笑い合う時間も、るなにとってかけがえのない光だと改めて感じる。

第3節「先輩の描いた、私」

先輩が描いた、イルミネーションの中にいるるなの絵。
るなは少し恥ずかしがりながらも、絵の中の自分が幸せそうに笑っていることに気づく。

第4節「また来年も」

二人は来年も一緒に冬のイルミネーションを見ようと約束する。
るなは、来年だけでなく、その先の季節も一緒に迎えたいと願う。

第5節「冬色メモリーズ」

物語の締めくくり。るなは、これまでの季節を思い返す。

夏の花火のように弾けた恋。秋の紅葉のように深まった恋。
そして冬のイルミネーションのように、静かに輝き続ける恋。
あの日、いちご飴を買いに行かなかったら。

あの日、先輩の絵に出会わなかったら。

今の私は、ここにいなかったのかもしれない。

「……先輩に出会えて、よかった」

「何か言った?」

「……秘密です♡」

冬の光は、次の季節へと続いていく。

 

 

ジャンル

青春恋愛小説/アイドル的ラブストーリー/季節物
(全年齢・やさしい恋)

主要登場人物(6名)


1. 星野 るな(ほしの るな)

  • 年齢:18歳

  • 性別:女性

  • 立場:高校2年生、ひかりの親友(ひかりとは永久親友)

  • 性格:性恋バナ担当で親友の背中を押す役。いちごとチョコがあれば幸せ。ズレた発言で周囲を和ませる。恋に対してはマイペースで、「急がない恋派」

  • 役割:今回の主人公。一応気になる人はいるが、親友と甘いものがあれば満足。誰からも愛されるキャラだが、決してお節介ではなく、ほんの少し背中を押すタイプ

2.桐生 蒼(きりゅう あおい)

  • 年齢:19歳

  • 性別:男性

  • 立場:美術大学1年生

  • 性格:穏やかで観察眼が鋭い。感性が豊かで、言葉選びが独特

  • 役割:るなの「一応気になる人」。るなの"ズレた発言"を面白がり、自然体で接してくれる。るなが唯一「ちょっとドキドキする」相手


3. 白雪 ひかり(しらゆき ひかり)

  • 年齢:18歳

  • 性別:女性

  • 立場:高校3年生、るなの親友(るなの"永久親友枠")

  • 性格:明るい・ちょっと照れ屋・感情表現が素直

  • 役割:恋愛の経験者・るなの支え


4. 小日向 まな(こひなた まな)

  • 年齢:17歳

  • 性別:女性

  • 立場:高校2年生で後輩

  • 性格:元気で憧れ体質。るなを「るな先輩」と慕っている

  • 役割:るなの恋心に最初に気づき、さりげなくサポートする役割。純粋な応援者

5.橘 ゆずは(たちばな ゆずは)

  • 年齢:18歳

  • 性別:女性

  • 立場:高校3年生、るなのクラスメイトでひかりとるなとは友人

  • 性格:しっかり者でちょっと毒舌。でも根は優しい

  • 役割:るなの恋を外側から冷静にツッコミつつ、実は誰よりも応援している


6. 朝比奈 透(あさひな とおる)

  • 年齢:19歳

  • 性別:男性

  • 立場:大学1年生

  • 性格:優しい・落ち着いている・少し不器用

  • 役割:白雪ひかりの恋人


舞台・設定

街(イルミネーションのある商店街)

  • 場所:
    地方都市の高校とその周辺。商店街、カフェ、コンビニ、公園、そして冬から春にかけてのイルミネーションスポット

  • 地方都市

  • 毎年11月から3月まで
    「ウィンターイルミネーション+月1回の冬花火」が行われる街

  • 高校・駅前・商店街・川沿いの花火スポット


物語の世界観を特徴づける重要な設定:

  • 「るな基準の記念日」という概念。るなは日常の小さな幸せを勝手に記念日化する

  • いちごとチョコという二つの「甘さ」が、恋心のメタファーとして機能

  • 「恋は急がなくていい」という、るな独自の恋愛哲学

  • ひかりと透の関係が「ゆっくり育てた恋の成功例」として物語の背景に存在

 

 

 第4部・『恋のイルミネーション☆冬色メモリーズ』第5章「次の季節へ、恋の光」💕❄️

第1節「クリスマスの約束」

十二月の街は、少しずつクリスマスの色に染まり始めていた。

駅前の広場には、去年よりも大きくなったように感じるクリスマスツリーが飾られ、商店街の入り口には赤と緑のリースが並んでいる。ショーウィンドウには雪の結晶や星をかたどった飾りが揺れ、歩道沿いの街路樹には、白や金色のイルミネーションが巻きつけられていた。

夕方になると、街のあちこちに明かりがともる。

昼間は何気ない道だった場所も、夜にはまるで別の世界のように見えた。

そんな景色を眺めながら、星野るなはスマートフォンを両手で握りしめていた。

画面には、桐生蒼から届いたメッセージ。

『今度の週末、時間ある? クリスマスの飾りを見に行かない?』

その短い文章を、るなはもう何度も読み返していた。

「……えへへ」

思わず、口元が緩む。

「クリスマス……先輩と……」

声に出した瞬間、頬がじんわりと熱くなった。

クリスマスが近づいている。

街が華やかになっていくのも楽しみだったけれど、それ以上に楽しみなのは、先輩と一緒に過ごせる時間だった。

大きなクリスマスツリーを見たい。

イルミネーションのトンネルを歩きたい。

温かいココアを飲みたい。

クリスマス限定のケーキも食べたい。

……できれば、いちごがたっぷり乗ったケーキがいい。

「……はっ!」

るなは、突然何かを思い出したように顔を上げた。

「クリスマスケーキ……予約しなきゃ!」

恋する乙女の頭の中に、食べ物の予定が割り込んできた。

しかし、すぐにスマートフォンの画面へ視線を戻す。

「……違う違う。今は先輩とのクリスマスのことを考える時間です!」

自分に言い聞かせるようにつぶやいたものの、数秒後には再び考え込んでしまう。

「でも……いちごのケーキ……先輩と半分こ……」

想像しただけで、頬が緩んだ。

「……最高かもしれません♡」

そのとき、部屋のドアがコンコンと鳴った。

「るな、何を一人でにやにやしてるの?」

顔をのぞかせたのは、白雪ひかりだった。

「に、にやにやなんてしてません!」

「そう? 今、すごく幸せそうな顔をしていたけど」

「そ、それは……!」

るなはスマートフォンを胸元に隠した。

ひかりはそんな親友の様子を見て、ふわりと微笑んだ。

「蒼先輩から?」

「……っ!」

「当たりね」

「ひかり! どうしてわかったんですか!」

「だって、るなって先輩から連絡が来ると、すぐ顔に出るんだもの」

「そんなことありません!」

「じゃあ、今、何を考えていたの?」

「えっと……クリスマスの予定と……」

「うん」

「……いちごのケーキです」

「やっぱり食べ物じゃない!」

ひかりが思わず笑う。

るなもつられて笑った。

「だって、クリスマスにはおいしいものがいっぱいあるんですよ? ケーキに、チキンに、チョコレートに……。それに、冬限定のいちごスイーツも!」

「はいはい。るなのクリスマスは、食べ物でもいっぱいね」

「違いますよ! 先輩と一緒に食べるから、もっと特別なんです!」

言い切ってから、るなは口元を押さえた。

「……あ」

ひかりは一瞬目を丸くし、それから優しく笑った。

「うん。そういうところが、るならしいね」

「……からかわないでください」

「からかってないよ。本当にそう思ったの」

ひかりは、るなの隣に腰を下ろした。

「去年の今頃は、私たちもいろいろあったね」

その言葉に、るなは少しだけ表情を変えた。

去年の冬。

ひかりの恋を応援していた日々。

ひかりと透先輩が二人で過ごせるように、あれこれ作戦を考えていたこと。

そして、いちご飴を買いに行った帰り道で、絵を描いていた一人の男の子と出会ったこと。

桐生蒼。

今では、隣を歩くだけで心が落ち着き、手を握られると嬉しくて、何気ない言葉さえ大切な思い出になる人。

あの日、いちご飴を買いに行かなかったら。

あの日、彼の描く絵に目を留めなかったら。

二人の物語は、始まっていなかったかもしれない。

「……本当に、不思議ですよね」

るなは小さく笑った。

「去年の私は、ひかりの恋を応援するのに夢中だったんです。まさか自分が、こんなふうに誰かを大好きになるなんて、あのときは思っていませんでした」

「そうだね」

「先輩と出会って、絵を見せてもらって、少しずつ話すようになって……。最初は、先輩の見ている世界をもっと知りたいって思っていたんです」

「今は?」

ひかりに尋ねられ、るなは少し考えた。

「……今は、先輩が見ている世界を知りたいのと同じくらい、先輩と一緒にいろんな景色を見たいです」

「素敵だね」

「それで……」

るなは、膝の上で指先をそっと組んだ。

「クリスマスも、その先も……。特別な日だけじゃなくて、普通の日も、先輩と一緒に過ごせたらいいなって」

ひかりは、親友の横顔を見つめた。

そこには、出会った頃のような初々しいときめきだけではなく、相手と過ごしてきた時間から生まれた、穏やかな愛情があった。

「るな、きっと大丈夫だよ」

「……ひかり?」

「だって、るなはもう、ちゃんと自分の気持ちを伝えられるようになったもの」

「……そうでしょうか」

「うん。前だったら、好きって気持ちだけで胸がいっぱいになって、何も言えなくなっていたかもしれない。でも今は、先輩と一緒にいたいって、自分の言葉で話せるでしょう?」

るなは、少し恥ずかしそうに笑った。

「……先輩の前では、今でもドキドキしますよ」

「知ってる」

「ひかり!」

「ふふっ、ごめんね」

二人は顔を見合わせて笑った。

その笑い声は、冬の冷たい空気を忘れさせてくれるほど、温かかった。

やがて、ひかりが立ち上がった。

「じゃあ、クリスマスの予定、楽しんできてね」

「はい!」

「それと、いちごのケーキを食べるなら、ちゃんと先輩にも分けてあげてね」

「もちろんです! ……でも、いちごは一個だけ多くもらってもいいでしょうか?」

「そこは公平にしなさい!」

「えええっ! クリスマスくらい、いちごの特別待遇を……!」

「るな!」

「はーい……」

ひかりは笑いながら部屋を出ていった。

一人になったるなは、再びスマートフォンを手に取った。

画面には、蒼からのメッセージが残っている。

『今度の週末、時間ある? クリスマスの飾りを見に行かない?』

るなは、ゆっくりと返信を打ち始めた。

『あります! ぜひ一緒に行きたいです♡』

送信ボタンを押す。

すぐに既読がついた。

そして、少ししてから返信が届いた。

『よかった。じゃあ、いつもの駅で待ち合わせよう』

それだけの言葉なのに、るなの胸はいっぱいになった。

「……いつもの駅」

特別な場所ではない。

二人が何度も待ち合わせをした、いつもの駅。

けれど、るなにとっては、先輩に会える大切な場所だった。

「……楽しみだなあ」

今度の週末が、待ち遠しかった。

クリスマスの飾りを見ることも、イルミネーションを歩くことも、温かい飲み物を飲むことも。

その一つひとつが、きっと新しい思い出になる。

そして、るなはふと思った。

――大切なのは、何をするかだけじゃない。

――誰と一緒に、その時間を過ごすかなんだ。

そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。

週末。

待ち合わせの駅に着いたるなは、改札の近くで周囲を見回していた。

冬の空気は冷たく、吐く息がほんの少し白くなる。

るなは、淡い水色のマフラーを首に巻き、白いコートのポケットに両手を入れていた。

「……先輩、まだかな」

約束の時間までは、あと三分。

早く着きすぎたかもしれない。

でも、待っている時間さえ嫌ではなかった。

これから会える。

そう思うだけで、心が弾むのだ。

そのとき。

「るな」

聞き慣れた声がした。

振り向くと、蒼が歩いてくるところだった。

濃い色のコートに、落ち着いた色のマフラー。

肩には、いつものスケッチブックが入ったバッグを掛けている。

「先輩!」

るなは思わず笑顔になった。

「お待たせ」

「いえ! 私も今来たところです!」

「本当に?」

「……三分くらい前です」

「それは、今来たと言っていいのかな」

「いいんです!」

蒼は、くすりと笑った。

「そっか。じゃあ、今来たるなと一緒に、これから出かけようか」

「はい!」

何気ないやり取り。

それだけなのに、るなは嬉しかった。

蒼も、そんな彼女の表情を見て、自然に微笑んだ。

「今日は、どこから見て回ろうか」

「駅前のツリーが見たいです! それから、商店街のイルミネーションも! あと、クリスマス限定のお店も気になりますし、カフェも……」

「うん」

「それと、もしよかったら、ケーキのお店にも……」

「最後はケーキなんだね」

「……あっ!」

るなは慌てて両手を振った。

「違います! 違わないですけど、今日はちゃんとイルミネーションが主役です!」

「じゃあ、イルミネーションを見たあとにケーキにしよう」

「……いいんですか?」

「もちろん。るなが楽しみにしていたんでしょう?」

その言葉に、るなは目を輝かせた。

「……先輩、大好きです!」

口にしてから、はっとする。

駅前には、ほかにも人がいる。

聞こえていなかっただろうか。

るなは慌てて周囲を見回した。

蒼は一瞬驚いたように目を瞬かせたあと、優しく笑った。

「ありがとう。僕も、るなのそういうところが好きだよ」

「……っ!」

るなの頬が、あっという間に赤くなった。

「そ、そういうところって……どこですか?」

「嬉しいことを、嬉しいって素直に言えるところ」

蒼は、少しだけ首を傾けた。

「一緒にいると、僕も楽しくなるんだ」

「……先輩」

るなは、マフラーに顔の半分を埋めた。

冬の空気は冷たいはずなのに、顔が熱くて仕方がない。

「……今日は、心臓が忙しくなりそうです」

「今日は?」

「い、いつもですけど!」

「そっか」

蒼は笑いながら、そっと手を差し出した。

「行こうか」

るなは、その手を見つめた。

それから、嬉しそうに自分の手を重ねた。

「……はい!」

指先が触れ、手のひらが重なる。

何度もつないできた手。

それでも、つなぐたびに新しい気持ちが生まれる。

二人はゆっくりと歩き始めた。

駅前広場に到着すると、そこには大きなクリスマスツリーがそびえ立っていた。

深い緑色の枝には、金色のリボンや赤いオーナメントが飾られ、無数の小さな光が瞬いている。

ツリーの頂上には大きな星。

その星は、夕暮れの空に向かって、まるで道しるべのように輝いていた。

「わあ……!」

るなは、思わず足を止めた。

「きれい……!」

金色の光が、瞳の中に映る。

その表情は、初めてイルミネーションを見た子どものように無邪気だった。

蒼はツリーを見上げながら、隣のるなに目を向けた。

「去年も、こんなふうに飾られていたのかな」

「どうでしょう……。去年は、ひかりの恋を応援することに夢中だったので、じっくり見ていなかったかもしれません」

「ひかりさんと透くんの?」

「はい。二人がうまくいくといいなって、ずっと考えていました」

るなは、ツリーの明かりを見つめながら微笑んだ。

「もちろん、今でも二人には幸せでいてほしいです。でも……あの頃の私は、自分の恋が始まるなんて思ってもいませんでした」

「いちご飴を買いに行った日だね」

「……そうです」

るなは、蒼の手を少しだけ握り直した。

「先輩にぶつかって、絵を見せてもらって……。あの日のこと、今でもよく覚えています」

「僕も覚えているよ」

「本当ですか?」

「うん。急に誰かがぶつかってきて、持っていた紙が散らばって。それで、君が慌てて拾ってくれた」

「ううっ……。あの日の私は、前を見ていなかったんです」

「いちご飴に夢中だったから?」

「……はい」

蒼は、くすくすと笑った。

「でも、あの日、るなに絵を見てもらえてよかった」

その言葉に、るなは顔を上げた。

「……私が?」

「うん。あのとき、君は絵を見て、ただ『きれい』って言っただけじゃなかった」

蒼は、少し懐かしそうに目を細めた。

「光の中にいる人たちが、どんな気持ちなのか気になるって言ってくれた。僕が描こうとしていたものを、ちゃんと見てくれた気がしたんだ」

「……だって、本当にそう思ったんです」

るなは、まっすぐに彼を見つめた。

「先輩の絵には、光だけじゃなくて、そこにいる人の気持ちも描かれているように見えたから」

「ありがとう」

蒼は、静かに微笑んだ。

「今でも、そう言ってもらえるのは嬉しいよ」

二人の間に、穏やかな沈黙が流れた。

周囲では、クリスマスソングが流れている。

子どもたちの笑い声。

写真を撮る人たちの声。

どこかから漂ってくる、甘いお菓子の香り。

たくさんの人が、それぞれのクリスマスを楽しんでいた。

その中で、るなは蒼の隣に立っていた。

去年は、彼のことを知らなかった。

彼がどんな絵を描くのかも、何が好きなのかも、どんな声で笑うのかも知らなかった。

それが今では、隣にいることが自然になっている。

彼の笑顔を見ると嬉しくなり、彼の声を聞くと安心する。

何かを話したいときも、何も話さずにいたいときも、隣にいてほしいと思う。

「……先輩」

「うん?」

「来年も、このツリーを一緒に見られたらいいですね」

蒼は、少しだけ目を見開いた。

それから、優しくうなずいた。

「そうだね。来年も、その次の年も」

「……その次の年も?」

「うん。毎年、違う飾りが増えるかもしれないし、同じ飾りでも、見るときの気持ちは変わるかもしれない」

蒼はツリーを見上げた。

「だから、また一緒に見に来たいな」

るなの胸に、温かな喜びが広がった。

「……約束ですよ?」

「約束」

蒼は、つないだ手をそっと握り返した。

「来年も、一緒に見よう」

「はい!」

その約束は、クリスマスツリーを見るという、小さな約束だった。

けれど、るなには、それ以上の意味があるように思えた。

来年も会いたい。

来年も笑い合いたい。

来年も、隣にいたい。

そして、その先も。

二人で同じ景色を見ながら、少しずつ思い出を増やしていきたい。

るなは、ツリーの頂上で輝く星を見つめた。

「……なんだか、願い事をしたくなりますね」

「どんな願い事?」

「えっ……それは……」

るなは困ったように笑った。

「……秘密です」

「秘密なんだ」

「はい。言っちゃったら、願い事じゃなくなりそうですから」

「そっか」

蒼は、それ以上尋ねなかった。

ただ、彼女の手を握ったまま、隣にいてくれた。

るなは心の中で、そっと願った。

――来年も、その先も。

――先輩と一緒に、いろんな景色を見られますように。

ツリーを見たあと、二人は商店街へ向かった。

街路樹には白い光が巻きつけられ、頭上には星の形をした飾りがいくつも浮かんでいる。

店先には、サンタクロースの人形や、小さな雪だるまの置物。

ガラス越しに見えるケーキ屋には、赤いリボンを飾ったクリスマスケーキが並んでいた。

るなの歩く速度が、ほんの少しだけ遅くなった。

蒼はすぐに気づいた。

「ケーキ、気になる?」

「……はい」

るなは、正直にうなずいた。

「だって、見てください! いちごがたくさん乗っているんです! それに、チョコレートの飾りも、雪みたいな粉砂糖も……!」

ガラスの向こうには、真っ白なクリームの上に、真っ赤ないちごが並んだケーキがあった。

その隣には、チョコレートクリームのケーキ。

さらに奥には、雪だるまを模した小さなケーキや、星形の飾りを乗せたタルトまである。

「……選べません」

るなは、真剣な顔でつぶやいた。

「いちごも食べたいし、チョコレートも食べたいし……。でも、モンブランもおいしそうです……」

「クリスマスなのに、モンブランも候補に入るんだね」

「もちろんです! おいしいものに季節の制限はありません!」

「名言だね」

「でしょう?」

るなは胸を張った。

しかし、すぐに恥ずかしくなって、少しだけ視線をそらした。

「……でも、本当に食べたいのは、先輩と一緒に食べるケーキです」

蒼は、彼女を見つめた。

「一緒に食べようか」

「……え?」

「クリスマスの日に。ケーキを買って、一緒に食べよう」

るなの瞳が、ぱっと輝いた。

「いいんですか?」

「もちろん。どんなケーキがいい?」

「えっと……いちごのケーキがいいです!」

即答だった。

蒼は笑った。

「迷っていたのに?」

「迷いました。でも、先輩と食べるなら、やっぱりいちごです!」

「じゃあ、いちごのケーキにしよう」

「……やったあ!」

るなは思わず小さく跳ねた。

その姿を見て、蒼は優しい声で言った。

「でも、るな」

「はい?」

「ケーキだけじゃなくて、ほかのことも考えておこうか」

「ほかのこと?」

「クリスマスの日、何をしたい?」

るなは、少し考えた。

大きなツリーを見たい。

イルミネーションを歩きたい。

クリスマスソングを聴きたい。

温かい飲み物を飲みたい。

それから……。

「……先輩と、ゆっくり話したいです」

「ゆっくり?」

「はい。クリスマスの飾りを見たり、ケーキを食べたりするのも楽しみです。でも、先輩とゆっくり話す時間も、いっぱいほしいです」

るなは、少し照れながら続けた。

「最近、先輩と一緒にいると、何をしていても楽しいんです。だから、すごいイベントじゃなくてもいいんです」

「うん」

「ただ一緒に歩いたり、カフェでお茶をしたり……。今日みたいに、途中でケーキのお店に立ち止まったり」

「ケーキのお店は、かなり大切なんだね」

「そこは譲れません!」

二人は笑った。

るなは、再びケーキ屋のショーウィンドウに目を向けた。

「……でも、本当にそう思うんです」

今度は、冗談ではない声だった。

「特別な日も、もちろん大好きです。でも、何でもない日に先輩と会えるのも、すごく嬉しいんです」

蒼は、静かに彼女の話を聞いていた。

「学校が終わったあとに少しだけ会えたり、駅まで一緒に歩いたり、メッセージを送り合ったり……。そういう小さなことが、私にとっては大切なんです」

るなは、つないだ手を見下ろした。

「前は、先輩と会える日って、それだけで特別な日だったんです。今も特別ですけど……最近は、会えることが特別というより、先輩と一緒に過ごす時間そのものが、好きになった気がします」

蒼の表情が、柔らかくなった。

「……僕も、同じだよ」

「先輩も?」

「うん。最初は、るなに絵を見てもらうことが嬉しかった。もっと話してみたいと思ったし、次に会えるのが楽しみだった」

蒼は、少し懐かしそうに微笑んだ。

「今は、絵を描いているときに、これをるなに見せたらどんな顔をするかなって考えることがある」

「……私の顔ですか?」

「うん。面白い絵だったら笑ってくれるかな、とか。きれいな景色だったら、きっと目を輝かせるだろうな、とか」

「……先輩」

「それに、何かを見つけたとき、今度るなと一緒に来たいなって思うこともあるんだ」

るなは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

自分だけではなかった。

蒼もまた、見た景色を彼女と分かち合いたいと思ってくれている。

美しいものを見つけたとき。

おいしいものを食べたとき。

何気ない日常の中で、ふと心が動いたとき。

その瞬間に、相手のことを思い出す。

そして、いつか一緒に経験できたらいいと願う。

そんな気持ちが、二人の間で少しずつ育っていた。

「……先輩」

「うん?」

「クリスマス、すごく楽しみです」

「僕もだよ」

「でも……」

るなは、いたずらっぽく笑った。

「クリスマスが終わっても、また会ってくださいね?」

蒼は、少し驚いたように彼女を見た。

「もちろん」

「お正月が来ても?」

「うん」

「冬休みが終わっても?」

「もちろん」

「いちごの季節が来ても?」

「……それは、むしろ誘われそうだね」

「絶対に誘います!」

るなは、力強く宣言した。

「春になったら、いちごのスイーツを食べに行きましょう! それから、桜も見たいです! 夏になったら花火! 秋になったらモンブランと焼きいも! そして冬になったら、またイルミネーション!」

「一年中、予定がいっぱいだね」

「はい!」

「楽しそうだ」

「……本当に?」

「うん。るなと一緒なら、どれも楽しみだよ」

その言葉を聞いた瞬間、るなは立ち止まった。

「……先輩、それは反則です」

「反則?」

「そんなことを言われたら……」

るなは、マフラーで口元を隠した。

「……もっと好きになっちゃいます」

蒼は、彼女の手をそっと握り直した。

「……じゃあ、もっと好きになってもらえるように、これからも一緒にいよう」

るなは、顔を上げた。

冬のイルミネーションが、蒼の瞳の中にも映っている。

その瞳を見つめながら、るなは小さくうなずいた。

「……はい」

今度は、からかうような声ではなかった。

まっすぐな気持ちを、そのまま届けるように。

「これからも、一緒にいたいです」

「うん。一緒にいよう」

二人は、再び歩き始めた。

ショーウィンドウに映った二人の姿が、街の光の中をゆっくりと進んでいく。

その先には、まだ見たことのない景色がたくさん待っている。

クリスマスの夜も。

その次の日も。

春の桜も、夏の花火も、秋の紅葉も。

そして、また巡ってくる冬のイルミネーションも。

二人は、これから一つずつ、その景色を見ていくのだ。

商店街の途中に、小さな雑貨屋があった。

窓辺には、ガラスのオーナメントや雪だるまの置物が飾られている。

るなは、その前で足を止めた。

「先輩、ここ、ちょっと見てもいいですか?」

「もちろん」

店内には、クリスマスを彩る小物が並んでいた。

手のひらに乗るほど小さなツリー。

赤いリボンを巻いたキャンドル。

星形のガラス飾り。

そして、透明な雪の結晶をかたどったオーナメント。

るなは、その雪の結晶を見つめた。

以前、二人で冬の街を歩いたときにも、似たような飾りを見つけたことがあった。

そのとき蒼が買ってくれた小さな雪の結晶は、今もるなの部屋に飾ってある。

毎年、冬になると取り出して、窓辺に飾ろうと決めた、大切な思い出の品だ。

「……あ」

蒼も気づいたようだった。

「前に買った飾り、飾ってくれている?」

「もちろんです!」

るなは、嬉しそうにうなずいた。

「毎年、飾りますって約束しましたから!」

「ありがとう」

「それに、見るたびに思い出すんです。先輩と一緒に歩いた日のこと」

「僕も、あの日のことは覚えているよ」

蒼は、店内の飾りを見渡した。

「こういうものって、ただの飾りに見えるかもしれないけど、思い出があると、特別になるよね」

「……はい」

るなは、透明な雪の結晶にそっと指を伸ばした。

光を受けるたび、小さな虹色の輝きが浮かんでは消える。

「この飾りも、最初はきれいだなって思っただけだったんです。でも、先輩と一緒に選んだから、今では見るたびに嬉しくなります」

「じゃあ、これからも、そういう思い出を増やしていこうか」

「……はい!」

るなは、もう一度店内を見回した。

そこには、さまざまな飾りが並んでいる。

一つ一つは、小さなもの。

高価なものでも、特別なものでもないかもしれない。

けれど、誰かと一緒に選んだり、贈り合ったりしたものは、時間が経つほどに意味を持っていく。

思い出が重なり、そこに気持ちが宿っていくからだ。

「……先輩」

「うん?」

「クリスマスの日、何か一つだけ、二人の思い出になるものを選びませんか?」

「いいね。何にしようか」

「それは、当日のお楽しみです!」

「るなが決めるの?」

「はい! でも、先輩も一緒に選んでくださいね」

「もちろん」

るなは、満足そうに笑った。

クリスマスには、たくさんの楽しみがある。

大きなツリー。

美しいイルミネーション。

甘いケーキ。

温かい飲み物。

そして、プレゼント。

けれど、るなが本当に楽しみにしているのは、そのどれか一つだけではなかった。

それらを、蒼と一緒に楽しめること。

二人で迷い、二人で選び、二人で笑うこと。

その時間こそが、彼女にとってのクリスマスだった。

雑貨屋を出ると、空はすっかり暗くなっていた。

街路樹のイルミネーションが、先ほどよりも鮮やかに見える。

るなと蒼は、再び並んで歩いた。

しばらくすると、蒼が口を開いた。

「るなは、クリスマスって好き?」

「はい! 大好きです!」

るなは即答した。

「街がきれいになるし、おいしいものもいっぱいあるし、プレゼントを選ぶのも楽しいです!」

「やっぱり、おいしいものは外せないんだね」

「もちろんです!」

るなは笑ったあと、少し考え込んだ。

「……でも、昔はクリスマスって、特別な日だから好きだったのかもしれません」

「今は違う?」

「今も特別な日です。でも……」

るなは、蒼の手を握りながら、ゆっくりと言葉を続けた。

「今は、クリスマスじゃなくても、先輩と一緒にいられる日が好きです」

蒼は、黙って彼女の話を聞いていた。

「クリスマスは、街がきれいで、いつもより少し特別なことができる日ですよね。でも、クリスマスが終わったら、街の飾りも片づけられて、いつもの景色に戻っていくでしょう?」

「そうだね」

「それでも、私は先輩と一緒にいたいです。特別な飾りがなくても、何かイベントがなくても……。いつもの道を歩いたり、駅で待ち合わせたり、帰りに少しだけお話ししたり」

るなは、少し照れくさそうに笑った。

「そんな普通の日も、きっと大切な思い出になると思うんです」

蒼は、しばらく考えてから、静かにうなずいた。

「……僕もそう思うよ」

「本当ですか?」

「うん。きれいな景色を描くのは好きだけど、特別な景色だけを描きたいわけじゃないんだ」

蒼は、街路樹の光を見上げた。

「何でもない帰り道や、窓から差し込む光、誰かが笑っているところ。そういう、普段は見過ごしてしまいそうなものにも、描きたいと思う瞬間がある」

「……先輩らしいですね」

「そうかな」

「はい。先輩の絵って、特別な光だけじゃなくて、そこにいる人の気持ちも見える気がするんです」

るなは、彼の横顔を見つめた。

「だから、私は先輩の絵が好きになったんだと思います」

蒼は少し照れたように笑った。

「……そう言ってもらえると、嬉しいな」

「それで、今は……」

るなは、つないだ手をそっと持ち上げた。

「先輩の絵を見るだけじゃなくて、先輩と一緒に、その景色の中にいたいんです」

蒼は、彼女を見つめた。

「……るな」

「はい」

「じゃあ、これからも、いろんな景色を一緒に見よう」

その言葉に、るなは大きくうなずいた。

「はい!」

二人は、ゆっくりと歩いた。

光のトンネルを抜け、広場を通り、駅へと向かう道。

その途中にも、たくさんの小さな景色があった。

ショーウィンドウに映る二人の姿。

街灯の下で揺れる木の枝。

道端に置かれた、小さなクリスマスの飾り。

温かい飲み物を手にして笑う人たち。

そのどれもが、いつか思い出になるかもしれない。

そして、何年か先に振り返ったとき、二人はきっと思うのだろう。

あの日は、特別なことをしたわけではなかった。

ただ、街を歩いて、飾りを見て、たくさん話をしただけだった。

それでも、あの日は大切な日だった、と。

隣に、大好きな人がいたから。

駅へ向かう途中、るなはふと足を止めた。

「あっ、先輩!」

「どうしたの?」

「クリスマスの日、もし時間があったら……」

るなは少しだけ言いよどんだ。

「……一緒に、温かいココアを飲みたいです」

蒼は微笑んだ。

「いいね。飲もう」

「それで、できれば……」

「うん?」

「先輩のスケッチブックも、見せてほしいです」

「スケッチブック?」

「はい。クリスマスの景色を、先輩がどんなふうに見ているのか知りたいんです」

るなの目は、真剣だった。

「先輩が描くクリスマスの絵を、いつか見てみたいです」

蒼は、自分のバッグに視線を落とした。

その中には、いつものスケッチブックが入っている。

これまでに描いてきた景色。

夏の花火。

秋の紅葉。

冬のイルミネーション。

そして、その景色の中にいる人たち。

最近は、そこにるなの姿を描くことも増えていた。

笑っている顔。

何かを見つけて目を輝かせる顔。

食べ物を前にして真剣になる顔。

そして、何気ない瞬間に見せる、穏やかな表情。

どれも、蒼にとっては大切な光だった。

「……わかった。クリスマスの景色も、描いてみるよ」

「本当ですか?」

「うん。ただ、まだどんな絵になるかはわからないけど」

「それでも、楽しみです!」

るなは、嬉しそうに笑った。

「先輩が見た景色を、先輩の絵で見られるのが楽しみなんです」

「ありがとう。じゃあ、僕も、るながどんな顔をするのか楽しみにしていようかな」

「……え?」

「絵を見たときの顔」

「……先輩!」

るなは、思わず顔を覆った。

「そんなこと言われたら、変な顔になっちゃいます!」

「変な顔でも、るならしい顔なら大丈夫だよ」

「大丈夫じゃありません!」

蒼は、声を立てずに笑った。

るなも、恥ずかしさをこらえながら笑った。

そして、ふと顔を上げる。

「……でも、先輩」

「うん?」

「私、先輩の絵の中にいられたら、嬉しいです」

蒼は、彼女を見つめた。

るなは、少しだけ頬を赤くしながら続けた。

「もちろん、絵の中だけじゃなくて、現実でも……。先輩が見ている景色の中に、私も一緒にいられたらいいなって」

その言葉は、冬の空気の中に静かに溶けていった。

蒼は、つないだ手を握り返した。

「……もう、ちゃんと一緒にいるよ」

「……先輩」

「僕が見ている景色には、るながいる。これから描く絵にも、これから見に行く景色にも、るなと一緒にいた時間が残っていくと思う」

蒼は、少し照れくさそうに微笑んだ。

「だから、これからも隣にいてくれたら嬉しい」

るなは、しばらく言葉が出なかった。

胸の奥がいっぱいになって、何かを言おうとすると、声が震えてしまいそうだった。

それでも、伝えたかった。

「……はい」

ようやく出てきた声は、小さかった。

けれど、気持ちはちゃんと込められていた。

「私も、先輩の隣にいたいです」

二人は、再び歩き出した。

駅の明かりが見えてきた。

今日の時間は、もうすぐ終わる。

けれど、終わることが寂しいだけではなかった。

次に会える日がある。

クリスマスの日がある。

その先にも、きっと何度も会える日がある。

そう思えるようになったことが、るなには嬉しかった。

出会ったばかりの頃は、次に会えるかどうかもわからなかった。

もう一度、絵を見せてもらえるだろうか。

また話せるだろうか。

そんな小さな願いを抱いていた。

それが今では、次の約束を楽しみにできる。

クリスマスの約束。

来年の約束。

そして、まだ名前のついていない未来の約束。

一つずつ増えていくたび、二人の間にある光は、少しずつ温かくなっていく。

駅の改札前に着くと、るなは名残惜しそうに足を止めた。

「……今日は、ありがとうございました」

「こちらこそ。楽しかったよ」

「私もです!」

るなは笑顔で答えた。

「ツリーも見られたし、イルミネーションもきれいだったし、雑貨屋さんも楽しかったし……。それに、クリスマスの約束もできました!」

「うん。クリスマスの日も楽しみにしているよ」

「私もです!」

るなは、少しだけ間を置いた。

「……先輩」

「うん?」

「クリスマスまで、あと何日でしょう?」

「ええと……」

蒼は、少し考えるふりをした。

「るなは、もう数えているの?」

「……数えています」

「やっぱり」

「だって、楽しみなんです!」

るなは、恥ずかしそうに笑った。

「でも……クリスマスが終わったら、次はお正月で、その次は春が来ますよね」

「そうだね」

「だから、クリスマスが終わっても、楽しみがなくなるわけじゃないんですよね」

蒼は、うなずいた。

「うん。次の楽しみを、一緒に見つけていけばいいんじゃないかな」

「……次の楽しみ」

るなは、その言葉を繰り返した。

クリスマスが終わったら、次は何をしよう。

初詣に行くのもいい。

寒い日に温かいスープを飲みに行くのもいい。

冬の終わりに、少しずつ春の気配を探すのも楽しそうだ。

そして、春になったら桜を見に行く。

夏には花火を見て、秋には紅葉を見に行く。

冬が来たら、またイルミネーションを見に行く。

その一つひとつに、二人の思い出が増えていく。

「……先輩」

「うん?」

「私、これからが楽しみです」

るなは、まっすぐに彼を見つめた。

「クリスマスも、その先も。まだ一緒に見ていない景色が、いっぱいありますから」

蒼は、優しく笑った。

「僕もだよ」

そして、少しだけ声を落として言った。

「これからも、一緒に見ていこう」

るなは、ゆっくりとうなずいた。

「……はい」

二人は、最後にもう一度、手を握り合った。

「じゃあ、またクリスマスの日に」

「はい! 楽しみにしています!」

「帰り道、気をつけてね」

「先輩も!」

るなは数歩進んでから、振り返った。

「……先輩!」

蒼も振り返る。

「どうしたの?」

るなは、少し恥ずかしそうに、それでもはっきりと伝えた。

「……今日も、一緒にいられて嬉しかったです!」

蒼は、穏やかに微笑んだ。

「僕も。今日は、るなと一緒に過ごせてよかった」

その言葉を胸に抱きしめるように、るなは笑った。

「……またね、先輩!」

「またね、るな」

るなは改札を通り、ホームへ向かった。

電車を待ちながら、スマートフォンを取り出す。

蒼から、すぐにメッセージが届いた。

『今日はありがとう。クリスマスの日も、楽しみにしているよ』

るなは、嬉しさを抑えきれずに笑った。

『私もです! クリスマスまで、あと何日か数えて待っています♡』

送信してから、少し考える。

そして、もう一通。

『でも、クリスマスまでの普通の日も、先輩と会えたら嬉しいです』

送信ボタンを押すと、胸がどきどきした。

少しして、返信が届いた。

『もちろん。また時間が合う日に会おう』

るなは、スマートフォンを胸に抱きしめた。

「……えへへ」

クリスマスまで、あと少し。

でも、幸せはクリスマスの日まで待たなくてもいい。

次に会える日。

何気ないメッセージ。

一緒に歩く帰り道。

そんな小さな時間の中にも、幸せはある。

大きなイベントがあるから嬉しいのではない。

特別なプレゼントをもらえるから幸せなのでもない。

大好きな人と、同じ時間を過ごせること。

何でもない話をして、笑い合えること。

そして、また会いたいと思えること。

それが、今のるなにとって、何より大切なものになっていた。

電車がホームに入ってくる。

るなは窓に映る自分の顔を見て、そっと笑った。

「……クリスマス、楽しみだな」

そして、心の中で続けた。

――クリスマスが終わっても、先輩と一緒にいたい。

――春も、夏も、秋も、冬も。

――何気ない日も、特別な日も。

――これからも、ずっと。

窓の外では、街のイルミネーションが流れていく。

一つ、また一つ。

小さな光が、夜の景色を彩っていた。

その光は、遠ざかっていくように見えても、るなの心の中には残り続けていた。

蒼と一緒に見た光。

蒼と一緒に歩いた道。

蒼と交わした約束。

そのすべてが、次の季節へと続いていく。

クリスマスは、もうすぐそこまで来ている。

そして、クリスマスの先にも、二人の物語は続いていく。

大きなイベントだけではなく、何気ない日々も大切にしながら。

一緒に笑い、一緒に景色を見て、一緒に未来を描きながら。

るなは、そっと目を閉じた。

胸の中に浮かんだのは、クリスマスツリーの頂上で輝いていた星。

その星の光に重なるように、蒼の優しい笑顔が浮かんだ。

「……先輩、大好きです」

小さくつぶやいた声は、電車の音に紛れて消えていった。

けれど、その気持ちは消えない。

冬の街を彩るイルミネーションのように。

静かに、優しく、確かに。

二人の恋を照らし続けていた。

そして、るなは楽しみにしていた。

次に先輩と会う日を。

クリスマスの約束を。

その先に待っている、まだ知らない景色を。

 

 第2節「友達と見る冬の光」

十二月のある朝。

窓から差し込む冬の日差しは、少しだけ弱々しく、それでもカーテンの隙間から部屋の中を優しく照らしていた。

星野るなは、ベッドの中でスマートフォンを手に取り、画面を眺めていた。

今日は、いつもとは少し違う楽しみがある。

桐生蒼先輩とのクリスマスデートではない。

今日は、白雪ひかり、橘ゆずは、小日向まなの三人と一緒に、冬のイルミネーションを見に行く約束をしているのだ。

「……ふふっ」

るなは、自然と笑みを浮かべた。

先輩と二人で見るイルミネーションは、胸がきゅんとする特別な時間だ。

手をつないで歩いたり、隣で笑い合ったり、何気ない言葉にドキドキしたり。

思い出すだけで、頬が熱くなる。

けれど、友達と見るイルミネーションには、また別の楽しさがある。

ひかりの穏やかな笑顔。

ゆずはの鋭いツッコミ。

まなの無邪気なはしゃぎ方。

四人で集まれば、いつだって話題が尽きない。

恋の話をしていたかと思えば、いつの間にか食べ物の話になり、最後には全員で笑っている。

そんな時間が、るなは大好きだった。

「今日は、いっぱい楽しむぞー!」

布団から勢いよく起き上がったるなは、クローゼットを開けた。

「えっと……今日は何を着ていこうかな?」

冬のお出かけ。

しかも、イルミネーションを見るのだから、暖かい服装は欠かせない。

白いコートにするか、淡いベージュのコートにするか。

マフラーは水色か、薄紫色か。

手袋も忘れずに持っていかなければならない。

「うーん……」

るなは、しばらく悩んだあと、白いコートと淡い水色のマフラーを選んだ。

「よしっ! 冬のイルミネーションにぴったり!」

鏡の前でマフラーを巻いてみる。

ふわふわの生地が頬に触れた。

「……うん、いい感じ!」

そこで、るなはふと気づいた。

「……あっ、スマホ!」

慌ててベッドの上に置いていたスマートフォンを手に取る。

友達とのグループメッセージには、すでに通知がいくつも届いていた。

『今日、駅に集合でいいよね?』とひかり。

『もちろん! 遅刻した人には、現地で温かい飲み物をおごってもらいます!』とゆずは。

『えっ、じゃあ、ゆずは先輩が遅刻したら、私にココアをおごってくれるんですか?』とまな。

『まな、なぜ私が遅刻する前提なのよ!』

『ゆずはなら、あり得ると思って』

『ひかりまで!?』

『私は、ゆずは先輩が遅刻しても、ちゃんと待っています! その代わり、ココアはお願いします!』

『まなぁぁぁ!』

画面を読んだるなは、ベッドに座ったまま吹き出した。

「もう、みんな、朝から元気すぎますって! 🤣」

すぐにメッセージを打ち込む。

『私も参加します! もし遅刻した人がいたら、ココアとホットチョコレートと、いちごのスイーツもお願いします♡』

送信。

数秒後、ゆずはから返信が届いた。

『るな、あんたは遅刻の罰則を食べ物の注文に利用しない!』

続いて、ひかりから。

『るならしいね』

そして、まなから。

『るな先輩! 私もいちごのスイーツが食べたいです!』

るなは、満面の笑みになった。

「……ふふふ。今日も楽しくなりそうです♡」

恋人との時間も大切。

でも、友達と過ごす時間も、同じくらい大切。

そんなことを思いながら、るなは出かける準備を進めた。

今日という一日が、どんな思い出になるのか。

それを考えるだけで、胸が弾んだ。

待ち合わせ場所の駅前に着くと、すでにひかりが立っていた。

淡い色のコートに、柔らかなマフラー。

冬の空気の中でも、いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべている。

「ひかりー!」

るなが手を振ると、ひかりも気づいて手を振り返した。

「るな、おはよう」

「おはようございます! ……じゃなくて、おはよう、ひかり!」

「ふふっ、おはよう」

るなは、ひかりの前まで駆け寄った。

「今日は楽しみですね!」

「うん。四人でイルミネーションを見るの、久しぶりだものね」

「そうなんです! 先輩と見るイルミネーションも大好きですけど、みんなで見るのも楽しみで!」

ひかりは、微笑みながらうなずいた。

「るな、最近、本当に楽しそうだね」

「えっ?」

「蒼先輩とのこと。話していると、すごく嬉しそうだから」

「……っ!」

るなの頬が、たちまち赤くなった。

「ひ、ひかり! 朝から何を言うんですか!」

「だって、本当のことだもの」

「そ、それは……先輩と一緒にいると、楽しいですけど……!」

「うん」

「……嬉しいですけど……!」

「うんうん」

「……大好きですけど!」

言い切ってから、るなは両手で顔を覆った。

「……あああっ! 私、何を言っているんでしょう!」

ひかりは、声を立てずに笑った。

「いいじゃない。好きな人のことを、好きって言えるのは素敵なことだよ」

「……ひかりぃ」

「でもね」

ひかりは、少しだけ真剣な表情になった。

「今日は私たちとの時間も、いっぱい楽しもうね」

その言葉に、るなは顔を上げた。

ひかりは、優しい目で彼女を見つめていた。

「蒼先輩と過ごす時間が大切なのと同じように、私たちと過ごす時間も大切にしてくれたら嬉しいな」

るなは、すぐにうなずいた。

「もちろんです!」

そして、笑顔で続けた。

「今日は恋の話も、学校の話も、食べ物の話も、ぜーんぶ楽しみます!」

「食べ物の話が一番長くなりそうだけど」

「ひかり! それは否定できません!」

二人が笑っていると、遠くから元気な声が聞こえてきた。

「おーい! 二人ともー!」

振り向くと、橘ゆずはが大きく手を振りながら歩いてくる。

その隣には、小日向まなの姿もあった。

「お待たせー!」

「おはようございます、るな先輩! ひかり先輩!」

まなは、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「おはよう、ゆずは! まな!」

「おはようございます!」

るなは笑顔で二人を迎えた。

ゆずはは、るなの全身をさっと見て、満足そうにうなずいた。

「うん。今日はちゃんと暖かそうな格好をしているわね」

「えっ、どういう意味ですか?」

「前に、かわいい服を優先して薄着で出かけようとしていたでしょう?」

「あ、あれは……!」

「寒い寒いって言いながら、最後には私のマフラーを借りたじゃない」

「……うっ!」

ひかりがくすくす笑った。

「そういえば、あったね」

「まなも覚えています! るな先輩、寒くて震えていたのに、屋台のいちごチョコを見つけた瞬間、元気になったんですよね!」

「ま、まなまで!」

「だって、本当のことですから!」

まなが無邪気に笑う。

るなは、恥ずかしそうに頬を膨らませた。

「……今日は大丈夫です! マフラーも手袋もあります!」

「よし。それなら安心ね」

ゆずはは満足そうにうなずいた。

そして、四人は顔を見合わせた。

「じゃあ、行きましょうか!」

「うん!」

「はい!」

「もちろん!」

冬のイルミネーションを目指して、四人は駅を出た。

その瞬間、るなは思った。

――ああ、やっぱり、この四人でいる時間って好きだな。

誰かが何かを言えば、誰かが笑う。

誰かが困っていたら、誰かが助ける。

恋の話も、悩みも、くだらない冗談も、全部ひっくるめて受け止めてくれる。

先輩と二人でいるときの幸せとは、また違う幸せ。

それは、長い時間を一緒に過ごしてきた友達だからこそ感じられる、温かな光だった。

街の中心部へ向かうにつれて、イルミネーションは少しずつ華やかになっていった。

ビルの壁面には雪の結晶を模したライトが浮かび、街路樹には金色と白色の光が交互に瞬いている。

広場の中央には、大きなクリスマスツリー。

周囲には、写真を撮る人や、家族連れ、友達同士で歩く人たちの姿があった。

「わああっ!」

まなが、目を輝かせた。

「すごいです! きれい!」

「本当ね……!」

ひかりも、うっとりとツリーを見上げた。

ゆずはは、少し離れた場所から全体を眺める。

「今年は、去年よりも飾りが増えたみたいね」

るなは、ツリーの頂上を見つめた。

大きな星が、夜空に向かって輝いている。

その周囲には、無数の光がきらめいていた。

「……きれい」

思わず、声が漏れた。

先輩と二人で見たときとは、また違う景色だった。

隣にいるのは、ひかり、ゆずは、まな。

誰かの手を握ってドキドキすることはない。

代わりに、四人で並んで同じものを見上げ、同じ瞬間に感動している。

そのことが、なんだか嬉しかった。

「るな先輩!」

まなが、スマートフォンを取り出した。

「一緒に写真を撮りませんか?」

「もちろん!」

「じゃあ、ツリーを背景にしましょう!」

まなは、カメラの位置を調整した。

「ひかり先輩、もう少しこっちです!」

「こう?」

「はい! ゆずは先輩も、もう少し中央へ!」

「はいはい」

「るな先輩は、もう少し笑顔で!」

「ええっ、今も笑顔ですよ!?」

「もっとです!」

「これ以上ですか!?」

「はい!」

「まな、注文が厳しい!」

ゆずはがツッコむと、ひかりが笑い、るなも笑った。

まなは、その瞬間を見逃さなかった。

「はい、今です!」

カシャッ。

シャッター音が鳴った。

撮れた写真を確認すると、四人とも自然な笑顔になっていた。

「わあ……! いい写真!」

るなが画面をのぞき込む。

「みんな、すごく楽しそう!」

「本当だね」

ひかりも微笑んだ。

ゆずはは、少し照れくさそうにしながらも、写真を見てうなずいた。

「まあ、悪くないんじゃない?」

「ゆずは先輩、嬉しいんですよね?」

まなが、にこにこしながら尋ねる。

「……何よ」

「写真を見て、ちょっと笑っていました!」

「笑ってない!」

「笑ってました!」

「まな!」

「ふふっ」

ひかりが笑い、るなも声を上げて笑った。

まなは、写真をグループメッセージに送った。

すぐに、るなのスマートフォンにも通知が届く。

るなは写真を保存し、もう一度眺めた。

四人の笑顔。

背後に輝くクリスマスツリー。

何気ない一枚かもしれない。

けれど、きっと何年か先に見返したときにも、今日の空気や笑い声を思い出せるだろう。

「……大切にします」

るながつぶやくと、ひかりが顔を向けた。

「写真?」

「はい。今日の思い出ですから」

ゆずはも、少し柔らかい表情になった。

「そうね。こういう写真、これからも増やしていきたいわね」

「私もです!」

まなが元気よく手を挙げた。

「来年も、その次の年も、みんなで写真を撮りたいです!」

「いいね」

ひかりがうなずいた。

「また冬になったら、ここに来ようか」

るなは、満面の笑顔で答えた。

「はい! 絶対に来ましょう!」

四人の声が重なった。

クリスマスツリーの光が、そんな彼女たちを優しく照らしていた。

広場を離れた四人は、イルミネーションのトンネルへ向かった。

頭上には、青白い光が無数に広がっている。

歩くたびに光が揺れて見え、まるで星空の中を進んでいるようだった。

「わあ……! ここ、すごくきれいです!」

まなが、感動したように声を上げた。

「写真で見るより、実際に見たほうがずっときれいですね!」

「そうね」

ひかりは、ゆっくりと周囲を見渡した。

「光に包まれているみたい」

ゆずはは、少し上を見上げてから、るなに尋ねた。

「ねえ、るな。蒼先輩とも、こういう場所を歩いたの?」

「……はい!」

るなは、少し照れながらうなずいた。

「先輩と二人で歩いたときも、すごくきれいでした」

「ふうん?」

ゆずはの口元に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。

「それで? 手はつないだの?」

「……っ!」

るなは、ぴたりと足を止めた。

「ゆ、ゆずは!」

「何よ。聞いただけでしょう?」

「そ、それは……!」

「つないだんだね」

「……ううっ!」

まなが、ぱっと顔を輝かせた。

「わあ! るな先輩、いいなあ!」

「まなまで!」

「だって、好きな人とイルミネーションを歩いて、手をつなぐなんて、すごく素敵じゃないですか!」

「……そ、それは、素敵ですけど……!」

るなは、頬を真っ赤にしながらマフラーを引き上げた。

ひかりが、そんなるなの肩にそっと手を置いた。

「るな、よかったね」

「……ひかりぃ」

ひかりの声は、からかうものではなかった。

ただ、心から嬉しそうだった。

「るなが幸せそうだと、私も嬉しいよ」

るなは、ひかりを見つめた。

そして、ゆっくりと微笑んだ。

「……ありがとうございます」

その言葉に、ひかりも微笑み返した。

「でも、今日は私たちとも手をつないで歩こうか?」

「えっ?」

ひかりは、自然な仕草でるなの手を取った。

「ほら。寒いし」

「……ひかり」

るなの胸が、じんわりと温かくなった。

すると、まなも反対側からるなの手を握った。

「私もです! るな先輩、手が冷たくなっていませんか?」

「まな……!」

「ゆずは先輩も、こっちに来てください!」

「えっ、私も?」

「はい! 四人でつながりましょう!」

「ちょ、ちょっと! 四人で手をつないで歩くの!?」

ゆずはは呆れたような顔をした。

しかし、まなが期待いっぱいの目で見つめているのを見ると、結局、反対側の手を差し出した。

「……仕方ないわね」

「やったあ!」

まなが笑う。

こうして、四人は手をつないで歩き始めた。

「……なんだか、修学旅行みたいですね」

るなが言うと、ひかりが笑った。

「そうかもね」

「でも、ちょっと歩きにくいわよ!」

ゆずはが文句を言う。

「ゆずは先輩、離しちゃだめですよ!」

「わかってるわよ、まな!」

「ふふっ」

四人は、顔を見合わせて笑った。

恋人と手をつなぐのとは違う。

胸が高鳴るようなドキドキではない。

けれど、そこには確かな温もりがあった。

ひかりの手。

ゆずはの手。

まなの手。

それぞれの手の温かさを感じながら、るなは思った。

――私には、大切な人がたくさんいるんだ。

大好きな先輩。

何でも話せるひかり。

いつも鋭いツッコミを入れてくれるゆずは。

素直で元気いっぱいのまな。

それぞれとの関係は違う。

一緒に過ごす時間も、交わす言葉も違う。

でも、どれも大切だった。

恋人がいるからといって、友達との時間が小さくなるわけではない。

むしろ、友達がいるからこそ、恋の喜びを分かち合える。

恋で悩んだときには相談できる。

嬉しいことがあったときには、一緒に笑ってくれる。

そして、恋の話をしていないときにも、ただ一緒にいるだけで楽しい。

そんな友達がいることは、るなにとって、かけがえのない幸せだった。

「……みんな」

るなが小さくつぶやいた。

「ん? どうしたの?」

ひかりが尋ねる。

るなは、三人を順番に見つめた。

「……今日、みんなと来られて、本当によかったです」

ゆずはが、少しだけ目を丸くした。

「何よ、急に」

「だって……」

るなは、笑顔で続けた。

「先輩と見るイルミネーションも大好きです。でも、みんなと見るイルミネーションも、すごく好きだから」

ひかりが、優しくうなずいた。

「うん」

「先輩といると、胸がドキドキして、幸せで、ずっと一緒にいたいなって思うんです」

るなは、少し照れながら言葉を続けた。

「でも、みんなといると、安心するんです。何を言っても笑ってくれるし、くだらないことでも一緒に楽しめるし……。こうして手をつないで歩いているだけでも、すごく嬉しいんです」

まなは、目を輝かせていた。

「るな先輩……!」

ゆずはは、少しだけ顔をそらした。

「……そういうことを、まっすぐ言うんだから」

「ゆずは?」

「……嬉しいに決まってるでしょう」

その声は、いつもより少し優しかった。

「私だって、みんなと一緒にいる時間は大切よ」

ひかりも、微笑んだ。

「私も。みんなといると、何でもないことが楽しくなるんだよね」

「はい!」

まなが元気よくうなずいた。

「これからも、いっぱい一緒に遊びましょう!」

「もちろん!」

るなは、笑顔で答えた。

青白い光のトンネルの中で、四人の影がゆっくりと揺れていた。

その光景を、もし蒼が見たら、どんな絵を描くだろう。

きっと、ただイルミネーションを描くだけではない。

笑い合う四人の表情や、つないだ手の温かさ、冬の夜に広がる楽しげな空気まで、描こうとするのかもしれない。

そんなことを考えて、るなは小さく笑った。

――いつか、先輩にも今日の話をしよう。

――そして、写真も見せよう。

そう思うだけで、今日の思い出が、また一つ特別になった。

イルミネーションのトンネルを抜けると、広場の一角にクリスマスマーケットが開かれていた。

木製の屋台が並び、赤や緑の飾りが風に揺れている。

温かい飲み物の湯気が立ち上り、焼き菓子や甘いチョコレートの香りが漂っていた。

「……っ!」

るなの足が止まった。

ひかりが、その様子に気づく。

「るな?」

「……あの……」

るなは、屋台の一つを見つめていた。

そこには、いちごを使ったチョコレート菓子が並んでいた。

いちごチョコ。

いちごの焼き菓子。

いちごソースのかかったワッフル。

さらに、隣の屋台には、ホットチョコレートの看板がある。

「……天国です」

るなが、ぽつりとつぶやいた。

ゆずはは、すぐに額に手を当てた。

「はい、出た。るなの食いしん坊モード」

「だって! 見てください! いちごですよ、いちご!」

「見ればわかるわよ!」

「しかも、冬限定です!」

「それも看板に書いてある!」

「さらに、ホットチョコレートまであります!」

「だから、見ればわかるってば!」

ひかりとまなが、声を立てて笑った。

「ふふっ、るならしいね」

「るな先輩、何を買いますか? 私も一緒に選びたいです!」

「まな……!」

るなは、感動したようにまなの手を握った。

「あなたは、最高の友達です!」

「えへへ。ありがとうございます!」

「ちょっと、まな。るなの食欲に巻き込まれないようにね」

ゆずはが注意する。

しかし、まなはもう屋台のメニューをのぞき込んでいた。

「わあ! いちごのワッフル、おいしそうです!」

「でしょう!?」

「ホットチョコレートも飲みたいです!」

「わかります!」

「あと、焼き菓子も……」

「まな、落ち着いて!」

ゆずはの声が、マーケットに響いた。

ひかりは笑いながら、四人分のメニューを見渡した。

「せっかくだから、いろいろ買って、みんなで分けようか」

「賛成です!」

るなとまなの声が、ぴったり重なった。

ゆずはは、深いため息をついた。

「……まあ、こうなると思っていたけど」

「ゆずはも食べるでしょう?」

ひかりが尋ねる。

「……食べるわよ。せっかく来たんだもの」

「やったあ!」

るなは、嬉しそうに両手を上げた。

「では、まずはいちごワッフルから!」

「順番まで決めるの!?」

「もちろんです!」

「はいはい。じゃあ、並びましょう」

四人は屋台の列に並んだ。

温かい飲み物を買う人。

家族へのお土産を選ぶ人。

友達同士で写真を撮る人。

マーケットには、さまざまな人の笑顔があふれていた。

るなは、その景色を見渡した。

冬のイルミネーションは、光そのものが美しい。

でも、その光を楽しむ人たちの表情もまた、美しい。

大切な人と過ごす時間。

友達と笑い合う時間。

家族と一緒に歩く時間。

それぞれの人に、それぞれの幸せがある。

そして今、るなは、ひかりたちと一緒にその光の中にいた。

自分たちもまた、この冬の景色をつくる一人なのだ。

「……きれいですね」

るなが言うと、ひかりがうなずいた。

「うん。本当に」

ゆずはも、周囲を見渡した。

「こういう場所って、歩いているだけでも楽しいわね」

「はい! しかも、おいしいものもあります!」

るなが付け加える。

「……そこは、絶対に外せないんだね」

ゆずはが笑った。

やがて、四人の手元には、いちごワッフルと焼き菓子、ホットチョコレートがそろった。

「それでは……!」

るなが、真剣な表情で宣言した。

「冬のイルミネーションと、友達との素敵な時間に、乾杯!」

「乾杯!」

四人は、温かいカップを軽く合わせた。

カップから立ち上る湯気が、冷たい空気の中でふわりと揺れる。

るなは、ホットチョコレートを一口飲んだ。

「……おいしい!」

まなも、嬉しそうにうなずいた。

「本当ですね! 体がぽかぽかします!」

ひかりは、ワッフルを小さく切り分けながら微笑んだ。

「こうして、みんなで少しずつ分けるのも楽しいね」

「はい! いろんな味が楽しめます!」

るなは、いちごの乗ったワッフルを見つめた。

「……でも、いちごは一番大きいのをいただきます!」

「ちょっと、るな!」

ゆずはが即座にツッコむ。

「みんなで分けるって言ったでしょう!」

「……冗談です!」

「本当に?」

「……七割くらい本気です」

「るな!」

四人の笑い声が、マーケットに響いた。

るなは、笑いながら思った。

――こういう時間も、ずっと覚えていたいな。

恋人と過ごす甘い時間とは違う。

友達と過ごす時間には、遠慮のない笑い声がある。

くだらない冗談がある。

誰かの一言に、全員が同時に笑ってしまう瞬間がある。

そして、特別なことをしなくても、ただ一緒にいるだけで楽しい。

それは、当たり前のようでいて、決して当たり前ではない幸せだった。

温かい飲み物を飲み終えたあと、四人はマーケットのベンチに腰を下ろした。

周囲には、クリスマスの飾りが輝いている。

少し離れたところから、楽しそうな音楽が聞こえてきた。

まなは、両手でカップを包みながら、るなに尋ねた。

「るな先輩、クリスマスは蒼先輩と過ごすんですよね?」

「……はい」

るなは、少し照れながらうなずいた。

「この前、クリスマスの飾りを見に行ったんです。それで、クリスマスの日も一緒に過ごそうって約束しました」

「わあ! 素敵です!」

まなが身を乗り出した。

「何をするんですか?」

「大きなツリーを見て、イルミネーションを歩いて、それから……いちごのケーキを一緒に食べる予定です!」

「やっぱりケーキ!」

ゆずはが笑った。

「るなのクリスマスは、ケーキが中心なのね」

「違いますよ! 先輩と過ごす時間が中心です!」

「その時間の中に、ケーキがしっかり組み込まれているわけね」

「……はい!」

「認めるんだ!」

ひかりが笑い、まなも声を上げた。

るなは、少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「だって、おいしいものを一緒に食べるのって、楽しいじゃないですか」

「うん。わかるよ」

ひかりが優しくうなずいた。

「好きな人と一緒に食べるものって、いつもよりおいしく感じることがあるよね」

「そうなんです!」

るなは、嬉しそうにうなずいた。

「先輩と一緒に食べると、いつものお菓子でも、なんだか特別に感じるんです」

「じゃあ、クリスマスが楽しみだね」

「はい!」

まなは、るなの顔を見つめたあと、少しだけ考え込んだ。

「……でも、るな先輩」

「はい?」

「蒼先輩と一緒にいる時間が増えても、私たちとも、こうして遊んでくれますか?」

その問いに、るなは目を丸くした。

まなは、慌てて笑顔を作った。

「す、すみません! 変なことを聞いちゃいました! 蒼先輩と過ごす時間も大切ですし、恋人同士の時間って、きっと特別ですから……」

「まな」

るなは、優しく名前を呼んだ。

まなは、顔を上げた。

「……もちろんです」

るなは、まなの手をそっと握った。

「先輩と過ごす時間は、私にとって、とても大切です。でも、ひかりも、ゆずはも、まなも、私にとって大切な友達です」

「……るな先輩」

「先輩がいるから友達がいらなくなるなんて、絶対にありません。逆に、みんながいるから、私も安心して恋ができるんです」

るなは、三人を順番に見つめた。

「ひかりの恋を応援していたときも、私はひかりが幸せになってくれるのが嬉しかったんです。今は、私が先輩と幸せな時間を過ごせるようになって、みんなが喜んでくれる。それが、すごく嬉しいんです」

ひかりは、穏やかな表情で聞いていた。

ゆずはも、いつものように茶化すことなく、るなの言葉を受け止めていた。

まなの目が、少し潤んだ。

「……よかったです」

「まな?」

「私、るな先輩が幸せそうなのを見ると、本当に嬉しいんです。でも、これから先、先輩と忙しくなって、みんなで遊ぶ時間が少なくなったら、ちょっと寂しいなって……」

まなは、恥ずかしそうに笑った。

「……思っちゃいました」

るなは、まなをぎゅっと抱きしめた。

「まなぁ……!」

「わっ、るな先輩!」

「寂しいときは、寂しいって言ってください! 私も、みんなに会いたいです!」

「……はい!」

まなも、るなの背中に腕を回した。

その様子を見て、ひかりが微笑んだ。

「大丈夫だよ、まな。私たちは、これからも友達だから」

「ひかり……」

「毎日ずっと一緒にいられなくても、会いたいと思ったら連絡すればいいし、時間が合えば遊べばいい。そうやって、これからも一緒にいようね」

ゆずはも、静かにうなずいた。

「そうよ。誰かに恋人ができたからって、友達じゃなくなるわけじゃないんだから」

それから、るなに視線を向けた。

「ただし、恋人との約束ばかり優先して、私たちとの約束を忘れたら、許さないけどね」

「ゆずは!」

「冗談よ。……半分は」

「半分なんですか!?」

ゆずはは笑った。

「でも、本当に、これからも四人で遊びたいと思っているわ」

ひかりも、まなも、うなずいた。

るなは、胸がいっぱいになった。

恋をすること。

誰かを大好きになること。

その人と未来を考えること。

それは、とても幸せなことだ。

でも、その幸せを支えてくれる人たちがいることも、忘れてはいけない。

嬉しいことを一緒に喜び、寂しいときにはそばにいてくれる友達。

その存在があるからこそ、るなは安心して前に進めるのだ。

「……みんな、大好きです」

るなは、少し照れながら言った。

「ひかりも、ゆずはも、まなも。ずっと、私の大切な友達です」

ひかりが笑った。

「私も、るなが大好きだよ」

「私もよ」

ゆずはが、少し照れくさそうに答える。

「私もです! るな先輩、大好きです!」

まなが、再びるなに抱きついた。

「まな、く、苦しいです!」

「えへへ!」

「もう、まなったら!」

ひかりとゆずはが笑う。

るなも、笑った。

その笑い声は、冬の夜に溶けていった。

けれど、るなの心には、温かな光となって残った。

ベンチから立ち上がると、四人は再びイルミネーションの広場へ向かった。

夜は、さらに深くなっていた。

空には星が瞬き、街の光は一層鮮やかに見える。

大きなツリーの周りには、さっきよりも多くの人が集まっていた。

「最後に、もう一枚写真を撮りませんか?」

まなが提案した。

「いいわね」

ゆずはがうなずく。

「今度は、ツリーの前で撮ろうよ」

ひかりが言った。

四人は、ツリーの前に並んだ。

今度は、誰かがカメラを持つのではなく、近くにいた人にお願いして撮ってもらうことにした。

「すみません、写真をお願いしてもいいですか?」

ひかりが声をかけると、女性が笑顔で引き受けてくれた。

「もちろんですよ。みなさん、仲良しですね」

「はい!」

まなが元気よく答えた。

「大切な友達なんです!」

その言葉に、るなは胸が熱くなった。

四人は肩を寄せ合った。

ひかりが穏やかに笑い、ゆずはが少し照れながらも微笑み、まなが満面の笑顔を浮かべる。

るなも、心からの笑顔を見せた。

「では、撮りますね」

カシャッ。

一枚の写真が撮影された。

「ありがとうございます!」

写真を確認すると、四人は顔を見合わせた。

そこには、冬の光を背に、楽しそうに笑う四人の姿があった。

誰もが自然な笑顔だった。

無理に作った笑顔ではない。

一緒にいることが嬉しい。

この瞬間が楽しい。

そんな気持ちが、そのまま表れているような写真だった。

「……いい写真ですね」

るなが言った。

「うん」

ひかりがうなずく。

「大切にしようね」

ゆずはは、写真をもう一度見つめた。

「来年も、こうして撮れたらいいわね」

「はい!」

まなが元気よく答えた。

「来年も、その次の年も! みんなで冬のイルミネーションを見ましょう!」

「そうね」

ゆずはが笑う。

「そのときは、もっと大きなケーキも食べましょう!」

るなが付け加えた。

「……やっぱり食べ物が入るのね」

「もちろんです!」

四人は、再び笑った。

るなは、写真をスマートフォンに保存した。

その写真を見ていると、今日の出来事が次々に思い出される。

ひかりと駅前で待ち合わせたこと。

ゆずはとまなが笑いながらやって来たこと。

大きなツリーを見上げたこと。

四人で手をつないで歩いたこと。

いちごワッフルを分け合ったこと。

そして、まなに抱きつかれながら、みんなが大切な友達だと改めて感じたこと。

その一つひとつが、今日の光になっていた。

るなは、心の中でそっとつぶやいた。

――先輩と過ごす時間は、私の恋を照らしてくれる光。

――でも、友達と過ごす時間も、私の毎日を照らしてくれる光なんだ。

どちらか一つだけではない。

恋人との幸せも、友達との幸せも。

それぞれ違う色を持ちながら、るなの心の中で一緒に輝いている。

冬のイルミネーションは、たくさんの光が集まって、美しい景色を作っていた。

一つ一つの光は、小さくても。

重なり合えば、街全体を明るく照らすことができる。

きっと、人とのつながりも同じなのだ。

先輩と過ごす時間。

ひかりと笑い合う時間。

ゆずはにツッコまれる時間。

まなと食べ物の話で盛り上がる時間。

そのどれもが、るなの毎日を彩っている。

そして、これからも。

新しい季節が来ても、環境が変わっても、きっと大切なものは変わらない。

会いたい人がいること。

一緒に笑いたい人がいること。

自分の幸せを、分かち合いたい人がいること。

それは、何よりも温かな光だった。

帰り道。

駅へ向かう四人は、少しずつ歩く速度を落としていた。

楽しい時間は、いつだってあっという間に過ぎてしまう。

「……今日は楽しかったですね」

るなが言うと、ひかりがうなずいた。

「うん。本当に楽しかった」

「私もです!」

まなが笑顔で答えた。

「写真もいっぱい撮れたし、おいしいものも食べられたし!」

「結局、食べ物も大事なんだね」

ゆずはが笑う。

「もちろんです!」

「はいはい」

ゆずはは、少しだけ空を見上げた。

「でも、こうしてみんなで出かけるのって、やっぱりいいわね」

その言葉に、るなはうなずいた。

「はい。……また、みんなで来ましょうね」

「うん」

ひかりが答える。

「次は、春の桜も見に行こうか」

「いいですね!」

まなが目を輝かせた。

「桜の下でお花見をして、お弁当を食べて……!」

「まな、もう食べる話になっているわよ」

ゆずはがツッコむ。

「だって、お花見といえばお弁当じゃないですか!」

「それはそうだけど!」

「桜のスイーツもありますよね!」

るなが加わる。

「いちご大福とか、桜もちとか……!」

「るなまで!」

ゆずはの声に、三人が笑った。

ひかりは、笑いながら言った。

「じゃあ、春になったら、みんなで桜を見に行こうね」

「はい!」

るなは、嬉しそうにうなずいた。

冬が終われば、春が来る。

桜の花が咲き、暖かな風が吹き、新しい景色が広がっていく。

そのときも、きっと四人で笑っていたい。

恋人と過ごす時間を大切にしながら。

友達との時間も大切にしながら。

それぞれの毎日を楽しんでいきたい。

駅に着くと、四人は改札前で立ち止まった。

「じゃあ、今日はここで解散ね」

ゆずはが言った。

「みんな、気をつけて帰るのよ」

「はい!」

まなが元気よく答える。

ひかりも、優しく微笑んだ。

「また連絡するね」

「はい! 今日はありがとうございました!」

るなは、三人に向かって頭を下げた。

「また遊びましょうね!」

「もちろん」

ひかりが答える。

「次は春のお花見ね!」

まなが笑う。

「その前に、冬限定のいちごスイーツ巡りもしたいです!」

「まな、いいことを言いました!」

るなが、勢いよくうなずいた。

ゆずはは、呆れたように笑った。

「……本当に、あなたたちは食べ物の話になると元気ね」

「ゆずはも、付き合ってくださいね!」

「はいはい。考えておくわ」

四人は最後に、もう一度笑い合った。

そして、それぞれの帰り道へと歩き出した。

るなは、何度か振り返って手を振った。

ひかりも、ゆずはも、まなも、笑顔で手を振り返してくれた。

その姿が見えなくなるまで、るなは手を振り続けた。

やがて、一人になったるなは、スマートフォンを取り出した。

今日撮った写真を開く。

ツリーの前で笑う四人。

イルミネーションのトンネル。

いちごワッフルとホットチョコレート。

どの写真にも、今日の楽しさが詰まっていた。

「……みんな、大好き」

るなは、小さくつぶやいた。

それから、蒼とのメッセージ画面を開いた。

『先輩、今日は友達とイルミネーションを見に行ってきました!』

写真を添えて送信する。

少しして、返信が届いた。

『楽しそうだね。みんな、いい笑顔だ』

るなは、嬉しくなって、さらにメッセージを打ち込んだ。

『はい! すごく楽しかったです! 先輩と見るイルミネーションも大好きですけど、友達と見るイルミネーションも、また違う素敵さがありました♡』

送信してから、るなは少し考えた。

そして、もう一通。

『私、幸せな時間がいっぱいあるんだなって、改めて思いました。先輩と過ごす時間も、みんなと笑い合う時間も、どちらも大切です!』

返信は、すぐに届いた。

『それは素敵なことだね。るなが大切にしている人たちと、これからもたくさん笑って過ごせるといいね』

その言葉を読んだ瞬間、るなは胸が温かくなった。

先輩は、るなの友達との時間も大切に思ってくれている。

自分の恋だけでなく、自分が大切にしている人たちのことも、尊重してくれている。

そのことが、嬉しかった。

るなは、笑顔で返信した。

『ありがとうございます! 先輩とも、これからもたくさん思い出を作りたいです♡』

送信。

そして、スマートフォンを胸に抱いた。

今日の冬の光は、もう遠ざかり始めている。

けれど、心の中には、まだたくさんの光が残っていた。

先輩と過ごす、恋の光。

ひかりと分かち合う、友情の光。

ゆずはと笑い合う、賑やかな光。

まなと楽しむ、無邪気な光。

それぞれが違う色をしているからこそ、るなの毎日は、こんなにも鮮やかに輝いているのだ。

「……明日も、いい日になりますように」

るなは、夜空を見上げた。

冬の星が、静かに瞬いている。

その光を見つめながら、るなは思った。

――次の季節にも、きっと素敵な景色が待っている。

――先輩と一緒に見る景色も。

――友達と一緒に見る景色も。

――一人で歩いているときに、ふと見つける景色も。

全部、大切にしていこう。

恋だけが、人生を彩る光ではない。

友情も、笑顔も、何気ない日常も。

自分を支えてくれる人たちとのつながりも。

そのすべてが、るなにとって、かけがえのない光なのだから。

冬の街を彩るイルミネーションは、今夜も輝き続けている。

そして、その光の中で、るなの心にも新しい輝きが生まれていた。

大好きな人と恋をする幸せ。

大好きな友達と笑い合う幸せ。

その両方を抱きしめながら、るなは次の季節へと歩いていく。

 

 

第3節「先輩の描いた、私」

十二月の空気は、日を追うごとに冷たさを増していた。

街路樹のイルミネーションは夕暮れとともに輝き始め、商店街にはクリスマスソングが流れ、ショーウィンドウには色とりどりのリボンや星の飾りが並んでいる。

街全体が、もうすぐ訪れるクリスマスを心待ちにしているようだった。

星野るなも、その一人だった。

いや、正確に言えば、クリスマスそのものと同じくらい、クリスマスに桐生蒼先輩と会えることを楽しみにしていた。

大きなツリーを一緒に見たい。

イルミネーションのトンネルを歩きたい。

温かいココアを飲みたい。

そして、約束していたいちごのケーキを一緒に食べたい。

考えるだけで、胸が弾む。

けれど、今日のるなには、クリスマスとは別に、もう一つ楽しみにしていることがあった。

それは、蒼が描いた絵を見せてもらうこと。

以前、冬の街を二人で歩いたとき、るなは蒼にお願いしていた。

クリスマスの景色を、先輩がどんなふうに見ているのか知りたい。

先輩のスケッチブックを見せてほしい。

そして、いつか、その景色の中に自分もいられたら嬉しい。

あのとき蒼は、穏やかな笑顔で答えてくれた。

『じゃあ、クリスマスの景色も描いてみるよ』

その言葉を思い出すたび、るなは嬉しくなった。

けれど同時に、少しだけ気になっていることもあった。

――先輩は、どんな絵を描いているんだろう。

――クリスマスツリーかな?

――イルミネーションのトンネルかな?

――それとも、街を歩く人たちかな?

そこまでは想像できる。

蒼は、光だけではなく、その光の中にいる人たちの気持ちまで描こうとする人だから。

でも、もし。

もしも、その絵の中に、自分が描かれていたら。

「……っ!」

るなは、自室のベッドの上で突然、枕を抱きしめた。

「……ど、どうしましょう!」

誰もいない部屋なのに、思わず声が出てしまう。

「もし、私が描かれていたら……!」

自分の姿を、蒼が描いてくれたとしたら。

蒼の目に、自分はどんなふうに映っているのだろう。

笑顔だろうか。

照れた顔だろうか。

それとも、食べ物を見つけて目を輝かせている顔だろうか。

「……いちごを食べているところだったら、どうしましょう」

想像が妙な方向へ進み始めた。

「いや、でも、先輩なら、いちごを食べている私も、きっと丁寧に描いてくれそうですし……。あっ、でも、口いっぱいに頬張っていたら……!」

るなは枕に顔を埋めた。

「……だめです! 想像したら、恥ずかしくなってきました!」

しばらく、そのままじたばたしていた。

やがて、枕から顔を上げる。

「……でも、先輩の絵なら、どんな絵でも見たいな」

そうつぶやいた声は、さっきまでとは違い、静かだった。

蒼の描く絵が好きだ。

初めて出会ったときから、ずっとそう思っている。

あの日、いちご飴を買いに行った帰り道。

前をよく見ずに歩いていたるなは、一人の男の子にぶつかってしまった。

散らばった紙を拾おうとして、ふと目に留まった一枚の絵。

そこには、光が描かれていた。

ただ明るいだけではない。

光の中にいる人たちの表情や、誰かを見つめる視線、隣にいる人と過ごす時間の温かさまで、伝わってくるようだった。

るなは、あの絵を見て思ったのだ。

もっと、この人の絵を見てみたい。

この人が見ている世界を、知りたい。

その気持ちが、少しずつ恋へと変わっていった。

そして今。

あの日、絵を見せてもらった男の子は、るなの大切な恋人になっている。

「……先輩」

るなは、スマートフォンを手に取った。

蒼とのメッセージ画面を開き、文字を打つ。

『先輩、今度、スケッチブックを見せてもらってもいいですか?』

送信しようとして、指が止まった。

「……あれ?」

すでに約束していたことを思い出した。

「……そうでした。今度、見せてくれるって言っていました!」

るなは、少し恥ずかしそうに笑った。

それから、別のメッセージを送る。

『先輩、次に会える日が楽しみです♡』

送信。

すぐに返信が届いた。

『僕も楽しみにしているよ。見せたいものもあるからね』

「……え?」

るなは、画面を見つめた。

見せたいもの。

その言葉が、胸の中で何度も繰り返される。

「……見せたいもの?」

もしかして。

もしかして、絵だろうか。

それとも、クリスマスのプレゼントだろうか。

あるいは、どこか新しい場所へ連れていってくれるのだろうか。

「……っ!」

るなは再び枕を抱きしめた。

「先輩! 気になります! すごく気になります!」

もちろん、メッセージにそんなことは書かなかった。

ただ、少しだけ考えてから返信した。

『はい! 楽しみにしています!』

送信したあと、るなはスマートフォンを胸に抱いた。

次に先輩と会う日。

それは、いつも以上に待ち遠しい一日になりそうだった。

約束の日。

るなは、いつもの駅で蒼と待ち合わせをしていた。

白いコートに淡い水色のマフラー。

手袋も忘れずに身につけている。

駅前の時計を見ると、約束の時間まであと少しだった。

「……先輩、まだかな」

そうつぶやいたところで、聞き慣れた声がした。

「るな」

振り向くと、蒼が歩いてくるところだった。

「先輩!」

るなの顔が、ぱっと明るくなる。

「お待たせ」

「いえ! 私も今来たところです!」

「今日は寒いね」

「はい。でも、先輩に会えると思ったら、そんなに寒く感じません!」

言ってから、るなは自分の言葉に気づいた。

「……あっ」

蒼が、優しく微笑んでいる。

「そう言ってもらえると、嬉しいよ」

「……ううっ」

るなはマフラーに顔を埋めた。

「先輩、最近、私が何を言っても、優しく返してくれるんですから……」

「嫌だった?」

「嫌なわけありません!」

るなは、思わず顔を上げた。

「嬉しいです! 嬉しいんですけど……!」

「うん」

「……心臓が、忙しいんです」

蒼は小さく笑った。

「じゃあ、今日は少しゆっくり歩こうか」

「……はい」

二人は並んで歩き始めた。

目的地は、街の中心部から少し離れた、小さな公園だった。

大きなイルミネーション会場ほど華やかではないけれど、園内にはいくつかの木があり、冬になると控えめな光が飾られる。

近くには小さなカフェもある。

以前、蒼がスケッチをしているところを見かけたことがある場所だった。

「今日は、公園に行くんですか?」

るなが尋ねると、蒼はうなずいた。

「うん。少し見てもらいたいものがあって」

「……見てもらいたいもの」

るなの胸が、どきんと鳴った。

「……あの、先輩」

「うん?」

「それって……」

聞いてみたい。

でも、聞いたら楽しみが減ってしまう気もする。

るなは、迷った末に首を振った。

「……いえ! 着いてからのお楽しみにします!」

「そう?」

「はい!」

蒼は、少し嬉しそうに笑った。

「じゃあ、着いてからね」

「……はい!」

二人は、公園へ向かって歩いていった。

道沿いには、冬の花壇が並んでいた。

花は少なくなっていたけれど、葉の色や枝の形には、冬ならではの美しさがある。

るなは、ふと足を止めた。

「……あっ、先輩。あそこの木、枝が星みたいに広がっています」

蒼も足を止め、るなが指さした木を見上げた。

「本当だね」

「葉っぱが少ないから、枝の形がよく見えるんですね」

「うん。季節によって、同じ木でも見え方が変わるんだ」

蒼は、木を見つめながら続けた。

「葉がいっぱいあるときは、葉の色や重なりに目が向く。でも、冬になると枝の線が見えてくる。どちらがきれいというわけじゃなくて、季節ごとに違う表情があるんだよ」

「……先輩らしいです」

「そうかな?」

「はい。先輩は、いつも、みんなが見落としそうなものを見つけてくれますから」

るなは、木を見上げた。

「私だったら、寒いなあって思いながら通り過ぎてしまいそうです。でも、先輩と歩いていると、普段は気づかない景色にも目が向くんです」

「それは嬉しいな」

蒼は、るなを見つめた。

「僕も、るなと歩いていると、今まで気にしていなかったものが目に入ることがあるよ」

「えっ?」

「例えば、あのお店の前に並んでいるお菓子とか」

「……お菓子!」

るなの目が輝いた。

「どこですか!?」

蒼は、思わず笑った。

「ほら、そっちじゃなくて、向こうの通り」

「あっ、本当だ! かわいい焼き菓子が並んでいます!」

「やっぱり、るなは見つけるのが早いね」

「おいしいものを見つけるのは、得意です!」

「うん。知ってるよ」

二人は笑い合った。

そんな何気ないやり取りをしながら、公園に到着した。

公園の中には、静かな冬の光が広がっていた。

木々に巻きつけられた小さなライトが、白や淡い金色に輝いている。

大きなツリーも、派手な飾りもない。

けれど、足元を照らす光や、枝の間からこぼれる明かりが、冬の夕暮れに柔らかな表情を与えていた。

「……きれい」

るなは、ゆっくりと周囲を見渡した。

「ここ、落ち着きますね」

「うん。僕も好きな場所なんだ」

蒼は、公園の奥にあるベンチを指さした。

「少し座ろうか」

「はい!」

二人はベンチに腰を下ろした。

冷たくなった空気の中で、木々の光が静かに瞬いている。

しばらく景色を眺めたあと、蒼はバッグを開いた。

そこから取り出したのは、見慣れたスケッチブックだった。

るなは、その表紙を見た瞬間、背筋を伸ばした。

「……先輩!」

「うん」

「それって……!」

「前に約束したでしょう?」

蒼は、スケッチブックを膝の上に置いた。

「見せたいものがあるって」

「……はい!」

るなの声が、少しだけ裏返った。

蒼は、ページをめくる前に、彼女の顔を見た。

「今日は、るなに見てほしい絵があるんだ」

「……私に?」

「うん」

その言葉に、るなは思わず両手を握りしめた。

心臓が、どきどきと音を立てている。

「……どんな絵ですか?」

「見てからのお楽しみ」

「……先輩、ずるいです」

「そうかな」

「そうです! 気になって、今からドキドキしています!」

蒼は、優しく笑った。

「じゃあ、ゆっくり見てね」

そう言って、スケッチブックを開いた。

最初のページには、冬の街並みが描かれていた。

街路樹のイルミネーション。

窓から漏れる明かり。

道を歩く人たちの姿。

それぞれの線は繊細で、光の濃淡が丁寧に表現されている。

るなは、思わず息をのんだ。

「……わあ」

次のページには、大きなクリスマスツリー。

その周りで写真を撮る人たち。

小さな子どもを抱き上げる親。

手をつないで歩く恋人たち。

そして、屋台の前で笑い合う友達。

絵の中の人たちは、それぞれ違う表情をしていた。

誰もが、何かを楽しみにしているようだった。

「……先輩の絵って、やっぱり素敵です」

るなは、ページを見つめながら言った。

「光がきれいなだけじゃなくて、そこにいる人たちが、どんな時間を過ごしているのかまで伝わってきます」

蒼は、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう」

るなは、次のページをめくった。

そこには、冬のイルミネーションのトンネルが描かれていた。

光の中を歩く人たち。

手をつないでいる二人。

少し離れた場所で笑い合う友達。

それぞれが、同じ光の中で違う時間を過ごしている。

るなは、その絵をじっと見つめた。

「……この絵、好きです」

「どこが好き?」

「えっと……」

るなは、言葉を探した。

「みんな、同じ場所にいるのに、見ているものや感じていることは違うんだなって思うんです」

蒼は、静かにうなずいた。

「うん」

「恋人同士は、お互いのことを考えているのかもしれないし、友達同士は、一緒に笑っているのかもしれない。家族は、みんなで出かけたことを楽しんでいるのかもしれない……」

るなは、絵の中の人々を見つめた。

「でも、みんな、それぞれの幸せを感じているんですよね」

「そうだね」

蒼は、穏やかな声で答えた。

「同じ景色でも、そこにいる人によって、意味が変わることがあるから」

るなは、微笑んだ。

「……先輩が描く光って、やっぱり温かいですね」

「るなにそう感じてもらえたなら、描いてよかったよ」

その言葉を聞いて、るなは胸が温かくなった。

蒼の絵を見ると、いつも思う。

自分が普段見ている景色の中にも、まだ知らない美しさが隠れているのかもしれない。

ただ通り過ぎてしまう道。

何気なく見上げた空。

誰かと笑い合った瞬間。

その一つひとつが、見方を変えれば、大切な思い出になる。

そして、その景色を蒼が絵に残してくれることが、るなにはとても嬉しかった。

「……先輩」

「うん?」

「この絵、ずっと見ていたいです」

蒼は、少し照れくさそうに笑った。

「じゃあ、もう少し見ていていいよ」

「はい!」

るなは、再びスケッチブックに目を落とした。

そして、ページをめくった。

次の瞬間。

るなの指が、ぴたりと止まった。

「…………え?」

そこに描かれていたのは、イルミネーションの中に立つ、一人の女の子だった。

白いコート。

淡い水色のマフラー。

少しだけ頬を赤くして、光の向こうを見つめている。

そして、その顔には。

とても幸せそうな笑顔が浮かんでいた。

「……えっ?」

るなは、もう一度、絵を見た。

白いコート。

水色のマフラー。

その姿には、見覚えがあった。

というより。

「……こ、これ……」

声が、震えた。

蒼は、静かに彼女の様子を見ていた。

「……るなだよ」

その一言で、るなの顔が一気に赤くなった。

「……っ!」

スケッチブックを持つ手に、思わず力が入る。

そこに描かれていたのは、紛れもなく自分だった。

イルミネーションの中にいる、自分。

光に包まれながら、何かを見つめて笑っている自分。

「せ、先輩……!」

るなは、蒼の顔を見た。

「こ、これ……私ですか!?」

「うん」

「……わ、私……?」

「そうだよ」

蒼は、少しだけ照れくさそうに笑った。

「この前、一緒に冬の街を歩いたときのるなを描いたんだ」

るなは、もう一度、絵に目を落とした。

頬が熱い。

心臓が、さっきよりもずっと大きな音を立てている。

「……わ、私が……先輩の絵の中に……」

思わず、つぶやいた。

蒼は、うなずいた。

「うん。前に、るなが言ってくれたでしょう?」

「……え?」

「僕が見ている景色の中に、自分も一緒にいたいって」

るなは、息をのんだ。

覚えている。

あの日、自分は確かにそう言った。

蒼の絵の中にいられたら嬉しい。

でも、それ以上に、現実でも、蒼が見ている景色の中に一緒にいたい。

そう伝えたのだ。

「……覚えていてくれたんですか?」

「もちろん」

蒼は、まっすぐに彼女を見つめた。

「るなが言ってくれたことだから」

その言葉に、るなは胸がいっぱいになった。

自分が何気なく口にした言葉。

恥ずかしくて、少し勇気を出して伝えた気持ち。

それを蒼は覚えていてくれた。

そして、絵にしてくれた。

「……先輩」

るなの目が、じんわりと潤んだ。

「……嬉しいです」

小さな声だった。

けれど、そこには、たくさんの気持ちが込められていた。

しばらくの間、るなは絵を見つめ続けていた。

自分の姿が、蒼のスケッチブックの中にある。

それだけでも、信じられないほど嬉しい。

けれど、少し落ち着いてくると、別のことにも気づいた。

「……あれ?」

るなは、絵をもう少し近くで見た。

そこに描かれた自分は、ただ立っているだけではなかった。

目元は柔らかく、口元には自然な笑みが浮かんでいる。

頬は、冬の寒さのせいなのか、少し赤くなっていた。

マフラーに半分隠れた顔。

光を受けて輝く瞳。

そして、何より。

とても幸せそうだった。

「……私、こんな顔をしていたんですか?」

るなが尋ねると、蒼は静かにうなずいた。

「うん」

「……こんなに、笑っていました?」

「笑っていたよ」

蒼は、絵を見つめた。

「イルミネーションを見ているときのるなは、いつも楽しそうだけど、その日は特に嬉しそうだった」

「……そう、なんですか?」

「うん。光を見つけるたびに、目を輝かせていたし、きれいな飾りを見つけると、僕に教えてくれたでしょう?」

るなは、思い出した。

街路樹の光。

星の形をした飾り。

窓辺に並んだ小さなクリスマスオーナメント。

その一つひとつを見つけるたび、蒼に話しかけていた。

「……あっ。確かに、私、いろいろ話していましたね」

「うん。僕も楽しかったよ」

蒼は微笑んだ。

「るなが楽しそうにしているのを見ると、僕まで嬉しくなるんだ」

るなは、言葉を失った。

絵の中の自分は、こんなにも幸せそうに笑っている。

それは、自分が見ていた景色がきれいだったからだけではない。

蒼と一緒にいたから。

蒼と話していたから。

蒼が隣にいてくれたから。

その時間が嬉しくて、心から笑っていたのだ。

「……先輩」

るなは、絵を見つめたまま言った。

「私、この絵の中で……すごく幸せそうですね」

「うん」

「……見ているだけで、わかります」

るなは、少し照れくさそうに笑った。

「こんな顔をしていたなんて、知りませんでした」

「自分の顔って、自分ではなかなか見られないからね」

蒼は、穏やかな声で続けた。

「でも、僕から見ると、るなはよくそんな顔をしているよ」

「……え?」

「好きなものを見つけたときとか、誰かと笑っているときとか。特に、嬉しいことがあったとき」

るなは、顔を上げた。

「……先輩といるときも?」

蒼は、少しだけ微笑んだ。

「うん。僕といるときも」

「…………っ!」

るなは、再び真っ赤になった。

「……先輩!」

「うん?」

「そ、そういうことを、そんなに自然に言わないでください!」

「どうして?」

「どうしてって……!」

るなは、両手で頬を押さえた。

「……嬉しくて、恥ずかしくて、どうしたらいいかわからなくなるんです!」

蒼は、優しく笑った。

「……そっか」

「……はい」

るなは、少しだけうつむいた。

けれど、すぐに顔を上げた。

「……でも、もっと言ってほしいです」

「え?」

「……あっ!」

自分が何を言ったのか気づいたるなは、目を見開いた。

「ち、違うんです! 違わないですけど……!」

蒼は、驚いたあと、ふっと笑った。

「わかった」

「……え?」

「これからも、嬉しいと思ったことは、ちゃんと言葉にするよ」

るなは、胸を押さえた。

「……先輩、大好きです」

今度は、隠さずに言えた。

蒼は、彼女の目を見つめた。

「ありがとう。僕も、るなのことが大好きだよ」

その言葉が、冬の空気の中で優しく響いた。

るなは、思わず顔を伏せた。

「……もう……」

けれど、その口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。

やがて、るなは再び絵を見つめた。

今度は、恥ずかしさだけではなく、少し違う気持ちが胸に広がっていた。

「……先輩」

「うん?」

「この絵を描いているとき、先輩は何を考えていたんですか?」

蒼は、少し考えた。

「そうだね……」

彼は、スケッチブックの中のるなを見つめた。

「最初は、イルミネーションを描こうと思っていたんだ」

「はい」

「でも、一緒に歩いているとき、るなが光を見つめて笑っているのを見て……その表情も描きたいと思った」

るなは、じっと聞いていた。

「イルミネーションは、毎年飾られるでしょう? 同じ場所なら、来年も似たような光を見ることができるかもしれない」

蒼は、静かに言葉を続けた。

「でも、そのときのるなの表情は、その瞬間にしか見られないと思ったんだ」

「……その瞬間にしか」

「うん。嬉しいことがあったときの顔も、何かに夢中になっているときの顔も、同じように見えて、少しずつ違うから」

蒼は、るなを見つめた。

「だから、覚えておきたかったんだ。あの日、るながどんな顔で笑っていたのか」

るなの胸が、じんわりと温かくなった。

「……先輩は、私の笑顔を覚えておきたいんですか?」

「うん」

蒼は、ためらわずに答えた。

「るなが笑っていると、僕も幸せな気持ちになるから」

るなは、スケッチブックを見下ろした。

絵の中の自分は、確かに笑っていた。

無理に笑っているわけではない。

誰かに見せるために作った笑顔でもない。

ただ、嬉しかったから。

楽しかったから。

大好きな人と一緒にいる時間が、何より幸せだったから。

そんな気持ちが、そのまま表情になっていた。

「……私、先輩に出会えてよかったです」

気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。

蒼は、静かに目を細めた。

「……僕もだよ」

るなは、少しだけ顔を上げた。

「本当ですか?」

「うん。るなに出会えてよかった」

蒼は、優しく微笑んだ。

「最初に会ったとき、まさかこんなふうに、一緒に景色を見たり、絵を見せ合ったりするようになるとは思っていなかったけどね」

「……私もです」

るなは、くすりと笑った。

「最初は、先輩の絵をもう一度見たいって、そればかり考えていました」

「うん」

「また会えるかな、とか。もう一度、絵を見せてもらえるかな、とか」

「覚えているよ」

「……でも、今は」

るなは、絵の中の自分を見つめた。

「先輩の絵を見るのも好きですけど、先輩と一緒に景色を見ることが、もっと好きになりました」

蒼は、うなずいた。

「そう言ってもらえると、嬉しいよ」

「……先輩が見つけた光を、一緒に見つけたいんです」

るなは、言葉を選びながら続けた。

「先輩がきれいだと思った景色を、私も見てみたい。私がきれいだと思った景色を、先輩にも見てほしい。そうやって、同じ景色を見ながら、いろんな気持ちを分け合っていきたいです」

蒼は、しばらく彼女を見つめていた。

それから、ゆっくりとうなずいた。

「……うん。一緒に見よう」

その言葉は、短かった。

けれど、るなには十分だった。

これからも一緒に景色を見ていく。

春の桜も。

夏の花火も。

秋の紅葉も。

そして、また巡ってくる冬のイルミネーションも。

二人で見つけた景色は、蒼の絵に残るかもしれない。

るなの心に残るかもしれない。

あるいは、二人の思い出として、どこにも形を残さずに、大切にしまわれるのかもしれない。

どんな形であっても、二人で過ごした時間が消えてしまうわけではない。

それが、るなには嬉しかった。

「……あの、先輩」

るなは、少しだけ遠慮がちに尋ねた。

「この絵……もう少し、近くで見てもいいですか?」

「もちろん」

蒼は、スケッチブックを少しだけるなのほうへ傾けた。

るなは、そっと顔を近づけた。

細い線。

柔らかな影。

光の重なり。

マフラーの編み目。

コートの裾に落ちる、淡い明かり。

そして、自分の表情。

細かなところまで、丁寧に描かれていた。

「……すごい」

るなは、思わずつぶやいた。

「こんなに細かく描いてくれたんですね」

「気づいたら、細かくなっていたよ」

蒼は少し照れたように笑った。

「るなのことを描くのは、思っていたより難しかったんだ」

「……難しかったんですか?」

「うん」

るなは、少しだけ不安そうに眉を下げた。

「……私、描きにくい顔をしているんでしょうか?」

「違うよ」

蒼は、すぐに首を振った。

「そうじゃなくて、るなは表情がよく変わるから」

「……え?」

「楽しいとき、驚いたとき、照れたとき。ほんの少しの違いで、顔の印象が変わるでしょう?」

るなは、考え込んだ。

「……そうでしょうか?」

「うん。だから、どの表情を描こうか迷ったんだ」

蒼は、スケッチブックを見つめた。

「でも、あの日のるなは、イルミネーションを見ながら、本当に嬉しそうに笑っていた。その顔を見たとき、これを描きたいと思ったんだ」

るなは、しばらく何も言えなかった。

自分では気づいていなかった表情を、蒼は見ていてくれた。

何気なく笑った瞬間。

心から嬉しいと思った瞬間。

そんな一瞬を、彼は大切にしてくれていた。

「……先輩」

「うん?」

「私、自分の笑顔って、あまり意識したことがなかったんです」

「そう?」

「はい。嬉しいときは笑うし、楽しいときは笑うし……。でも、自分がどんな顔をしているのかなんて、あまり考えたことがなくて」

るなは、少し照れくさそうに笑った。

「でも、この絵を見て、私って、こんなに幸せそうに笑うんだなって思いました」

蒼は、優しくうなずいた。

「うん。るなは、よく笑うよ」

「……先輩といると、もっと笑っているかもしれません」

「そうだね」

「……えへへ」

るなは、照れながら笑った。

そして、もう一度、絵を見つめた。

「……この絵、大好きです」

その言葉は、今度は迷いなく口から出た。

「先輩が描いてくれたから、というのもありますけど……。この絵の中の私が、本当に幸せそうだから」

蒼は、静かに彼女を見つめた。

「ありがとう」

「……私、この絵を見るたびに、今日のことを思い出すと思います」

「今日のこと?」

「はい。先輩が絵を見せてくれたこと。私がどんなふうに笑っていたのか、教えてくれたこと。それから……」

るなは、少しだけ声を小さくした。

「……先輩が、私の笑顔を覚えておきたいって言ってくれたこと」

蒼は、照れくさそうに微笑んだ。

「……うん」

二人の間に、静かな時間が流れた。

遠くでは、子どもたちの声が聞こえる。

公園の木々は、冬の風に小さく揺れていた。

イルミネーションの光が、スケッチブックのページを柔らかく照らしている。

るなは、その光を見つめながら思った。

――私は、先輩の絵の中にいる。

――そして、先輩が見ている世界の中にも、ちゃんといる。

それは、以前から願っていたことだった。

けれど、今はそれ以上の気持ちがあった。

自分もまた、蒼の世界を知っていきたい。

彼がどんなものを見て、何を美しいと思い、どんな気持ちで絵を描いているのか。

そのすべてを、一度に知ることはできないだろう。

それでも、一緒に歩きながら、少しずつ知っていけたらいい。

そして、自分が見つけたものも、蒼に伝えていきたい。

二人で同じ景色を見て、違うところに気づき、違う気持ちを分かち合う。

その積み重ねが、これからの二人の物語になっていくのだ。

「……先輩」

るなは、少しだけ姿勢を正した。

「お願いしてもいいですか?」

「もちろん。何かな?」

「……この絵、写真に撮ってもいいですか?」

蒼は、一瞬驚いたあと、微笑んだ。

「うん。いいよ」

「……本当ですか?」

「もちろん。でも、スケッチブックを落とさないように気をつけてね」

「はい!」

るなは、スマートフォンを取り出した。

カメラを起動し、絵がきれいに写るように角度を調整する。

少し斜めになってしまった。

「あっ、違う……」

もう一度、撮り直す。

今度は光が反射してしまった。

「……ううっ、難しいです!」

蒼は、笑いながらスケッチブックの角度を調整してくれた。

「これならどう?」

「……あっ! きれいです!」

るなは、シャッターボタンを押した。

カシャッ。

画面に、絵の中の自分が映った。

白いコート。

水色のマフラー。

そして、幸せそうに笑う自分。

るなは、写真を見つめた。

「……えへへ」

自然と笑みがこぼれる。

「……宝物にします」

蒼は、彼女の表情を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「そう言ってもらえてよかった」

るなは、写真を保存してから、ふと思いついたように顔を上げた。

「……先輩」

「うん?」

「私も、先輩のことを描いてみたいです」

蒼は、少し驚いたように目を見開いた。

「僕を?」

「はい!」

るなは、元気よくうなずいた。

「……ただし、私は絵が得意じゃないので、先輩みたいに上手には描けないと思います」

「そんなことは気にしなくていいよ」

蒼は、優しく答えた。

「どんな絵でも、るなが描いてくれたなら嬉しいから」

「……本当ですか?」

「うん」

るなは、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、今度、挑戦してみます!」

「楽しみにしているよ」

「……でも、先輩は難しそうです」

「どうして?」

「だって、先輩は、真剣に絵を描いているときは格好いいですし、笑っているときは優しいですし……。どんな表情を描けばいいのか、迷ってしまいそうです」

蒼は、少し照れくさそうに視線をそらした。

「……そんなふうに見てくれていたんだね」

「……はい」

るなは、頬を赤くしながらうなずいた。

「だって、大好きな人ですから」

言った瞬間、二人の間に短い沈黙が落ちた。

るなは、目を見開いた。

「……あっ!」

蒼は、少し驚いたあと、優しく笑った。

「ありがとう」

「……もう、先輩!」

るなは、顔を隠すようにマフラーを引き上げた。

「……今日は、恥ずかしいことばかりです!」

「でも、嬉しいことばかりでもあるでしょう?」

その言葉に、るなは顔を上げた。

そして、少し考えてから、ゆっくりとうなずいた。

「……はい」

嬉しい。

恥ずかしい。

胸がいっぱいになる。

そんな気持ちが、何度も何度も押し寄せてくる。

でも、どれも嫌ではなかった。

蒼が自分のことを考えながら絵を描いてくれたこと。

自分の笑顔を覚えておきたいと思ってくれたこと。

そして、これからも一緒に景色を見ていこうと言ってくれたこと。

そのすべてが、るなにとって大切な宝物だった。

日が傾き始めると、公園のイルミネーションは少しずつ鮮やかになっていった。

木々の光が、夕暮れの青い空に浮かび上がる。

るなは、スケッチブックの絵と、目の前の景色を見比べていた。

絵の中の自分は、イルミネーションの中で笑っている。

そして、今の自分もまた、同じような光の中にいた。

けれど、少しだけ違う。

絵の中の自分は、あの日の自分。

蒼と一緒に冬の街を歩き、何気ない会話を楽しみ、光を見つけて笑っていた自分。

今の自分は、その絵を見ている。

蒼が、自分の笑顔を残してくれたことを知った自分。

そして、その絵を見ながら、これから先の時間にも思いを巡らせている自分。

同じイルミネーションでも、感じることは少しずつ変わっていく。

そのことが、るなには不思議で、そして嬉しかった。

「……先輩」

「うん?」

「私、今日のことを、ずっと覚えていたいです」

蒼は、優しくうなずいた。

「僕もだよ」

「絵の中の私を見て、こんなに幸せそうに笑っていたんだって、初めて気づきました」

るなは、スケッチブックをそっと見つめた。

「……私、これからも、いっぱい笑っていたいです」

「うん」

「先輩と一緒にいるときも、友達といるときも。楽しいことがあったときも、何気ない日でも……」

るなは、顔を上げた。

「そういう時間を、大切にしていきたいです」

蒼は、彼女を見つめた。

「きっと、これからも、たくさん笑えるよ」

「……本当ですか?」

「うん。だって、るなは、楽しいことを見つけるのが上手だから」

「……えへへ」

るなは、照れくさそうに笑った。

「……それは、食べ物を見つけるのも含まれますか?」

蒼は、思わず笑った。

「もちろん」

「やったあ!」

るなは、嬉しそうに両手を上げた。

「では、これからも、いちごのスイーツを見つけて、先輩に報告します!」

「楽しみにしているよ」

「それから、おいしいケーキも!」

「うん」

「温かいココアも!」

「うん」

「……あと、きれいな景色も!」

蒼は、優しくうなずいた。

「そうだね。おいしいものも、きれいな景色も、これから一緒に見つけていこう」

るなは、満面の笑顔になった。

「……はい!」

その笑顔を見て、蒼も微笑んだ。

スケッチブックの中のるなと、今、目の前で笑っているるな。

二つの笑顔が、蒼の中で重なった。

絵の中の表情は、あの日の記憶。

目の前の表情は、今この瞬間の幸せ。

どちらも、彼にとって大切な光だった。

蒼は、心の中で思った。

――これからも、こんな表情を見ていたい。

――そして、いつかまた、新しい絵に残したい。

けれど、それ以上に願っていることがある。

絵に残すことができなくても。

写真に撮ることができなくても。

ただ隣にいて、同じ景色を見て、笑い合える時間が続いてほしい。

それが、今の蒼にとって、一番大切な願いだった。

公園を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

るなは、スマートフォンに保存した絵の写真を、もう一度見つめた。

「……えへへ」

また、笑みがこぼれる。

蒼が描いてくれた自分。

イルミネーションの中で、幸せそうに笑っている自分。

その姿を見るたびに、今日の気持ちを思い出せるだろう。

そして、いつか、もっと時間が経ってから見返したとき。

自分はきっと、こう思うのだ。

あの頃の私は、こんなにも幸せそうに笑っていたんだ、と。

そして、その笑顔を描いてくれた人が、今も隣にいてくれたら。

そんな未来を、そっと願わずにはいられなかった。

「……先輩」

「うん?」

るなは、少しだけ恥ずかしそうに笑った。

「……この絵、大切にしますね」

蒼は、うなずいた。

「ありがとう」

「それから……」

るなは、そっと彼の手を握った。

「これからも、先輩が見ている景色を、一緒に見せてください」

蒼は、彼女の手を握り返した。

「うん。一緒に見よう」

「……約束ですよ?」

「約束」

二人は、ゆっくりと歩き始めた。

冬の街には、まだたくさんの光が輝いている。

その一つ一つが、誰かの大切な時間を照らしている。

そして、るなと蒼もまた、その光の中を歩いていた。

恋人と過ごす、温かな時間。

友達と笑い合う、かけがえのない時間。

何気ない日常の中にある、小さな幸せ。

それらが積み重なって、二人の未来を照らしていく。

るなは、蒼の隣を歩きながら、そっと彼を見上げた。

「……先輩、大好きです」

蒼は、少し照れたように微笑んだ。

「僕も、るなのことが大好きだよ」

その言葉を聞いたるなは、嬉しそうに笑った。

まるで、スケッチブックの中の自分と同じように。

いや、きっと、それ以上に。

今この瞬間のるなは、幸せそうに笑っていた。

蒼は、その笑顔を見つめながら思った。

――この笑顔を、また描きたい。

けれど、今はまだ、描かなくてもいい。

今はただ、隣にいる彼女の手を握り、同じ景色を見ていたい。

冬のイルミネーションが、二人を優しく照らしている。

その光の中で、るなは改めて感じていた。

自分は、先輩の描いた絵の中にいる。

そして、それだけではない。

先輩が見ている世界の中に、今も、これからも、一緒にいたいと思っている。

その願いは、もう絵の中だけのものではなかった。

二人で歩く、この現実の景色の中で。

つないだ手の温もりの中で。

交わす言葉と、重ねる笑顔の中で。

少しずつ、確かなものになっていた。

第4節「また来年も」

冬の空気が、少しずつ冷たさを増していた。

街路樹には白や金色のイルミネーションが灯り、ショーウィンドウにはクリスマスを待ちわびるように、赤いリボンや小さな雪だるま、きらめく星の飾りが並んでいる。

駅前の広場では、大きなクリスマスツリーが堂々と輝いていた。

その周囲を行き交う人たちは、みんな少しだけ足取りが軽い。

恋人同士で手をつないで歩く人。

友達と肩を寄せ合って写真を撮る人。

小さな子どもを抱き上げて、ツリーのてっぺんにある星を見せている家族。

誰もが、それぞれの大切な人と、それぞれの冬を過ごしている。

星野るなは、白いコートの襟元をきゅっと押さえながら、広場の入り口で立ち止まった。

「……わあ」

思わず、そんな声がこぼれる。

何度見ても、冬のイルミネーションは特別だった。

光の粒が夜空に浮かんでいるようで、街全体が大きな宝石箱になったみたい。

けれど、今日のるなが楽しみにしていたものは、イルミネーションだけではなかった。

少し離れた場所に、見慣れた姿がある。

淡い色のマフラーを巻き、片手に小さなスケッチブックを持った青年。

るなの大好きな人。

桐生蒼。

るながいつも「先輩」と呼ぶ人だった。

「先輩ーっ!」

るなが手を振ると、蒼はすぐに気づいて、優しく笑った。

「るな。こんばんは」

「こんばんは、先輩!」

小走りで近づいたるなは、蒼の前でぴたりと止まった。

そして、彼の顔を見上げる。

「……えへへ」

「どうしたの?」

「いえ。先輩がいるなあって思って」

「うん。いるよ?」

「そうなんですけど!」

るなは、思わず頬を膨らませた。

「そういう意味じゃなくてですね。こうして、待ち合わせ場所に先輩がいて、私を見つけて笑ってくれて……それが、すっごく嬉しいんです」

蒼は少し驚いたように目を瞬かせたあと、ふっと笑みを深めた。

「そっか。僕も、るなが来るのを楽しみにしていたよ」

「……っ!」

その言葉だけで、るなの胸はぽかぽかと温かくなった。

「せ、先輩……! そういうこと、さらっと言うの、ずるいです!」

「ずるい?」

「ずるいです! だって、私、今ので一日分の幸せを使い切っちゃいそうです!」

「それは困ったね。今日はまだ始まったばかりなのに」

「そうなんです! だから、これ以上幸せにするのは禁止です!」

「じゃあ、気をつけるよ」

「本当にですよ?」

「うん」

蒼は真面目な顔で頷いた。

けれど、その目は笑っている。

るなは、それを見てますます頬を赤くした。

「……もう。絶対、気をつける気ないですよね?」

「どうだろう」

「先輩!」

二人の笑い声が、冬の空気に溶けていった。

それだけで、今日という日が特別なものになった気がした。

イルミネーションを見るのは、もちろん楽しみ。

でも、本当に楽しみだったのは、こうして蒼と会って、何でもない会話を交わして、一緒に歩けることだった。

夏の花火の日も。

秋の紅葉を見に行った日も。

そして、初めて蒼と出会った、あの冬の日も。

るなの心には、蒼と過ごした時間が一つずつ、大切な宝物として残っている。

今日もまた、その宝物が増える。

そう思うだけで、胸が弾んだ。

*

「それじゃあ、行こうか」

「はいっ!」

蒼がそっと手を差し出した。

るなは一瞬だけ目を丸くしたあと、嬉しそうにその手を取る。

指先が触れ、手のひらが重なる。

冬の冷たい空気の中で、二人の手だけが温かかった。

「……先輩の手、温かいです」

「るなの手は、少し冷たいね」

「えっ? そ、そうですか?」

「うん。寒かった?」

「ちょっとだけ。でも、大丈夫です!」

「本当に?」

「本当です! だって、先輩と手をつないでますから!」

言い切ってから、るなは自分の言葉に照れてしまった。

「……あっ。い、今のはですね!」

「うん?」

「その……寒さ対策として、手をつなぐのは、とっても有効だという意味で!」

「なるほど」

「そうです! 医学的にも、きっと……!」

「医学的にも?」

「た、たぶんです!」

蒼はとうとう、声を立てて笑った。

「ふふっ。じゃあ、今日はしっかり寒さ対策をしよう」

「……はい」

るなは小さな声で答えた。

蒼の手を、ほんの少しだけ強く握る。

その指先に力を込めたことを、蒼は何も言わずに受け止めてくれた。

広場へ続く道の両側には、青白い光をまとった木々が並んでいた。

枝から枝へと小さな光が連なり、まるで星が地上に降りてきたようだった。

「きれいですね……」

るなは足を止め、目の前の景色を見上げた。

「うん。きれいだね」

「この青い光、雪みたいです。まだ雪は降っていないのに、ここだけ冬の物語の中にいるみたい」

「確かに。青い光の奥に白い光が混ざっているから、雪が降っているようにも見えるね」

「先輩、こういう光景を見ると、どんな絵を描きたくなりますか?」

蒼は少し考えてから、周囲を見回した。

「そうだな……光そのものも描きたいけれど、僕は、ここにいる人たちの表情も描きたくなるかな」

「人たちの表情?」

「うん。あの親子も、向こうで写真を撮っている二人も。みんな、同じイルミネーションを見ているのに、見せる表情は少しずつ違うでしょう?」

るなは、蒼の視線を追った。

小さな女の子が、父親の肩に乗ってツリーを指さしている。

その隣では、母親が二人を見上げながら笑っていた。

少し離れた場所では、友達同士らしい女の子たちが、何度も撮り直しながら写真を撮っている。

恋人同士が寄り添い、同じ景色を眺めている姿もあった。

「本当ですね……。みんな同じ場所にいるのに、それぞれ違う思い出を作っているんですね」

「そうだと思うよ」

「じゃあ、私たちも……」

るなは、つないだ手を見つめた。

「私たちも、私たちだけの思い出を作っているんですね」

「うん。そうだね」

蒼の声は、穏やかだった。

「今日の景色も、きっと僕たちだけの思い出になるよ」

その言葉を聞いて、るなは嬉しそうに微笑んだ。

「……はい!」

同じ光を見ている。

同じ道を歩いている。

けれど、二人の心の中には、二人にしか分からない思い出が積み重なっていく。

それは、誰かと比べる必要のない、二人だけの大切なものだった。

*

広場の中央に近づくと、大きなクリスマスツリーが姿を現した。

金色の星がてっぺんで輝き、赤や白、淡いブルーのオーナメントが枝の間に揺れている。

足元には小さなプレゼントの飾りが並び、周囲を囲む光がツリー全体を優しく照らしていた。

「わあああ……!」

るなの目が、一気に輝いた。

「先輩、見てください! あのツリー!」

「うん。大きいね」

「大きいだけじゃないです! この色の組み合わせ、すっごくかわいいです! 赤と白と金色って、クリスマスらしくて最高ですし、青い光が入っているのも素敵です!」

「るなは、色の組み合わせを見るのが好きだね」

「好きです! お菓子のパッケージを見るときも、ケーキを見るときも、イルミネーションを見るときも、色って大切なんですよ!」

「なるほど。ケーキの色も?」

「もちろんです!」

るなは、真剣な顔で頷いた。

「いちごの赤、生クリームの白、チョコレートの茶色……。ああ、想像しただけで幸せです……」

「今、ケーキを想像していた?」

「……はい」

「イルミネーションを見ていたはずなのに」

「見ています! ちゃんと見ていますよ! ただ、ツリーの赤い飾りを見たら、いちごのことを思い出してしまって……」

「赤い飾りから、いちごに?」

「はいっ!」

蒼は呆れたように笑いながらも、るなの手を離さなかった。

「るならしいね」

「それ、褒めてますか?」

「褒めているよ」

「本当ですか?」

「うん。るなは、好きなものを見つけるのが上手だから」

るなは、きょとんとした。

「好きなものを見つけるのが、上手……?」

「そう。きれいな景色も、おいしいものも、楽しいことも。るなは見つけると、すごく嬉しそうな顔をするでしょう?」

「……そんなに顔に出ていますか?」

「出ているよ」

「うう……」

るなは、両手で頬を押さえた。

「私、そんなに分かりやすいんですね……」

「でも、僕はその顔を見るのが好きだよ」

「……え?」

蒼は、まっすぐにるなを見た。

「るなが嬉しそうにしていると、僕まで嬉しくなるから」

るなは、言葉を失った。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

以前、蒼が描いてくれた自分の絵を見たときのことを思い出した。

イルミネーションの中で笑っている自分。

自分では気づいていなかった、幸せそうな表情。

蒼は、そんな自分を見つけてくれる。

自分が夢中になっているものも、思わず笑ってしまう瞬間も、少し照れてしまう気持ちも。

そして、それを大切にしてくれる。

「……先輩」

「うん?」

「私、先輩に出会えて、本当によかったです」

自然と口からこぼれた言葉だった。

蒼は一瞬、驚いたように目を見開いた。

それから、優しく微笑んだ。

「僕も、るなに出会えてよかったよ」

その言葉を聞いた瞬間、るなは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。

「……もう」

「どうしたの?」

「先輩、また幸せにすることを言いました!」

「気をつける約束だったね」

「そうです! 今日はまだ始まったばかりなのに!」

「困ったな」

蒼はそう言いながら、少しだけ身をかがめた。

「じゃあ、今度は言葉じゃなくて、こうしようか」

そう言って、つないだ手をそっと持ち上げる。

蒼は、るなの手を優しく握り直した。

指先まで包み込むような、温かな握り方だった。

るなは、頬を真っ赤にしながら、小さく笑った。

「……言葉じゃなくても、幸せです」

「よかった」

「先輩の手、ずっと握っていたいです」

「うん。僕も、こうしていたいよ」

二人はそのまま、クリスマスツリーの光を見上げた。

たくさんの人が行き交う広場の中で、二人だけの時間が、ゆっくりと流れていた。

*

「先輩。ちょっと、あっちに行ってもいいですか?」

しばらくツリーを眺めたあと、るなは広場の端を指さした。

そこには、イルミネーションを使った小さなアーチがあった。

白い光で縁取られたアーチの向こうには、青や紫の光が連なり、幻想的なトンネルのようになっている。

「もちろん。行こうか」

「はいっ!」

二人はゆっくりと歩き出した。

アーチの手前には、写真を撮るための小さなスペースが設けられていた。

カップルが並んで写真を撮っている。

友達同士が肩を寄せ合って笑っている。

中には、スマートフォンを高く掲げて、光のトンネル全体を撮影している人もいた。

「わあ……。ここ、写真を撮るのにぴったりですね!」

「そうだね。撮っていく?」

「撮りたいです!」

るなは即答した。

けれど、すぐに少し考え込む。

「……あ、でも」

「どうしたの?」

「私たち、二人で写真を撮るとき、いつも私が先輩に近づきすぎてしまう気がするんです」

「そうかな?」

「そうですよ! あとで写真を見ると、私が先輩にくっつきすぎていて……」

「それは、嫌なの?」

蒼が尋ねると、るなは慌てて首を横に振った。

「い、嫌じゃないです! むしろ、嬉しいです! 嬉しいんですけど……!」

「けど?」

「……私ばっかり、先輩の近くに行きたがっているみたいで」

るなは、少しだけ視線を落とした。

「先輩は、どう思っているのかなって……。私、いつも手をつなぎたいって思ってしまうし、隣にいたいし、できるなら、もっと近くにいたいし……」

話しているうちに、恥ずかしさが増していく。

「……あああ、言っちゃいました!」

るなは、両手で顔を覆った。

「忘れてください!」

「忘れないよ」

「先輩ーっ!」

蒼は笑いながら、るなの顔を覗き込んだ。

「僕も、るなの隣にいたいと思っているよ」

「……え?」

「手をつなぐのも好きだし、こうして一緒に歩くのも好きだよ。るなが近くに来てくれるのも、嬉しい」

「……本当ですか?」

「うん」

「……私だけじゃ、ないんですか?」

「僕だけじゃなくて、るなも、ということだね」

蒼は、少し照れたように微笑んだ。

「だから、遠慮しなくていいよ」

るなは、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳が、イルミネーションの光を受けてきらめく。

「……じゃあ」

「うん?」

「もう少し、近くに行ってもいいですか?」

「もちろん」

蒼が答えると、るなはそっと彼の隣に寄り添った。

肩と肩が触れる。

つないだ手が、二人の間で揺れた。

それだけなのに、るなの心はいっぱいだった。

「……えへへ」

「嬉しそうだね」

「はい。すっごく嬉しいです」

「じゃあ、写真を撮ろうか」

「はいっ!」

蒼はスマートフォンを取り出し、二人が入るように構えた。

けれど、るなは少し考えてから、彼の袖を引いた。

「先輩、待ってください」

「うん?」

「せっかくなので、もう少しだけ……」

るなは、蒼の腕にそっと自分の腕を寄せた。

「こうしても、いいですか?」

「うん。もちろん」

蒼は自然に受け入れ、二人でアーチの前に並んだ。

「それじゃあ、撮るよ」

「はい!」

カシャッ。

スマートフォンの画面に、二人の姿が映った。

白や青の光を背景に、寄り添って笑う二人。

るなは画面を覗き込み、目を輝かせた。

「わああ……! 先輩、見てください! すっごくきれいに撮れています!」

「本当だね」

「この写真、大切にします!」

「僕も保存しておこう」

「……えへへ。じゃあ、おそろいですね」

「そうだね」

るなは写真を見つめながら、胸の中でそっと呟いた。

来年も、こんな写真を撮れたらいいな。

再来年も、その先も。

同じように笑って、同じように寄り添って、今日のような夜を一緒に過ごせたら。

そんな願いが、少しずつ心の中で大きくなっていった。

*

イルミネーションのトンネルを抜けると、小さな広場に出た。

そこには、クリスマスマーケットの屋台が並んでいた。

温かい飲み物の湯気が立ち上り、焼き菓子や甘いお菓子の香りが漂っている。

るなは、その光景を見た瞬間、ぴたりと立ち止まった。

「……先輩」

「うん?」

「……いい匂いがします」

「そうだね」

「甘い匂いです」

「うん」

「……これは、行くしかないのでは?」

蒼は、思わず笑った。

「そうだね。少し見ていこうか」

「やったあああ!」

るなは、ぱっと顔を輝かせた。

「先輩、大好きです!」

「ふふっ。お菓子を見に行けるから?」

「それもあります!」

「それも?」

「もちろん、先輩と一緒だからです!」

るなは胸を張って答えた。

蒼は、そんな彼女を見て優しく笑った。

「じゃあ、一緒に行こう」

「はいっ!」

屋台には、チョコレートをかけた焼き菓子や、粉砂糖をまぶしたドーナツ、温かいココア、焼きたてのクッキーなどが並んでいた。

るなは、ひとつひとつを真剣な顔で見つめている。

「先輩……。これは、選ぶのが難しいです」

「どれもおいしそうだね」

「そうなんです! あっ、あっちにはチョコレートがかかったワッフルがあります! こっちには、いちごのソースがかかったパンケーキ……!」

「るな、目が輝いているよ」

「だって、冬のクリスマスマーケットですよ? かわいいお菓子がたくさんあるんですよ? これはもう、幸せの大渋滞です!」

「幸せの大渋滞か」

「はいっ! どれも私を呼んでいるんです!」

「お菓子が?」

「『るなちゃん、こっちだよー!』って!」

蒼は、とうとう声を立てて笑った。

「ふふっ。じゃあ、呼ばれているものの中から、ひとつ選ぼうか」

「……ひとつ?」

るなは、真剣な表情になった。

「先輩……。それは、なかなか難しい課題です」

「そう?」

「はい。ひとつを選ぶということは、ほかのお菓子との出会いを、今日は見送るということですから……」

「また来ればいいよ」

蒼の言葉に、るなはぴたりと動きを止めた。

「……また、来ればいい?」

「うん。今日食べられなかったものは、次に来たときに食べればいい。全部を一度に楽しもうとしなくても、また来ればいいんだから」

るなは、ゆっくりと彼を見上げた。

何気ない言葉だったのかもしれない。

けれど、その言葉が、なぜか胸の奥に残った。

また来ればいい。

今日できなかったことは、次の機会に。

今日見られなかった景色は、また別の日に。

今日選ばなかったお菓子も、また来たときに楽しめばいい。

そして――。

来年も、また一緒に来ればいい。

「……先輩」

「うん?」

「私、来年もここに来たいです」

るなは、屋台の向こうに広がるイルミネーションを見つめながら言った。

「来年も、このクリスマスマーケットに来て、今日食べなかったお菓子を食べたいです。新しいお菓子が増えていたら、それも食べてみたいです」

「うん。いいね」

「それから、来年もあのツリーを見たいです。さっきの光のトンネルも、もう一度歩きたいです」

「うん」

「……先輩と、一緒に」

最後の言葉は、少しだけ小さくなった。

蒼は、るなの横顔を見つめた。

「来年も、一緒に来よう」

「……え?」

るなは、思わず振り向いた。

「本当に、いいんですか?」

「もちろん。来年も一緒にイルミネーションを見よう」

「……約束、ですか?」

「うん。約束」

蒼は、つないだ手をそっと握り直した。

「また来年も、るなと一緒に来たいよ」

るなの瞳が、大きく揺れた。

胸の奥に、温かなものが広がっていく。

「……はいっ!」

るなは、満面の笑みで頷いた。

「約束です! 絶対ですよ!」

「うん」

「来年もですよ? 忘れちゃだめですよ?」

「忘れないよ」

「クリスマスツリーを見て、イルミネーションを歩いて、クリスマスマーケットでお菓子を食べるんです!」

「うん」

「それで、写真も撮ります!」

「そうしよう」

「それから……」

るなは、言葉を続けようとして、ふと止まった。

来年も一緒に。

そう約束できただけで、こんなにも嬉しい。

けれど、心の中には、もうひとつの願いが生まれていた。

来年だけじゃなくて。

その次の年も。

もっと先の未来も。

蒼と一緒に、同じ景色を見たい。

春には桜を見て、夏には花火を見て、秋には紅葉を楽しんで、冬にはまたイルミネーションを見たい。

その季節ごとに、新しい思い出を作っていきたい。

そう願う自分に気づいて、るなは少しだけ頬を赤くした。

まだ、口にするのは恥ずかしかった。

来年の約束をしたばかりなのに、その先まで望んでしまうなんて。

欲張りすぎだろうか。

でも、好きな人と一緒にいたいと思う気持ちは、止められなかった。

るなは、そっと蒼の手を握った。

「……先輩」

「うん?」

「私、今日のこと、ずっと覚えていたいです」

「今日のこと?」

「はい。先輩と待ち合わせして、一緒にイルミネーションを見て、写真を撮って、お菓子を選んで……。こうして、来年も一緒に来ようって約束したこと」

蒼は、優しく頷いた。

「僕も覚えていたいよ」

「……本当ですか?」

「うん。今日のるなの笑顔も、きれいなイルミネーションも、二人で撮った写真も。全部、大切な思い出だよ」

るなは、胸がいっぱいになった。

「……えへへ」

「また嬉しそうな顔をしているね」

「だって、嬉しいんですもん」

るなは、少し照れながら笑った。

「先輩と一緒にいると、何でもないことまで、特別な思い出になるんです」

蒼は、しばらく何も言わずに、るなを見つめていた。

やがて、静かに口を開く。

「僕も、そう思うよ」

「……先輩」

「特別な場所に行くことも楽しいけれど、るなと一緒なら、普通の帰り道だって楽しい。何かを食べながら話す時間も、同じ景色を眺める時間も、こうして次の約束をする時間もね」

蒼は、少しだけ照れたように笑った。

「だから、来年も一緒に来よう。今日と同じ場所でも、少し違う場所でも。るなと一緒に過ごせたら、きっと楽しいと思うから」

るなは、目を伏せた。

嬉しくて、少しだけ泣きそうだった。

けれど、涙の代わりに、笑顔がこぼれた。

「……はい」

そして、そっと付け加える。

「私も、先輩と一緒なら、きっと楽しいです」

*

温かいココアを買い、二人は屋台のそばに設けられたベンチに腰を下ろした。

るなの手には、小さな紙カップ。

表面には、ふわふわのクリームとチョコレートの粉が乗っている。

「……はあぁ。温かいです……」

るなは両手でカップを包み込んだ。

「冷えた手が、復活していきます……」

「よかった」

蒼もココアをひと口飲んだ。

「甘いね」

「はい! 冬のココアは、甘さがいつもの二倍くらい幸せに感じます!」

「二倍?」

「はい。寒い日に飲むからこその、おいしさがあるんです!」

「なるほど」

「それに、先輩と一緒ですから、さらに幸せが増しています!」

「じゃあ、今日は何倍くらいかな?」

「ええっ!?」

るなは、真剣に考え始めた。

「うーん……。寒さによる幸せが二倍で、先輩と一緒だから三倍で、イルミネーションがきれいだから四倍……。あっ、お菓子もあるので、五倍です!」

「ずいぶん増えたね」

「まだ増えるかもしれません!」

「これ以上?」

「はいっ!」

るなは笑いながら、ココアをひと口飲んだ。

甘い香りが広がり、冷えていた体がゆっくり温まっていく。

ふと、隣に座る蒼の横顔が目に入った。

彼は、カップを持ちながら、広場の光を眺めていた。

穏やかな表情。

時々、何かを見つけたように視線を動かし、目の前の景色を心に刻むように見つめている。

スケッチブックを持っているからだろうか。

蒼は、何気ない景色の中にも、絵になるものを見つけるのが上手だった。

でも、今のるなには、もうひとつ分かっていることがある。

蒼が見つめているのは、光だけではない。

そこにいる人の表情や、誰かが誰かを思う気持ち。

そして、今こうして隣にいる自分のことも。

「……先輩」

「うん?」

「今日、スケッチブックは持ってきたんですか?」

「持ってきたよ」

「やっぱり!」

るなは嬉しそうに笑った。

「何か描くんですか?」

「そうだね。時間があったら、少し描こうと思っているよ」

「どんな絵ですか?」

「まだ決めていないんだ」

「じゃあ……」

るなは、少しだけ身を乗り出した。

「私も、描いてもらえますか?」

蒼は、穏やかに微笑んだ。

「もちろん」

「……本当ですか?」

「うん。でも、今日はどんなるなを描こうかな」

「えっ? どんなって……」

るなは自分の顔を指さした。

「いつもの私ですよ?」

「いつものるなにも、いろんな表情があるからね」

「いろんな表情……?」

「おいしいものを見つけたときの顔。きれいな景色を見たときの顔。僕に何かを話してくれるときの顔。照れているときの顔」

「わあああ! 待ってください! そんなに観察していたんですか!?」

「うん」

「ううう……!」

るなは、思わず両手で顔を覆った。

「先輩、私のこと、見すぎです……!」

「好きな人のことだからね」

「……っ!」

るなは完全に固まった。

蒼は、慌てる様子もなくココアを飲んでいる。

その横顔があまりにも自然で、るなはますます恥ずかしくなった。

「……先輩って」

「うん?」

「時々、すっごく大胆ですよね……」

「そうかな?」

「そうです!」

るなは、顔を赤くしたまま、そっと蒼の袖をつまんだ。

「……でも、嬉しいです」

蒼は、その小さな声を聞き逃さなかった。

「うん。よかった」

二人の間に、優しい沈黙が流れた。

何かを話さなくても、気まずくない。

無理に話題を探さなくても、隣にいるだけで安心できる。

そんな時間が、るなは好きだった。

出会ったばかりの頃は、蒼の前で何を話せばいいのか分からなくなっていた。

彼の絵に心を奪われ、もう一度会いたいと願い、偶然の再会に胸を躍らせた。

少し話せただけで嬉しくて、目が合うだけで緊張して。

あの頃の自分は、今よりずっと不器用だった。

もちろん、今だって蒼の言葉ひとつで顔が赤くなってしまう。

それでも、以前より自然に笑えるようになった。

嬉しいことを嬉しいと言えるようになった。

寂しいときは寂しいと伝えられるようになった。

そして、これからも一緒にいたいと願う気持ちを、少しずつ言葉にできるようになった。

恋をして、変わったことがある。

けれど、変わらないこともある。

蒼が好き。

蒼と一緒にいたい。

その気持ちだけは、出会った頃からずっと、心の中で輝き続けている。

「……先輩」

るなは、ココアのカップを見つめたまま、そっと口を開いた。

「私、来年も先輩とこうしてココアを飲みたいです」

「うん。飲もう」

「その次の年も……」

言いかけて、るなは止まった。

蒼が、優しくこちらを見る。

「その次の年も?」

るなは、少しだけ恥ずかしそうに笑った。

「……はい」

「いいね」

蒼は、迷いなく頷いた。

「その次の年も、一緒に飲もう」

るなの胸が、きゅっと締めつけられた。

来年だけではない。

その先の未来まで、蒼は一緒に過ごすことを自然に考えてくれている。

そのことが、たまらなく嬉しかった。

「……約束、増えちゃいましたね」

「そうだね」

「来年のイルミネーションと、来年のココアと、その次の年のイルミネーションと……」

「うん」

「……いっぱいですね」

「いっぱいだね」

蒼は、笑いながら言った。

「でも、これからも二人で増やしていけばいいと思うよ」

るなは、静かに頷いた。

「……はい」

これからも、二人で。

その言葉が、心の中で何度も響いた。

*

ココアを飲み終えた頃、広場の中央からクリスマスソングが聞こえてきた。

明るくて、温かくて、どこか懐かしいメロディー。

ツリーの周囲では、子どもたちが音楽に合わせて手を叩いている。

るなは立ち上がり、そちらを見つめた。

「先輩、音楽が聞こえます!」

「うん。クリスマスの曲だね」

「私、この曲、好きです!」

「そうなんだ」

「はい。なんだか、みんなが幸せになれるような感じがして……」

るなは、音楽に耳を傾けた。

クリスマス。

誰かを思い、誰かに贈り物をして、誰かと笑い合う季節。

特別なプレゼントを用意する人もいる。

大切な人に、普段は言えない気持ちを伝える人もいる。

けれど、るなにとっては、こうして蒼と同じ音楽を聴き、同じ光を眺めていることも、十分すぎるほどの贈り物だった。

「……先輩」

「うん?」

「私、クリスマスって、もっと特別なことをしなきゃいけない日だと思っていたんです」

「特別なこと?」

「はい。すごいプレゼントを用意したり、どこか素敵なお店に行ったり、映画みたいなことをしたり……」

「うん」

「でも、今は……」

るなは、隣にいる蒼を見上げた。

「先輩と一緒に歩いて、きれいな景色を見て、ココアを飲んで、何でもないお話をするだけでも、すっごく幸せなんだなって思います」

蒼は、静かに頷いた。

「僕もそう思うよ」

「……本当ですか?」

「うん。特別なことがあれば、もちろん嬉しい。でも、特別なことがない日だって、るなと一緒に過ごせるなら大切な一日になるよ」

蒼は、少しだけ視線を上げた。

「今日みたいに、寒いねって話したり、おいしそうなお菓子を見つけたり、きれいな光を見て立ち止まったり。そんな時間も、僕は好きだよ」

るなは、じっと彼の言葉を聞いていた。

そして、ゆっくりと笑った。

「……私もです」

冬のイルミネーションは、確かにきれいだった。

けれど、いつかこの光が消える日が来る。

クリスマスが過ぎれば、ツリーは片づけられ、街の飾りも少しずつ姿を消していくだろう。

今日と同じ景色は、いつまでも続くわけではない。

でも、だからこそ。

今、この瞬間を大切にしたい。

今日の光を見たこと。

蒼と手をつないだこと。

お菓子を選んで笑ったこと。

来年も一緒に来ようと約束したこと。

そのひとつひとつが、二人の心に残っていく。

そして、来年には、また新しい思い出が増える。

その先の季節にも、きっと。

*

広場を一周したあと、二人は帰り道へ向かった。

空には、雲の切れ間から小さな星が見えていた。

街路樹のイルミネーションが、歩道に淡い光を落としている。

るなは、蒼の手を握りながら、ゆっくりと歩いていた。

もう少しだけ、一緒にいたい。

でも、今日の時間が終わるからこそ、次に会える日が楽しみになるのかもしれない。

そんなことを考えながら、るなはそっと口を開いた。

「先輩」

「うん?」

「来年も、一緒に冬のイルミネーションを見ましょうね」

「うん。約束したからね」

「……忘れないでくださいね?」

「忘れないよ」

「その次の年もですよ?」

「うん」

「そのまた次の年も……」

るなは、言いながら少しずつ恥ずかしくなってきた。

「……あの、私、欲張りでしょうか?」

蒼は、足を止めた。

「どうして?」

「だって、来年も、その次の年も、その先も……。ずっと先輩と一緒にいたいって思ってしまうんです」

るなは、つないだ手を見つめた。

「来年の約束をしたばかりなのに、もうその先のことまで考えていて……。少し、欲張りすぎかなって」

言い終えると、るなは不安そうに蒼を見上げた。

蒼は、すぐには答えなかった。

ただ、るなの手を優しく握り返した。

「るな」

「……はい」

「僕も、これから先のことを考えているよ」

「……え?」

「来年の冬だけじゃなくて、春になったら桜を見に行きたいし、夏になったら、また花火を見たい。秋になったら、紅葉も見たいね」

るなの目が、少しずつ大きくなっていく。

「……先輩も?」

「うん」

蒼は、まっすぐに彼女を見つめた。

「るなと一緒に、いろんな季節を過ごしたいと思っているよ」

るなの胸が、どくんと鳴った。

「春も、夏も、秋も、冬も。毎年、同じ季節が巡ってくるけれど、その年ごとに景色は少しずつ違うでしょう?」

「……はい」

「僕たちも、きっと少しずつ変わっていくと思う。でも、そのときどきの僕たちで、また新しい景色を見られたらいいな」

蒼は、穏やかな声で続けた。

「今年の冬には今年の思い出があって、来年の冬には来年の思い出がある。何年先になっても、そうやって二人で思い出を増やしていけたら、嬉しいよ」

るなは、しばらく言葉を出せなかった。

心の中に、たくさんの景色が浮かんでくる。

春の桜並木。

夏の夜空に咲く花火。

秋の紅葉が舞う道。

そして、また冬のイルミネーション。

そのどの景色にも、蒼がいる。

隣で笑ってくれる蒼。

手をつないで歩いてくれる蒼。

るなの話を聞き、時々、優しく笑ってくれる蒼。

その姿を思い浮かべるだけで、胸が温かくなった。

「……先輩」

「うん?」

「私、今、すごく幸せです」

るなは、目を細めて笑った。

「来年の冬のことを考えているのに、もう春も夏も秋も、楽しみになっちゃいました」

「ふふっ。気が早いね」

「だって……!」

るなは、少しだけ頬を膨らませた。

「先輩が、全部一緒に過ごそうって言ってくれるからです!」

「うん。一緒に過ごしたいよ」

「……っ」

また、胸がいっぱいになる。

るなは、蒼の手を両手で包み込むように握った。

「……私もです」

小さな声だったけれど、気持ちははっきりしていた。

「来年も、その次も、その先も……。先輩と一緒に、いろんな景色を見たいです」

蒼は、優しく微笑んだ。

「うん。これからも、一緒に見よう」

その言葉を聞いて、るなはとうとう、蒼の腕にそっと寄り添った。

「……先輩、大好きです」

何度伝えても、伝え足りない気持ち。

今、この瞬間に、どうしても伝えたかった。

蒼は、るなの手を握り返し、穏やかに答えた。

「ありがとう。僕も、るなのことが大好きだよ」

るなは、幸せそうに目を閉じた。

冬の夜風は冷たかった。

けれど、つないだ手は温かい。

隣にいる人の存在が、何よりも心強かった。

*

駅へ続く道の途中で、るなはもう一度だけ、振り返った。

遠くに見えるクリスマスツリーが、夜の中で輝いている。

青い光も、白い光も、金色の光も。

少しずつ小さくなっていくけれど、確かにそこにあった。

「……先輩」

「うん?」

「あのツリー、来年も同じ場所にあるでしょうか?」

「きっと、また飾られるんじゃないかな」

「飾りも、同じですかね?」

「どうだろう。新しい飾りが増えるかもしれないし、少し違うデザインになるかもしれないね」

「そっか……」

るなは、もう一度ツリーを見つめた。

「同じ場所でも、来年は少し違う景色になるんですね」

「そうだね」

「でも……」

るなは、蒼の手を握り直した。

「先輩と一緒に見ることは、変わらないんですよね?」

蒼は、優しく笑った。

「うん。来年も、一緒に見よう」

「……はい!」

るなは、満面の笑みで頷いた。

同じツリーでも、来年は違う気持ちで見るかもしれない。

今より少し大人になっているかもしれない。

新しい思い出が増えて、今日のことを懐かしく振り返るかもしれない。

それでも、今日交わした約束を、二人で大切にしていけたら。

来年の冬も、その次の冬も。

きっと、今日とは違う光が見える。

そして、るなはその光の中で、また蒼の隣にいたいと思った。

「先輩」

「うん?」

「来年の冬、今日のことを覚えていますか?」

「もちろん」

「私たち、ここでココアを飲んだんですよ?」

「うん」

「お菓子を選ぶのに、私がすっごく悩んだんですよ?」

「そうだったね」

「それから、写真も撮りました!」

「うん。写真を見れば、きっと今日のことを思い出せるよ」

「……えへへ」

るなは、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、来年は今日の写真を見てから、ここに来ましょう!」

「いいね」

「そして、今年よりもっと素敵な写真を撮るんです!」

「うん」

「それで、また来年の写真も残して……。その次の年も、そのまた次の年も!」

るなは、指を折りながら数え始めた。

「一年目、二年目、三年目……。あっ、十年分くらい並べたら、すごく素敵じゃないですか?」

「十年分?」

「はい! 同じ場所で、毎年写真を撮るんです。そしたら、少しずつ変わっていく私たちと、毎年のイルミネーションが分かるんですよ!」

蒼は、感心したように頷いた。

「それは、いい考えだね」

「でしょう!?」

るなの顔がぱっと明るくなった。

「最初の写真は今日の写真です! 来年も撮って、再来年も撮って……。十年後に見返したら、きっと楽しいです!」

「十年後か……」

蒼は、少し遠い未来を思い描くように目を細めた。

「その頃、るなはどんなふうに笑っているんだろうね」

「えっ? どんなふうにって……」

るなは、自分の頬に触れた。

「今と同じように、笑っていると思います!」

「そう?」

「はい! だって、先輩と一緒にいると、自然に笑顔になっちゃうんですから!」

蒼は、優しく微笑んだ。

「じゃあ、十年後も、その笑顔を見られたら嬉しいな」

るなは、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

「……先輩」

「うん?」

「絶対、見せます」

そして、少しだけ照れながら続けた。

「十年後も、二十年後も……。先輩の隣で、いっぱい笑います」

蒼は、るなの手を優しく握り返した。

「うん。楽しみにしているよ」

二人は、もう一度だけ顔を見合わせた。

どちらからともなく、笑顔がこぼれた。

未来のことは、まだ分からない。

来年、どんな出来事が待っているのか。

その先の季節に、どんな景色が広がっているのか。

すべてを今、知ることはできない。

でも、一緒に見たい景色がある。

一緒に作りたい思い出がある。

そして、これからも隣にいてほしいと願う人がいる。

それだけで、未来は少しずつ明るくなっていく。

*

駅に着くと、改札の向こうから電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえてきた。

楽しい時間は、いつだってあっという間だ。

るなは、少しだけ名残惜しそうに蒼を見上げた。

「……もう、帰る時間ですね」

「そうだね」

「楽しい時間って、どうしてこんなに早いんでしょう……」

「楽しいから、かな」

「……ですよね」

るなは、小さく笑った。

もっと一緒にいたい。

でも、今日の時間は、決してなくなるわけではない。

二人で過ごした時間は、思い出として残る。

そして、次に会える日が、また新しい楽しみになる。

「先輩、今日はありがとうございました」

「こちらこそ。楽しかったよ」

「私も、すっごく楽しかったです!」

るなは、今日のことを思い返すように、ひとつずつ言葉にした。

「イルミネーションもきれいだったし、クリスマスツリーも素敵だったし、ココアもおいしかったし、お菓子もかわいかったし……」

「うん」

「それから、写真も撮れました!」

「そうだね」

「……それに、来年の約束もできました」

その言葉を口にすると、また嬉しくなった。

るなは、蒼の手をぎゅっと握った。

「……来年も、一緒に来てくださいね」

「うん。約束だよ」

「その次の年もですよ?」

「うん」

「そのまた次の年も……」

「うん。一緒に来よう」

蒼の返事は、どこまでも穏やかだった。

るなは、安心したように笑った。

「……えへへ。ありがとうございます」

少しの沈黙のあと、るなは思い切って口を開いた。

「先輩」

「うん?」

「来年の冬だけじゃなくて……。春も、夏も、秋も、一緒に過ごしたいです」

言ってしまった。

でも、もう恥ずかしさだけではなかった。

自分の気持ちを、ちゃんと伝えられたことが嬉しかった。

「桜を見に行ったり、花火を見たり、紅葉を見たり……。もちろん、おいしいものも食べに行きたいです!」

最後に大好きな食べ物の話を付け加えてしまうのは、やっぱり、るならしかった。

蒼は、笑顔で頷いた。

「うん。全部、一緒に楽しもう」

「……本当ですか?」

「本当だよ」

「……約束、ですよ?」

「約束」

蒼は、もう一度、るなの手を優しく握った。

「これからも、一緒にいろんな季節を迎えよう」

るなは、目を潤ませながら笑った。

「……はいっ!」

その一言に、たくさんの思いが込められていた。

来年も。

再来年も。

その先の未来も。

蒼の隣で、同じ季節を迎えたい。

そして、何年経っても、今日のように笑っていたい。

「先輩、大好きです」

るなは、最後にもう一度、まっすぐに伝えた。

蒼は、優しく微笑んだ。

「僕も、るなのことが大好きだよ」

その言葉を胸に抱いて、るなは改札へ向かった。

何度か振り返って手を振る。

蒼も、そのたびに笑顔で手を振り返してくれた。

改札を通り、階段を下りる直前。

るなはもう一度だけ、蒼の姿を見つめた。

大好きな人が、そこにいる。

今日、一緒に過ごした人が、そこにいる。

そして、これからも一緒に過ごそうと約束してくれた人が、そこにいる。

その事実が、何よりも嬉しかった。

るなは、胸の前でそっと手を握った。

「……また来年も」

小さく呟く。

「……ううん。来年だけじゃなくて、ずっと……」

頬が、自然と緩んだ。

「先輩と一緒に、いろんな季節を迎えたいな」

その願いは、まだ未来への小さな約束。

でも、二人で交わした言葉が、確かな一歩になった。

*

帰りの電車に揺られながら、るなはスマートフォンを取り出した。

今日撮った写真を開く。

青と白の光を背景に、寄り添って笑っている二人。

何度見ても、嬉しくなる写真だった。

「……えへへ」

るなは、思わず笑みをこぼした。

そして、写真をお気に入りに登録した。

今日の思い出を、忘れないように。

来年、この写真を見返したとき、今日のことを思い出せるように。

寒かった夜の空気。

蒼の温かな手。

クリスマスツリーの輝き。

ココアの甘い香り。

そして、「また来年も、一緒に来よう」という約束。

全部、大切にしたい。

るなは、スマートフォンを胸元にそっと寄せた。

「……先輩」

心の中で、もう一度名前を呼ぶ。

出会ったばかりの頃は、こんな未来を想像していなかった。

ただ、もう一度会いたいと思った。

彼の描く絵を、もう一度見たいと思った。

もっと話してみたい。

もっと知りたい。

そして、気づけば、隣にいたいと願うようになっていた。

夏の花火を一緒に見た。

秋の景色を一緒に歩いた。

冬のイルミネーションを一緒に眺めた。

季節が巡るたびに、二人の思い出は増えていった。

そして今、るなは次の季節を楽しみにしている。

春の桜を見たら、きっと先輩に伝えたい。

夏の花火が上がったら、隣で一緒に笑いたい。

秋の紅葉が舞ったら、二人でゆっくり歩きたい。

冬の光が灯ったら、また手をつないで見上げたい。

そのどれもが、まだ見ぬ未来の景色だった。

でも、不思議と不安はなかった。

未来が分からなくても、今、二人で約束を交わせたから。

少しずつでいい。

一つずつでいい。

二人で季節を迎え、そのたびに思い出を増やしていけばいい。

「……来年も、その次も……」

るなは、窓の外に流れていく街の明かりを眺めた。

「……先輩の隣で、笑っていたいな」

窓ガラスに映った自分の顔は、幸せそうに微笑んでいた。

まるで、蒼が描いてくれたあの絵の中の自分のように。

でも、今の笑顔は、絵の中だけのものではない。

大好きな人と出会い、恋をして、たくさんの思い出を重ねてきたからこそ生まれた、本当の笑顔だった。

るなは、そっと目を閉じた。

心の中には、まだイルミネーションの光が輝いている。

今年の冬の光。

二人で見上げたクリスマスツリー。

つないだ手の温かさ。

そして、来年も一緒に来ようという約束。

その光は、夜が明けても消えない。

クリスマスが過ぎても、街の飾りがなくなっても、るなの心の中に残り続ける。

やがて春が来る。

新しい季節が始まる。

景色は変わり、風の匂いも変わり、木々の色も変わっていく。

それでも、変わらないものがある。

蒼を大好きだと思う気持ち。

蒼と一緒にいたいと願う気持ち。

そして、これからも二人で歩いていきたいという願い。

るなは、胸の中で小さく約束した。

来年も、また来よう。

その次の年も、また来よう。

何年経っても、何度季節が巡っても。

大好きな人と、同じ光を見上げよう。

そのときには、今日のことを笑いながら話したい。

初めてこの約束をした日のこと。

ココアを飲んだこと。

お菓子を選ぶのに悩んだこと。

そして、二人で撮った一枚の写真のこと。

きっと、懐かしくて、温かくて、幸せな気持ちになるだろう。

その未来を想像するだけで、るなの心は明るくなった。

冬のイルミネーションは、いつか消える。

でも、二人で交わした約束は、消えない。

今日の光は、来年へと続いていく。

来年の光は、その先の季節へと続いていく。

そして、その光の先には、まだ二人が知らない景色が待っている。

るなは、そっと微笑んだ。

「……また来年も、一緒に見ようね。先輩」

小さな声は、電車の走る音に溶けていった。

けれど、その願いは、確かにるなの胸の中に残った。

次の季節へ。

そのまた次の季節へ。

二人の恋の光は、これからもゆっくりと続いていく。

来年も。

その先も。

何度、冬が巡ってきても。

大好きな人と一緒に、同じ光を見上げられますように。

そう願いながら、るなは今日の写真を、もう一度だけ見つめた。

画面の中で笑う二人の姿が、冬の夜に輝く小さな星のように見えた。

その星は、まだ見ぬ未来を優しく照らしていた。

そして、るなの心には、もう一つの言葉が浮かんでいた。

「また来年も」

それは、ただ冬のイルミネーションを見るためだけの約束ではない。

これからも一緒に笑い、同じ景色を見つめ、何気ない日々を大切にしていこうという、二人の未来への約束だった。

今年の冬色の思い出は、ここで終わる。

けれど、二人の物語は終わらない。

春には春の光がある。

夏には夏の輝きがある。

秋には秋の優しさがある。

そして、また冬が来たら――。

二人はきっと、手をつないで、あのイルミネーションを見上げるだろう。

そのとき、今日より少し大人になった二人が、どんな顔で笑っているのか。

どんな思い出を振り返り、どんな未来を語り合うのか。

今はまだ、誰にも分からない。

それでも、ひとつだけ確かなことがある。

るなは、これからも蒼の隣で、たくさんの季節を迎えたい。

そして蒼もまた、るなと一緒に、これからの景色を見たいと願っている。

二人の想いは、同じ未来へ向かっていた。

冬の夜空に、星が静かに輝いている。

その光のように、二人の恋も、これから先の季節を照らし続けていく。

また来年も。

その先も、ずっと。

二人で見上げる光が、いつまでも優しく輝きますように。
 

第5節「冬色メモリーズ」

冬の夜空は、澄んでいた。

街を包む冷たい空気の中、駅前の大きなクリスマスツリーが、白や金色の光をまとって輝いている。

街路樹に飾られたイルミネーションは、まるで地上に降りてきた星のようだった。

歩道を行き交う人々の笑顔。

手をつないで歩く恋人たち。

クリスマスプレゼントの袋を大切そうに抱える人。

誰かを待ちながら、スマートフォンを見つめる人。

それぞれの人が、それぞれの思いを胸に、この冬の夜を過ごしている。

星野るなは、少し離れた場所から、そんな景色を眺めていた。

「……きれい」

小さな声が、自然とこぼれた。

目の前に広がる光は、何度見ても飽きることがない。

夏の夜空に咲く花火とは違う。

秋の夕暮れに染まる紅葉とも違う。

冬のイルミネーションには、静かに心を包み込むような温かさがあった。

派手に弾けるわけではない。

強く主張するわけでもない。

ただ、そこに在り続ける。

暗い夜道を優しく照らし、寒さに縮こまった心を、そっと温めてくれる。

るなは、白いコートのポケットからスマートフォンを取り出した。

画面には、先日、蒼と一緒に撮った写真が表示されている。

青と白の光を背景に、寄り添って笑う二人。

少し照れた自分の表情。

隣で優しく微笑む蒼。

その一枚を見つめるだけで、あの日のことが鮮やかによみがえってくる。

待ち合わせ場所で、蒼が自分を見つけて笑ってくれたこと。

一緒にイルミネーションを眺めたこと。

クリスマスマーケットで、どのお菓子を買おうか真剣に悩んだこと。

温かいココアを飲みながら、何でもない話をしたこと。

そして――。

『来年も、一緒に冬のイルミネーションを見よう』

蒼が、そう約束してくれたこと。

「……えへへ」

るなは、思わず頬を緩めた。

「来年も、かあ……」

たった一言。

けれど、その一言には、たくさんの未来が詰まっているような気がした。

来年も一緒に。

その次の年も。

もっと先の冬も。

同じ景色を見ながら、隣で笑っていたい。

そんな願いが、今のるなの心には自然に浮かんでくる。

少し前の自分なら、こんなふうに未来のことを考えられただろうか。

蒼と出会ったばかりの頃。

彼の描いた絵に心を奪われ、もう一度会いたいと願っていた頃。

ただ会えただけで嬉しくて、少し話せただけで胸がいっぱいになっていた頃。

あの頃の自分に、今の自分を見せてあげたい。

大好きな人と手をつなぎ、冬のイルミネーションを眺めながら、来年の約束を交わしているのだと。

きっと、驚いてしまうだろう。

そして、顔を真っ赤にして、こう言うに違いない。

――ええっ!? 私、そんなに幸せになっちゃっていいの!?

「……ふふっ」

るなは、小さく笑った。

胸の中に、温かな光が灯っている。

その光は、イルミネーションのように、静かに、優しく輝いていた。

*

思い返せば、この一年も、たくさんの出来事があった。

嬉しかったこと。

楽しかったこと。

少しだけ寂しかったこと。

そして、何度も胸がときめいたこと。

そのすべてが、今のるなを作っている。

るなは、スマートフォンの写真フォルダを開いた。

そこには、季節ごとの思い出が並んでいる。

夏の花火。

秋の紅葉。

月の光に照らされた夜。

友達と笑い合った日。

おいしいものを見つけて、思わず写真を撮った日。

そして、蒼と一緒に過ごした、かけがえのない時間。

「……いっぱいあるなあ」

写真を一枚ずつ眺めながら、るなは呟いた。

最初に目に留まったのは、夏の花火の写真だった。

夜空いっぱいに広がる、鮮やかな光。

赤、青、金色。

大きな花火が弾けるたび、周囲から歓声が上がっていた。

その夜のことを思い出すと、今でも胸が弾む。

蒼と一緒に見上げた花火。

夜風に揺れる浴衣の袖。

屋台から漂う、おいしそうな匂い。

そして、いちご飴を手にしたときの、あの幸せな気持ち。

……いや、いちご飴はいつだって幸せなのだけれど。

「いちご飴……また食べたいなあ」

思わず、そんな言葉が口から出た。

るなは慌てて周囲を見回した。

誰も聞いていない。

よかった。

もし蒼が隣にいたら、きっと笑いながら言うだろう。

『るなは、思い出の中でも食べ物を見つけるのが上手だね』

そして、自分はきっとこう答えるのだ。

『だって、おいしいものは大切な思い出の一部なんです!』

……うん。

これは、間違いなく言う。

るなは、ひとりで納得した。

けれど、写真を見つめる表情は、少しずつ柔らかくなっていった。

夏の思い出は、いつだって胸を弾ませてくれる。

あの頃の恋は、まるで花火のようだった。

蒼の姿を見つけるだけで、心がぱっと明るくなる。

手が触れただけで、胸の中に大きな花火が打ち上がる。

名前を呼ばれるだけで、顔が熱くなってしまう。

嬉しい気持ちが、抑えきれないほど弾けていた。

好き。

大好き。

もっと一緒にいたい。

もっと話したい。

もっと、蒼のことを知りたい。

そんな気持ちが、次から次へとあふれていた。

花火が夜空に咲くように、恋心もまた、るなの胸の中で鮮やかに広がっていった。

あの夏があったから、今がある。

あのときのときめきがあったから、もっと蒼のそばにいたいと思うようになった。

そして、今。

あの夏とは、少し違う気持ちで、蒼のことを思っている。

会いたい気持ちは変わらない。

好きだという気持ちも、変わらない。

でも、以前よりもずっと、安心して隣にいられるようになった。

何か特別なことがなくても。

大きな出来事がなくても。

ただ一緒に歩いて、同じ景色を見て、何気ない話をしているだけで、幸せだと思えるようになった。

「……私、変わったのかな」

るなは、花火の写真を見つめながら呟いた。

けれど、すぐに小さく首を振った。

「ううん。変わったところもあるけど……変わらないところも、あるよね」

今でも、蒼を見ると胸がときめく。

今でも、優しい言葉をかけられると顔が赤くなる。

今でも、手をつないで歩くと、嬉しくてたまらなくなる。

あの夏の自分と、今の自分。

少しずつ変わっているけれど、根っこの部分は、きっと同じだ。

大好きな人と一緒にいたい。

その気持ちは、今も変わらず、胸の中で輝いている。

*

次の写真は、秋の紅葉だった。

赤や橙、黄色に染まった木々。

風が吹くたび、葉がひらひらと舞い落ちていく。

夏の花火のような、眩しいほどの華やかさとは違う。

秋の景色には、落ち着いた美しさがあった。

少しずつ深まっていく色。

ゆっくりと変わっていく空気。

そして、隣にいる人と、何も急がずに過ごす時間。

るなは、その写真を見ながら、蒼と歩いた秋の日を思い出した。

並木道を歩きながら、紅葉を眺めたこと。

落ち葉を踏む音を聞きながら、何でもない話をしたこと。

途中で見つけたカフェに立ち寄り、温かい飲み物を飲んだこと。

そして、メニューにモンブランを見つけて、思わず目を輝かせたこと。

「……モンブランも、おいしかったなあ」

るなは、しみじみと呟いた。

やっぱり、食べ物の思い出は強い。

けれど、秋の思い出で本当に心に残っているのは、おいしいものだけではなかった。

蒼と一緒に歩く時間が、以前よりも自然になっていたこと。

無理に話題を探さなくても、沈黙が怖くなくなっていたこと。

蒼が何かを見つめているとき、隣で同じ景色を眺めながら、その気持ちを想像できるようになったこと。

彼の絵に惹かれた理由も、少しずつ分かるようになってきた。

蒼は、ただきれいなものを描く人ではない。

その景色を見ている人の気持ちまで、大切にしようとする人だった。

楽しそうな表情。

誰かを思う優しいまなざし。

大切な人と一緒にいるときの、穏やかな笑顔。

そういうものを、彼は絵の中に残そうとする。

だからこそ、るなは蒼の絵を見るたび、心が温かくなるのだろう。

そして、いつしか気づいた。

自分もまた、蒼が見つめる世界の一部になっていたのだと。

彼のスケッチブックの中に、自分の姿が描かれていたとき。

イルミネーションの中で笑う自分を見たとき。

その絵の中の自分が、あまりにも幸せそうだったから。

恥ずかしかった。

でも、それ以上に嬉しかった。

蒼の目に、自分はこんなふうに映っているのだと知ることができたから。

そして、蒼が自分の笑顔を大切にしてくれていることを、知ることができたから。

「……先輩の絵、また見たいな」

るなは、写真を見つめながら微笑んだ。

きっと、これからも蒼は絵を描き続ける。

新しい景色を見つけ、その景色の中にある光を描き続けるのだろう。

その隣で、自分も一緒に景色を見ていたい。

彼が見つけた光を、自分も見つけたい。

そして、いつか自分も、彼が見ている世界を少しでも理解できるようになれたら。

そんな願いが、胸の中に静かに広がっていた。

秋の恋は、紅葉のように深まっていった。

夏のように、ただ気持ちが弾けるだけではない。

相手を知り、相手の気持ちを考え、隣にいることの意味を知っていく。

好きだからこそ、相手の大切にしているものも大切にしたくなる。

相手が見ている景色を、一緒に見てみたくなる。

そうやって、恋は少しずつ深くなっていくのだと、るなは知った。

「……夏は花火で、秋は紅葉かあ」

るなは、ひとりで呟いた。

「じゃあ、冬は……」

視線を上げる。

目の前で、イルミネーションが静かに輝いていた。

「……やっぱり、光だね」

夏の恋は、花火のように弾けた。

秋の恋は、紅葉のように深まった。

そして冬の恋は――。

イルミネーションのように、静かに輝き続けている。

*

冬の思い出を振り返ると、どうしても、あの日のことを思い出してしまう。

るなは、写真フォルダを少し遡った。

今の自分と蒼が並んでいる写真ではない。

もっと前。

まだ二人が恋人同士ではなかった頃。

るなが、蒼のことを「先輩」と呼ぶようになる前のこと。

そして、二人が初めて出会った日のことだった。

あの日、るなは、親友の白雪ひかりと、ひかりの好きな朝比奈透先輩のことを応援していた。

二人がゆっくり話せる時間を作ろうと、るなは自分から少し離れることにした。

向かった先は、屋台の並ぶ場所。

目当ては、もちろん――。

「いちご飴!」

るなは、思わず小さな声を上げた。

……そう。

あの日も、いちご飴だった。

今思い返しても、自分らしい選択だったと思う。

友達の恋を応援するために離れたはずなのに、途中でいちご飴に夢中になってしまう。

そして、急いで歩いていたところで、誰かとぶつかってしまった。

散らばるスケッチブック。

慌てて謝る自分。

そして、目の前にいた、少し驚いた表情の青年。

あれが、桐生蒼との最初の出会いだった。

あのときのるなは、まだ知らなかった。

目の前の青年が、のちに自分の大好きな人になることを。

彼の描いた絵が、自分の心を大きく動かすことを。

そして、その出会いが、何年先までも大切にしたい思い出になることを。

ただ、散らばってしまったスケッチブックを拾い、何度も謝った。

そのとき、目に入った一枚の絵。

夜のイルミネーション。

光に包まれた街。

その中に描かれた、誰かの優しい表情。

るなは、思わず足を止めた。

きれいだった。

ただ光が描かれているだけではなかった。

その景色の中にいる人たちの気持ちまで、伝わってくるような絵だった。

光を見つめる人の、幸せそうな顔。

誰かと一緒にいることを喜ぶような、穏やかな雰囲気。

まるで、その場にいる人たちの心まで、絵の中に描かれているようだった。

るなは、絵から目を離せなかった。

そして、思わず尋ねた。

『……この絵、あなたが描いたんですか?』

青年は、少し驚いたように頷いた。

『うん。そうだよ』

それが、最初の会話だった。

短い言葉。

ほんの少しの時間。

それなのに、るなの心には、あの絵がずっと残っていた。

もう一度見たい。

もう一度、あの絵を描いた人に会いたい。

そんな思いが、いつの間にか胸の中に生まれていた。

そして後日、街の小さな画材店で、偶然再会した。

あのときは、るなから声をかけた。

もう一度絵を見せてもらいたいと思ったから。

ちゃんと謝りたかったから。

そして、ほんの少しでも、あの人のことを知りたいと思ったから。

その再会が、二人の距離を少しずつ近づけていった。

あのときは、まだ恋だと分かっていなかった。

ただ、気になる人だった。

絵が好きだった。

もっと話してみたい人だった。

けれど、何度か会い、言葉を交わし、一緒に景色を見るようになって。

気づけば、彼が笑うだけで嬉しくなっていた。

彼に名前を呼ばれると、胸が高鳴るようになっていた。

彼の隣にいると、もっと一緒にいたいと思うようになっていた。

それが恋なのだと、るなは少しずつ知っていった。

「……あの日、いちご飴を買いに行かなかったら」

るなは、静かに呟いた。

もし、あの日。

いちご飴を買いに行かなかったら。

急いで歩いて、蒼とぶつかることもなかったかもしれない。

散らばったスケッチブックを拾うこともなかったかもしれない。

あの絵に出会うこともなかったかもしれない。

そう考えると、少し不思議な気持ちになる。

ほんの小さな出来事だった。

いちご飴を買いに行く。

誰かとぶつかる。

絵を見る。

言葉を交わす。

どれも、人生を大きく変えるような出来事には見えなかった。

でも、その小さな出来事が、今につながっている。

あの日の自分が、いちご飴を買いに行ったから。

あの日、蒼の絵に出会ったから。

あの日、もう一度会いたいと思ったから。

今の自分が、ここにいる。

大好きな人と出会い、恋をして、冬のイルミネーションを一緒に眺めながら、来年の約束を交わしている。

その事実が、何よりも大切だった。

「……いちご飴って、すごいね」

るなは、ぽつりと呟いた。

……いや。

いちご飴そのものが、恋を運んできたというより。

あの日、自分が選んだ小さな行動が、思いがけない出会いにつながったのだろう。

それでも、るなにとって、いちご飴は特別な存在になってしまった。

だって、あの日がなければ、今の自分はいなかったかもしれないのだから。

「……今度、先輩といちご飴を食べよう」

るなは、笑顔で呟いた。

「そのときに、あの日の話も、もう一度しよう」

きっと蒼は、笑いながら聞いてくれるだろう。

そして、こう言うかもしれない。

『あの日、るながいちご飴に夢中だったから、出会えたのかもしれないね』

そう言われたら、るなはきっと胸を張って答える。

『はいっ! いちご飴は、恋のキューピッドだったんです!』

……なんて。

「ふふっ」

想像しただけで、笑みがこぼれた。

出会いは、思いがけないところにある。

何気ない日常の中に、未来を変える瞬間が隠れていることもある。

あの日のるなは、それを知らなかった。

ただ、自分の好きなものを追いかけていただけだった。

でも、その先に、大切な人との出会いが待っていた。

だから、今なら思える。

あの日の自分に、ありがとうと。

いちご飴に夢中になってくれて、ありがとう。

ちゃんと謝ってくれて、ありがとう。

絵に心を動かされて、もう一度会いたいと思ってくれて、ありがとう。

その小さな一歩が、今の幸せにつながっているのだから。

*

るなは、スマートフォンを胸元に抱きしめた。

目の前には、冬のイルミネーション。

その光は、夏の花火のように大きく弾けるわけではない。

秋の紅葉のように、鮮やかに色を変えるわけでもない。

ただ、静かに輝いている。

暗い夜の中で、消えることなく。

そっと、優しく。

るなは、その光を見つめながら、心の中で季節を巡った。

夏。

夜空に咲く花火を見上げながら、胸を弾ませた季節。

蒼の隣にいるだけで嬉しくて、手をつなぐだけで心臓が跳ねていた。

恋をすることが、こんなにも楽しいのだと知った季節。

秋。

紅葉が色づく景色の中で、蒼の優しさをもっと深く知った季節。

同じ景色を見て、同じ時間を過ごすことが、どれほど温かいのかを知った季節。

そして、冬。

イルミネーションの光に包まれながら、これから先の未来を想像できるようになった季節。

来年も、その次も。

また一緒に、この光を見たい。

そんな願いを、自然に抱けるようになった季節。

季節が巡るたび、恋の形も少しずつ変わっていった。

最初は、会えるだけで嬉しかった。

次は、もっと知りたいと思った。

その次は、相手の大切なものも大切にしたいと思った。

そして今は、これから先の景色も、一緒に見ていきたいと思っている。

恋は、ずっと同じ形ではないのかもしれない。

ときめきが強くなる日もある。

安心して、隣にいることが自然になる日もある。

相手の言葉に胸がいっぱいになる日もあれば、何も言わずに一緒に過ごすだけで満たされる日もある。

けれど、そのどれもが、恋の大切な一部なのだろう。

夏の花火のような、ときめき。

秋の紅葉のような、深まり。

冬のイルミネーションのような、静かな輝き。

るなの恋は、そのすべてを抱きしめながら、少しずつ未来へ進んでいる。

「……先輩に出会えて、よかった」

気づけば、そんな言葉がこぼれていた。

とても小さな声だった。

誰かに聞かせるつもりはなかった。

ただ、胸の中にいっぱいになった気持ちが、自然に言葉になっただけだった。

「何か言った?」

すぐ隣から、聞き慣れた声がした。

「……っ!?」

るなは、びくっと肩を揺らした。

顔を上げると、そこには蒼が立っていた。

「せ、先輩!?」

「うん。さっき、忘れ物がないか確認していたら、るなの姿が見えたから」

「えっ? あっ……!」

るなは、慌ててスマートフォンを握り直した。

どうやら、電車に乗る前に蒼と別れたあと、少しだけイルミネーションを見てから帰ろうと、この場所に立ち寄っていたらしい。

そして、写真を見ながら思い出に浸っているうちに、すっかり時間を忘れてしまっていた。

「……えっと、その……」

蒼は、少し不思議そうに首を傾げた。

「何か、考え事?」

「い、いえ! 何でもないです!」

「そう?」

「はいっ!」

るなは、勢いよく頷いた。

けれど、蒼は優しく笑いながら、もう一度尋ねた。

「でも、何か言っていたように聞こえたけど」

「そ、それは……!」

るなの頬が、みるみる赤くなっていく。

だって。

今の言葉は。

自分にとって、とても大切な言葉だったから。

蒼に直接伝えたい気持ちでもあったけれど、いざ聞かれたと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。

「……秘密です♡」

るなは、顔を赤くしたまま、にっこり笑った。

蒼は一瞬きょとんとしたあと、柔らかく微笑んだ。

「そっか。秘密か」

「はいっ。乙女の秘密です!」

「ふふっ。じゃあ、無理に聞かないでおくよ」

「……ありがとうございます」

るなは、ほっと胸を撫で下ろした。

でも、蒼はそのまま、るなの隣に並んだ。

「もう少し、見ていく?」

「……はい!」

二人は、並んでイルミネーションを見上げた。

さっきまで一人で眺めていた光が、今は隣に蒼がいることで、また違った輝きを持って見えた。

「きれいですね、先輩」

「うん。きれいだね」

「……来年も、ここに来ましょうね」

「うん。約束したからね」

蒼は、そっと手を差し出した。

るなは、その手を見つめたあと、嬉しそうに握り返した。

温かな手。

何度もつないできた手。

これからも、つないでいたい手。

るなは、その手をぎゅっと握った。

そして、今度は心の中だけではなく、ちゃんと声にして伝えた。

「……先輩、大好きです」

蒼は、少し驚いたように目を瞬かせた。

けれど、すぐに、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。

「ありがとう。僕も、るなのことが大好きだよ」

その言葉を聞いた瞬間、るなの胸の中で、また小さな花火が弾けた。

夏の花火のように、鮮やかに。

秋の紅葉のように、温かく。

そして冬のイルミネーションのように、静かに輝き続ける。

るなは、蒼の隣で笑った。

これからも、きっと、いろんなことがあるだろう。

嬉しい日も。

少し寂しい日も。

思い通りにいかない日も。

でも、そんな日々の中で、二人で笑い合い、支え合い、同じ景色を見つめることができたら。

それだけで、未来はきっと温かいものになる。

春には桜を。

夏には花火を。

秋には紅葉を。

冬にはイルミネーションを。

そして、その季節ごとに、新しい思い出を。

るなは、蒼の手を握りながら、そっと未来を思い描いた。

十年後も。

二十年後も。

同じ場所で写真を撮って、今日のことを懐かしく振り返って。

あのとき、こんな約束をしたねと笑い合えたら。

そんな未来が訪れたら、どんなに幸せだろう。

今はまだ、先のことは分からない。

でも、未来を願うことはできる。

大好きな人と、これからも一緒にいたい。

その気持ちを、少しずつ大切に育てていくことはできる。

だから、るなは今日も、心の中で願う。

来年も、その先も。

大好きな人と一緒に、たくさんの季節を迎えられますように。

そして、何年経っても、隣で笑っていられますように。

*

夜空には、星が輝いていた。

街の光がどれほど明るくても、星の光は、変わらずそこにある。

そして、冬のイルミネーションもまた、静かに輝き続けていた。

やがてクリスマスが過ぎれば、街の飾りは片づけられていくだろう。

ツリーも、光のアーチも、今夜の景色も、いつかは姿を変える。

でも、二人で過ごした時間は、消えてしまうわけではない。

写真の中に。

心の中に。

そして、ふとした瞬間に思い出す、小さな笑顔の中に。

確かに残り続ける。

夏の花火のように弾けた恋。

秋の紅葉のように深まった恋。

冬のイルミネーションのように、静かに輝き続ける恋。

そのすべてが、今の二人につながっている。

あの日、いちご飴を買いに行かなかったら。

あの日、蒼の絵に出会わなかったら。

あの日、もう一度会いたいと思わなかったら。

今のるなは、ここにいなかったのかもしれない。

でも、あの日の小さな出来事が、今の幸せにつながっている。

だから、るなは思う。

偶然のように見える出会いも。

何気ない日常の中にある小さな出来事も。

もしかしたら、未来へと続く大切な光なのかもしれない。

いちご飴を買いに行ったこと。

蒼の絵に心を奪われたこと。

もう一度会いたいと願ったこと。

そのひとつひとつが、今の自分をここまで連れてきてくれた。

そして今、隣には、大好きな人がいる。

同じ景色を見て、同じ時間を過ごし、来年も一緒に来ようと約束してくれた人がいる。

それだけで、るなの心は満たされていた。

「……先輩」

「うん?」

「来年の冬も、絶対に一緒に来ましょうね」

蒼は、優しく微笑んだ。

「うん。絶対に」

「……その先も、ですよ?」

「うん。その先も」

るなは、満面の笑みを浮かべた。

「……えへへ。約束です♡」

二人は、もう一度、イルミネーションを見上げた。

光は、夜空の下で静かに輝いている。

今夜の思い出は、やがて過去になる。

でも、その思い出は、未来へとつながっていく。

来年の冬。

その次の冬。

まだ見ぬ春も、夏も、秋も。

これから訪れる季節の中で、二人はきっと、また新しい光を見つけるだろう。

そのたびに、今日のことを思い出すかもしれない。

冬のイルミネーションの下で交わした約束。

手をつないで歩いた夜道。

そして、心の中でそっと呟いた、あの言葉。

――先輩に出会えて、よかった。

それは、るなの中にある、何よりも大切な気持ち。

誰かに見せるための言葉ではない。

特別な日にだけ伝える言葉でもない。

ただ、蒼と出会い、恋をして、今ここにいる自分だからこそ、心から思える言葉だった。

冬の光は、今日も静かに輝いている。

そして、その光は、次の季節へと続いていく。

夏の花火のようなときめきも。

秋の紅葉のような深まりも。

冬のイルミネーションのような温もりも。

すべてを抱きしめながら、二人の恋は、これからもゆっくりと歩いていく。

来年も。

その先も。

いつか、今日の写真を懐かしく見返す日が来ても。

そのときも、二人が笑顔でいられますように。

そして、また新しい季節を、一緒に迎えられますように。

るなは、蒼の手をぎゅっと握った。

蒼も、優しく握り返してくれた。

二人の間に、言葉は必要なかった。

ただ、隣にいる。

同じ光を見上げる。

そして、同じ未来を少しずつ思い描いていく。

その時間こそが、二人にとっての幸せだった。

冬の夜空に、星が瞬く。

街のイルミネーションが、優しく二人を照らす。

その光の中で、るなは笑った。

これからも、ずっと。

大好きな人と、一緒に。

冬の光は、終わりではない。

次の季節へと続いていく、二人の恋の道しるべ。

そして、いつかまた冬が巡ってきたら――。

二人はきっと、同じ場所で、同じように手をつないで、イルミネーションを見上げるだろう。

そのときには、今年よりもっと素敵な写真を撮って。

今年よりもっとたくさんの思い出を胸に抱いて。

そして、今年と変わらない笑顔で、こう言うのだ。

「……また来年も、一緒に見ようね」

その約束が、これから先も、何度でも続いていきますように。

冬色の思い出は、二人の胸の中で、静かに輝き続けていた。

第4部・冬編「恋のイルミネーション☆冬色メモリーズ」 完 ❄️✨💗

-オリジナル小説, 恋愛